Archive for 10月, 2015

中教審の「第2期(2013~17)教育基本計画」の答申(2013年4月)を受けて、文科省はこれからの社会を「自立・創造・協働」という3つのキーワードによってその方向性を示し、行政の立場からそれに向かって教育を推進して行こうとしています。最初の2つのキーワードについては前々回、前回の2回にわたって述べましたので、今回は3番目の「協働」を取り上げます。「協働」は最近になって広く使われ出した用語なので、あまりなじみがないとおっしゃる方もあるかと思います。そこでその定義から始めます。

まず「協働」は英語の ‘collaboration’ に相当します。この英語は ‘co+labor’ の形から推察できるように、 ‘working together’ を意味します。これに類似した語に ‘cooperation’ というのがあり、多くの英和辞書は両者に「共同」「協同」「協力」「協調」などの訳語を与えています。辞書の中には、少数ですが「協働」という訳語を出しているものもあります。日本において「協働」が「共同」や「協同」と区別して頻繁に使われ出したのは、ここ20年くらいのことのようです。ではどのような必要から「共同」や「協同」と区別して「協働」が使われるようになったのか、その詳しい経緯にいては専門家の論考に委ねることにして(注1)、ここでは外国語の学びの場において、「協働」(または「協同」など)がどのように使われているかを見てみます。

実は外国語教育の分野では、 ‘collaborative learning’ と ‘cooperative learning’ とはほとんど区別せずに使われています(注2)。いずれも「学習者が小グループで共に進める学習形態」を意味します。その違いは、前者が後者よりも広い意味を表わし、後者はグループの学習者による協調的活動が強調されることです。 最初の ‘collaborative learning’ には学習者同士が協調的でない場合も含まれます。たとえば、互いに異なる意見を持つ学習者が集まって、結論を得ることが難しい課題に取り組む場面では、協調的な活動が難しい場合があります。そこでは、おそらく侃々諤々の議論がなされ、単一の結論が得られないこともあります。しかし実社会では、そういう人たちの集まりであっても、なんとか一致点を見出して一つの大きなタスクを遂行することが求められることがあります。‘collaborative learning’ の訳語としての「協働」には、そのようなケースが含まれます。

これに対してもう一方の ‘cooperative learning’ には、そのような活動はほとんど含まれません。グループのメンバーは、互いに協力して一つのタスクを遂行することが求められます。「タスク」とは「課題」のことです。したがって、英語の学習場面でのグループ活動の多くは ‘cooperative learning’ です。そのような活動も文科省の言う「協働」の中に含むことはできますが、英語の学びと教育のコンテクストでは、むしろ「協同」や「共同」のほうが普通であり、一般の教師たちにはなじみ深いのではないかと思います(注3)

最近、『言語はどのように学ばれるか―外国語学習・教育に生かす第二言語習得論』という翻訳書(注4)を読んでいましたら、その中に「協働対話」という用語が使われていることに気がつきました。これは英語の ‘collaborative dialogue’ の訳語で、もともとは、カナダのバイリンガリズム研究者として知られるスウェイン(Swain, M)らの作った用語のようです(注5)。訳書の中には次のような定義が示されています。

協働対話(collaborative dialogue):問題の解決、たとえば聞いたばかりのストーリーを再構築する、などのために、作業を共にする学習者の間に交わされる会話。焦点はタスクにあるが、学習者はタスク完遂に必要な言語の要素に注意を向けることもある。(上記翻訳書233頁)

上記の定義について少しばかり説明を加えます。「協働対話」というのは、簡単に言うと、「複数の学習者が、ある問題を解決するために、作業を進めるなかで交わされる対話・会話」のことです。「焦点はタスクにある」と述べているように、問題の解決はタスクを遂行することにあります。対話はタスクを進行させるための手段に過ぎません。手段ではありますが、外国語の授業ではタスクの遂行と同様に、その遂行の途上で行われる対話や会話もまた重要な意味を持ちます。なぜなら、タスクは教師から与えられた当面の課題であって、学習者にとってそれほど重要な意味を持たない場合があるからです。上記の定義の後半にあるように、学習者がタスクを遂行するためには、タスクの種類によっては(たとえば書く作業を含むタスクなど)、言葉の意味だけではなく、言葉の形式(つまり語の使い方や文法規則など)にも注意を払う必要があります。

では、上のような協働対話(または協働学習)が活発になされるためには、どのようなタスクが考えられるでしょうか。このことは最近のコミュニカティブ・アプローチ(communicative approach)を研究する人たちによって、いろいろなタスクが工夫されています。学校で英語を教える先生方は、文科省の言う「協働」という用語にいたずらに惑わされることなく、これまでになされた「クループ活動」や「協同学習」の先駆的研究の蓄積の中から、適当と思われる言語活動をいくつか選定し、それらを自分の授業で実践してみて、順次自分のものとしていくように心掛けていくのがよいかと筆者は考えます。次回には、グループで行う協働(協同)学習に使えるいくつかのタスクを挙げてみたいと考えています。

(注1「協働」という用語が使われるようになった経緯については、法政大学キャリアデザイン学部教授・坂本旬『「協働学習」とは何か』と題する論文をご覧ください。インターネットで「協働」の項目をチェックすれば出てきます。

(注2両者の定義についてはLongman Dictionary of Language Teaching & Applied Linguistics . (Third Edition, Longman 2002) の ‘collaborative learning’ および ‘cooperative learning’ の項目を参照。

(注3江利川春雄編著『協同学習を取り入れた英語授業のすすめ』(大修館書店2012)は、英語の授業の中に「協同学習」をどのように取り入れるかについて、具体的な例を挙げて解説しています。そこでは、「協同」と「協働」の区別はしていません。つまり英語教育では協調的なグループ活動が主体であって、「協同」と「協働」の区別を議論することにはあまり意味を認めていません。

(注4原著は Patsy M. Lightbown and Nina Spada, How Languages Are Learned. (Fourth Edition, Oxford University Press 2013). 日本語訳は岩波書店から2014年に出版されています。訳者は白井恭弘と岡田雅子。

(注5M. Swain, ‘The output hypothesis and beyond: Mediating acquisition through collaborative dialogue’ in J. P. Lantolf (ed.): Sociocultural Theory and Second Language Learning. (Oxford University Press 2000).

[ 訃報 ]

Author: 田崎清忠

ブログ執筆者の浅野博氏は2015年10月7日

肺炎のため死去しました。

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