旅行中撮影してきたビデオを家族がテレビに映して見ています。画面には大きく俊介くんの顔。カメラがちょっと引くと、となりに真士(まさと)ちゃんの顔が出て、「ツーショット」(2 ショット)になります。更に下がると、この二人が窓から外を眺めていることがわかります。カメラがもっと引きます。
あ、これは新幹線の窓です。さらにカメラが走る新幹線を追います。列車は橋を渡り、新緑の森に隠れます。家庭で簡単に動く映像が記録できるようになり、こんな操作もごく普通に出来ます。ちなみに、俊介くんの顔の大写しから、カメラが後ろに引いてより広い範囲を撮影する操作は、「ズーム・アウト」(zoom out)または「ズーム・バック」(zoom back)と言います。また動く映像を追いかけてカメラが動く操作は「パン」(pan)と呼ばれます。ただし、「ズーム」が出来るためには、カメラに「ズーム・レンズ」がついていなければなりません。私がテレビ番組を担当し始めた頃には、このズーム・レンズがありませんでした。添付の絵の右下にあるように、カメラにはレンズが3本ついており、カメラマンはこれを回転させて選択し、巧みに使い分けていました。ということは、映像カメラが撮影している最中にレンズを回すことはできませんから、別のカメラが違う大きさの映像を撮影し、技術デイレクターがスイッチを押して映像を切り替えるという仕組みです。つまり、技術的に「出来る・出来ない」は、映像作りに密接な影響を及ぼすことになるのです。私の勉強は、こんなところから始まりました。
4月に番組を開始して3ヶ月目、教材にあるラフカディオ・ハーンの「むじな」(Lafcadio Hearn: Mujina)の収録をすることになりました。はて、どんな映像を作ったらよいか、デイレクターとの協議です。もちろん一番簡単なのは、テキストの文を画面に提示して説明するという方法です。これは避けたい。次は、ストーリーを「絵」にする方法。「動きが欲しい」と私は思いました。絵には「動き」がありません。「アニメーションていう手もあるんですけどねェ」とデイレクター。「でも、制作に時間がかかるし、そんなに制作費も出せません」。結局、二つの選択肢ーー影絵とギニョール(人形劇)ーの中から、影絵を選ぶことで決着しました。私は人形劇にこだわり、「一度人形を作ってくれれば、それを前提にしてストーリーやドラマを書く」と提案しましたが、調べてみると、人形制作にも「時間とお金」という問題があることが分かり、影絵で妥協することになりました。「むじな」は幽霊話です。紀伊国坂でむじなが通行人を驚かすという民話。屋台の蕎麦売りが顔をつるりとなでると、突然顔が「ノッペラボウ」になるーーここでストーリーは終わりなのですが、私は「ジャーン」という半鐘の音をかぶせるように音楽担当者にお願いしました。話の途中で「ヒュー・ドロドロ」という幽霊話特有の音響効果ではなく、最後に突然聞こえる半鐘が予想以上の効果を発揮して大満足。でも、放送が終わってから多数の投書。「英語番組で怖い話なんかやるな!」苦心したのに、私はケションとなりました。
[訂正] 1.上の絵にある turret tyep は、turret type の誤りです。 2.右のテキスト、一行目の Jnne 12 は、June 12 の間違いです。40年以上前に出版されたテキストにミス プリントが見つかったのには、ただ驚きました。



