Archive for 2月, 2012

今回は「談話」の文法について述べる予定ですが、その前に、前回の最後に挙げた例文の構文解析と和訳を示してほしいという要望が読者からありましたので、それにお応えしたいと思います。例文は次のようでした。

Now while he was serving as priest before God when his division was on duty, according to the custom of the priesthood, it fell to him by lot to enter the temple of the Lord and burn incense. (Luke 1:2-9 RSV )

この文は多くのフレーズと、いくつかのクローズから構成されていて複雑です。それらをここで詳しく解析すると相当の紙面を必要としますので、意味を取るために必要な程度の大まかな分析に留めます。まず、この文はコンマによる区切りに従って3つの部分に分けられます。さらに、区切り内のフレーズやクローズの構成から、次のように6つに区切ることが可能であり、そうすることによって意味解釈が容易になります。

 ① Now (「さて」という意味の副詞または間投詞)

② while he was serving as priest before God(whileは時を表す副詞節を導く接続詞。その副詞節はon dutyまで続き、全体でit fell to him以下の主節を修飾。「彼(ザカリヤ)が神の前で祭司を務めていたとき」の意味)

③ when his division was on duty(whenも時を表す副詞節を導く接続詞。この節はwhileの導く副詞節の一部をなし、直前のクローズを修飾。「彼の組が当番であったとき」の意味)

④ according to the custom of the priesthood(「祭司職の慣例に従って」の意味の副詞句。次の主節で述べられている事柄の背景または理由を説明)

⑤ it fell to him by lot(「くじ引きで彼に当たった」のような意味。itは形式主語)

⑥ to enter the temple of the Lord and burn incense(この不定詞句は、it… to~ の構文における実質上の主語。この場合の動詞enterとburnの意味上の主語は、「祭司のだれかで、くじ引きで当たった人」が含意されている)

 これは新約聖書の引用ですので多くの日本語訳があります。その中から筆者の好みに合う訳をお示しします。

「さてザカリヤは、その組が当番になり神のみまえに祭司の務(つとめ)をしていたとき、祭司職の慣例に従ってくじを引いたところ、主の聖所(せいじょ)にはいって香(こう)をたくことになった。」(『口語訳』日本聖書協会)

 さて、ここから「談話」(ディスコース)の話に入ります。「談話」とは、コミュニケーション行為の結果として産出される言語のことで、文よりも大きな単位の文章や会話(パラグラフ、対話や会話、インタヴューなど)を指し、その研究を「談話分析」(discourse analysis)と呼んでいます。むかし(筆者の学生時代のころ)もそういう研究はあったと思いますが、当時学校で教える文法は「文」(センテンス)を最大の単位としていましたから、文を超える単位を扱うことはほとんどありませんでした。しかし英文解釈の授業では、パラグラフやチャプターなどを単位として解釈を進めることは普通のことでしたから、「談話分析」という用語はまだ生まれていなかったけれども、それに似た分析は古くから行なわれていました。

 現代の談話分析は、大まかに言うと、次の2つの問題に関心があります。

・結束(cohesion):小さな発話をつなげてまとまった談話に発展したり、節をつなげて文にし、文をつなげてまとまったパラグラフや長い文章を作る場合には、接続詞や代名詞や時制の選択が重要になります。その選択が適切になされないと、談話や文章のまとまりが失われ、理解しにくくなります。

・意味的連結(coherence):これは発話と発話、文と文を意味的につなげるやり方です。たとえば、A: Could you give me a lift to the station? B: Sorry, I’m visiting my brother in the hospital. の対話において、AとBの発話に文法的な関連はありません。しかしAとBが共有している知識(Bの兄のいる病院が駅と反対方向にあること)によって、相互の理解が可能になります。発話や文章の理解は、話し相手または読者と知識を共有していることが重要なのです。

 このように、文と文を結びつけて形式的・意味的に一貫した談話やテキストを構成する能力を談話能力といいます。日本語の場合には、小・中・高の「国語」の授業でそういう能力が育成されますが、当然のことながら、英語の学習でもそのような能力が養成される必要があります。次回は、大学入試センター試験の英語問題から、そのような能力にかかわる項目を取り出してみましょう。(Tobe continued.)

“マスコミ報道”で気になる言葉の問題など
(1)マスコミの報道はほとんど“尻切れトンボ”に終わります。ところで、“尻切れトンボ”という表現も今の若い人には通じないことが多いようです。私などは小学生の頃よく野山へ行って昆虫採集をしましたが、捕まえたトンボを補虫網から虫籠に移す時に、うっかり尻尾を持つと、尻尾が切れてしまうことがありました。そうなるとそのトンボは標本にならないわけで、「標本が未完成のままになってしまう→仕事が中途半端で終わってしまう」という意味になるわけです。

(2)ニュースの報道では、例えば、「二人の死者が出た火災があって、消防と警察はその原因を調査している」というのはよくあるのですが、放火殺人といった事件でなければ、その火災原因だけを後から報道することはまずありません。自動車事故などもそうです。死者が何十人も出たような大事故でなければ、新聞記事にもなりません。ましてやテレビがそれを取り上げることはまずありません(「どこどこの高速道路が現在不通」といった文字表示が出ることはありますが)。

(3)その点ラジオは、ローカルな要望に沿いやすいためか、近郊の道路状況や自動車事故のことをよく放送しています(デジタルテレビであれば、色ボタンを押すことで、限られた地域の情報は得られますが)。聴取者(言いにくいせいか、現在は“リスナー(listener)”がよく使われます)には、トラックやタクシーなど車の運転者が多いことにもよるのでしょう。しかし、「事故の原因は調査中です」の後を追うようなニュースはほとんど聞いたことがありません。

(4)こういう姿勢が、国土交通省やその関連機関とか関係自治体などにも及んでいるとなると問題だと思います。「人身事故のためにどこどこの線が不通」ということは、テレビの字幕に出ることがありますが、関連省庁は、自殺対策を真剣に考え、何らかの施策をすぐに実行すべきです。ここ何年間も自殺者が3万人を超えているのですから、少しでも減らす努力をするのが為政者の責任でしょう(NPOの有志などが積極的に活動している地域はあるようですが)。

(5)交通事故は次のような問題にも関係します。私は、鳩山元首相が2010年に国連で、英語の演説をして、「日本は温室効果ガスを25%減らします」と述べた時に、「実施面の細かい問題を知らない無謀な提案だ」と思ったものです。現在でも首都高速道路は、事故や工事で毎日のように渋滞があって、通り抜けるのに1時間も2時間もかかることが珍しくないようです。ハイブリッド車(hybrid-car) などが増えているとしても、そんなに時間がかかるのであれば、温室効果ガスを減らすのはとても無理だと思います。

(6)最近の政治的な話題と言えば、「消費税を上げること」と「いかに年金を支払うことが困難か」ということばかりです。一方テレビでは、いかに安い弁当を売っているか、いかに安いレストランが混んでいるか、といった“デフレ現象”をあおる番組を繰り返し放映しています。政治家はもっと真剣になって、日常的な出来事の中から取り組むべき課題を見つけてもらいたいものです。(この回終り)

<TPPを考える ④−5 各論—5 紛争処理>

各論—5 ISD ( 投資紛争処理条項 )

昨年11月、APECホノルル首脳会議直前に開かれた衆議院予算委員会のTPP集中審議の際、自民党の佐藤ゆかり議員のISD(S)( investor-state dispute settlement 紛争処理条項)についての質問に野田首相がトンチンカンな答弁をして失笑を買い、さらに突っ込まれて「国内法で対応できるよう交渉する」と答えたため、「国内法で国際法を変えるのか」と野次が飛びかい審議を紛糾させたことがあった。つまり、野田首相はこの条項についてよく知らなかったのである。

ISD条項は、投資家が投資先の国によって被害や差別を受けた場合(例えば企業の国有化、内国民待遇の否定など)、その国の政府を訴えることが出来るという規定である。TPPの原形であるP-4(シンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、チリ)協定には投資の項目はなく、アメリカが参加して追加したものであり、ISD条項もそれに伴って加えられた。

ISD条項がはじめて導入されたNAFTA(北米自由貿易協定 1994年発効)では、アメリカ企業が、カナダ政府に対して起こした訴訟が28件、賠償額118億円、メキシコ政府に対し19件、賠償額143億円であるのにくらべて、アメリカ政府が訴えられた19件に対しては賠償額は0となっている。紛争の解決は、世界銀行グループの国際投資紛争解決センター(ICSID the International Center for Settlement of Investment Disputes )において非公開で行われるので、アメリカ以外の参加国にとって不利だという。世界銀行の総裁が、代々慣例により、最大の出資国であるアメリカの政府関係者に占められているからだ。現在のゼーリック総裁は元アメリカ通商代表で、6月に5年間の任期を満了して退任するが、後任にはクリントン国務長官、サマーズ元財務長官らの名前が挙がっている。

カナダの例:カナダのPCB廃棄物処理をしていたアメリカ企業が、カナダ政府がPCB輸出を禁止したことで被害を受けたとしてICSIDに訴えた事案で、カナダ政府が敗訴している。
メキシコの例:メキシコでコーンシロップを製造していたアメリカ系企業が、政府が甘藷糖以外の甘味料を含む飲料移送に課税したことを内国民待遇違反として訴えた事案で、ICSIDはアメリカ企業の訴えを認め、メキシコ政府が敗訴している。

今週行なわれたオーストラリアとの事前協議で、オーストラリアはTPPにISD条項を入れることに強く反対する考えを日本側に伝えたという。また、来月発効する米韓FTAにはISD条項が盛り込まれているが、野党側は、“李明博大統領はこれによって韓国の米国化を進めようとしている”として協定の破棄を訴えており、4月総選挙の争点になるものとみられている。
こうしたことから、TPPに反対する側の一部ではISDは治外法権を認めるものだとか「毒素条項」と呼ぶ人もいる。投資の自由化こそがアメリカがTPPを推し進める真の狙いだと考えている人に多い。

これに対して、経団連などは、現在のFTAやEPAには、政府が外国投資家との契約を守るいわゆる「アンブレラ条項」を含まないものが多く、政府の約束違反に対する法的手段としては、現地の裁判を利用するしかなく、投資家にとって不利であると主張している。投資協定にアンブレラ条項がなかったため日本企業が泣きを見た事例に、ベネスエラのチャベス大統領による日本企業の鉄鋼原料プラントの国有化がある。

また、これまで日本が諸外国と結んだ投資協定では、日本企業が相手国を訴えたことはあるが、日本政府が訴えられた例はないということで、TPPでも日本にとって不利にはならないとしている。さらに、NAFTAでメキシコ政府が訴えられた件は、メキシコ政府が外資系企業を差別的に取り扱ったケース。カナダの例も外国企業に一方的な負担を要請したものであるという。日本が所得収支が貿易収支を上回る債権国となった今、投資先での権益を守る条項はどうしえも必要な条項であるとしている。ICSIDが世界銀行グループに属していても判定が世界銀行によって左右されることはないというが、アメリカが11代も世銀総裁を独占していては、むなしい言い訳にきこえる。(M)

前回に述べたように、英語の文法構造は「語」、「句」、「文」、「談話」の4つのレベルから成っています。以下これらについて順に取り上げます。

 最初の「語」(ワード)については、語彙の説明のところですでに概略述べました。ここではその文法特性について簡単に整理しておきます。すべての語はそれぞれにいくつかの文法特性をもっています。次はその主な項目です。括弧内はhandという語を例にとった場合の記述または例示です。

・品詞(名詞または動詞として用いる)

・語形変化(名詞の複数形hands、動詞の過去形および過去分詞形handed、現在分詞形handing)

・語法(動詞は他動詞なので目的語を必要とする)

・派生語 / 複合語(handful, handy, handiness, etc. / handbag, handball, handbill, handbrake, handgrip, handgun, handicraft, handkerchief, handmade, handout, handsaw, handshake, handwork, handwriting, etc.)

自分の知っているいろいろな語について、それぞれの語の文法特性を整理しておくと役に立ちます。

 次は「句」(フレーズ)です。フレーズは語が集まって、一つの文法的な単位を形成するものです。文の中で担うそれぞれの文法的な役割によって、名詞句、動詞句、形容詞句、副詞句などに分類することができます。次の文(聖書の引用)はいくつのフレーズに分けられるでしょうか。また、それぞれはどんな文法的単位を形成しているでしょうか。

In the days of Herod, King of Judea, there was a priest named Zachariah, of the division of Abijah. (Luke 1:5 Revised Standard Version)

たとえば次のようなフレーズに分けられます。もっと細かく分けることも可能ですが、この文を理解するためにはこれで充分でしょう。

In the days of Herod, / King of Judea, / there was / a priest named Zachariah, / of the division of Abijah.

それぞれのフレーズの文中における機能は次のようです。

・  In the days of Herod 副詞句(時を表す)

・  King of Judea 名詞句(直前の名詞と同格)

・  there was 動詞句(wasはこの文の述語動詞)

・  a priest named Zachariah 名詞句、または名詞句+形容詞句(priestがこの文の主語)

・  of the division of Abijah 形容詞句(直前の名詞句を修飾)

ここで大切なことは、フレーズが語と同じように名詞、動詞、形容詞、副詞の働きをすることです。こうして語が句に組み立てられ、句が文に組み立てられていくわけです。

 次は「文」(センテンス)ですが、その前に「節」(クローズ)という単位を理解する必要があります。クローズはその中に述語動詞を含み、「主語−述語」の構造をもつものです。単一のクローズから成る文を「単文」といいます。andやorやbutなどの接続詞によって2つ以上のクローズが並列的に繋がる文を「重文」、従節(名詞節、形容詞節、副詞節)を中に含む文を「複文」と呼びます。次に少し複雑な文を挙げますので、意味を理解した上で、どんな構造になっているか考えてください。

Now while he was serving as priest before God when his division was on duty, according to the custom of the priesthood, it fell to him by lot to enter the temple of the Lord and burn incense. (Luke 1:8-9 RSV )

 このような文を読んですっと理解することができる人は、英文法の基礎はほぼ出来上がっていると言えます。文中に頻度の低い語incense(香)というのがありますが、他は比較的に頻度の高い語です。たといincenseを知らなくても、文全体の意味理解に決定的な影響はないでしょう。意味が理解できるということは、この文の文法構造を知っているということです。そうでなければ、単語をすべて知っていても意味は取れないでしょう。文法構造を知っているということは、必ずしも文法用語を使って説明できるということではありません。意味のまとまりであるフレーズやクローズを識別することができ、それぞれの文法的な役割(名詞句、動詞句、形容詞句、副詞句 / 名詞節、形容詞節、副詞節)を認識できるということです。そこまで達すれば、自分で自分の文法力を評価することが可能になります。次は「談話」(ディスコース)のレベルに入ります。(To be continued.)

<TPPを考える ④−4 各論—4 公共工事>

各論—4 政府調達(公共工事)

政府というと我々は直ぐ国の政府を考えがちだが、TPP第11章のgovernment procurementのgovernmentは、国の政府及び地方自治体を含む。またprocurementには、公共工事の他、公共サービス例えば、学校給食なども含まれるものと解釈される。政府調達では、加盟国の業者は全て国内の業者と同等に扱われる。第11章は英文で13ページあり、これらを極めて詳細に規定しているが、ここでは中心になる公共工事について考える。

 公共工事というのは、道路、橋、河川改修、ダム、空港、港湾、公園、水道、建物など、いわゆるハコモノづくりで、戦後の復興期から、政官財の癒着、補助金の無駄使い、談合、元請のピンはねなどが横行し、九頭竜川ダムの建設に題材をとった石川達三の「金環蝕」では、周りは輝いているが、中は真っ黒と評された。特に田中角栄の「日本列島改造論」で日本は土建国家と言われるほどになり、50万を超える建設会社が工事を奪い合い、乱開発が拡がった。。

 1990年代の日米構造協議では、日本の内需を拡大させ、対米輸出を抑制させるためとして、アメリカ側の要求で10年間に630兆円もの公共投資が実施され、また、バブル崩壊後の不況では、手っ取り早い景気浮揚策として数次にわたる数兆円規模の公共工事を中心にした補正予算が組まれ、これらが今日の膨大な財政赤字の遠因になったと言われる。そして、最近では、作りすぎたハコノモの保全費用が自治体の財政を圧迫し、修繕費がなくて崩壊の危険が迫っているものもあるが、バブル崩壊以後、公共工事の半減で、建設会社が激減して、東日本大震災での復旧工事やこのところの大雪では、建設労働者や建設機械不足が問題になっている。

 一方世界的には、中国、インド、ブラジル、ベトナムなど新興国を中心に公共工事の需要が大幅に増え、世界全体では数十兆円規模にのぼると見られており、各国の大手企業がインフラの輸出などに乗り出している。TPPの政府調達・公共工事については、こうした公共工事の戦後の歴史と現状を踏まえて判断する必要がある。

 公共工事の自由化に関しては、WTO(世界貿易機関)でも、国は6億9千万円以上、都道府県と政令指定都市では23億円以上の工事については、外国の企業も参入できることになっている(日本での実績は数件にとどまる)が、TPPではさらに市町村レベルのより規模の小さい工事まで自由化されるのではないかとみられている。そうなった場合の問題点として挙げられているのは、地域建設業振興策として設けられてきた次のような条件が撤廃されるのではないかという懸念である。
* 入札における業者のランク別、地域別の制限 * 最低入札価格 * 地域産材料の使用 * 仕事を分けけあうためのジョイント・ヴェンチャー制度
その結果、外国建設業者の参入が増え、低賃金の開発途上国の測量技師や建設技術者、労働者、監視員などの導入により、地域の雇用の受け皿としての建設業の機能が失われ、地域全体の荒廃を招きかねない。そのほか、規制の撤廃で、市町村レベルの小規模工事にまで国内大手ゼネコンが入り込んでくると心配する地方の建設業者もあるという。

 一方で、外国企業の参入で、談合などの不明朗な慣習がなくなるのではないか、日本はもはや土建国家ではなくなっているから、海外企業にとってそれほどうまみのある市場ではないという意見もある。また、日本のゼネコンなどがアジア・太平洋地域へのインフラの輸出を拡大できるし、アメリカが実施している公共事業へのアメリカ製品の使用義務付け(バイ・アメリカン)の撤廃を要求できるなどのメリットがあるとされる。しかし、そうなったとしても、メリットを享受できるのは、建設業の大部分を占める中小の業者ではなく、大手企業に限られるだろう。見積もりから入札、契約まで、膨大な書類を英文で用意しなければならないからである。(M)

大学入試センター試験問題についてはいろいろな批判がなされています。今年も問題配布の手違いとか、英語リスニングテストのための用具の不備など、いくつかのトラブルがあり、マスコミにも取り上げられました。今年は特に多かったようですが、そこでの批判は主に試験実施上の事務的なトラブルで、今後そのようなことが生じないように対策を立ててもらいたいものです。しかし、なにせ50万人を超える受験者を対象とした一斉試験ですから、どんなに注意しても、小さなトラブルが起こることはこれからも避けられないと思われます。それよりも重要なのは、これだけの時間と金と労力をつぎ込んで、本当に良いテスト問題が作られているかどうかです。英語の場合には、毎年の筆記テストに出題される「発音問題」に根本的な疑義があることを指摘しました。これについての筆者の考えに賛同してくださる方々から、すでにいくつかのメールを頂いております。

 今回は語彙についての他の設問と、主として文法知識に関わる設問を取り上げます。センター試験の語彙についての設問は第2問のAがそれに当たります。問1から問10まで10問あります。いずれも文中の空白に当てはまる語または語句を4つの選択肢から選ぶものです。それらが語のどのような知識をみようとしているかを分類すると次のようです。

・語義・語法に関するもの——問1 (動詞)、問4 (前置詞 / 副詞)、問5 (形容詞)、問6 (名詞)、問7 (不定代名詞)

・慣用句に関するもの——問2 、問10

・語の文法形式に関するもの——問3 、問8

・関係詞節の構造に関するもの——問9 (註:これは主として文法の問題)

 センター試験の語彙に関する設問は、上の分類に見るように、語の知識を多面的にみようとしていることが分かります。語義・語法に関しても、動詞、名詞、不定代名詞、形容詞、副詞のように異なる種類の語を取り上げて、それぞれの語をコンテクストの中で正しく用いることができるかどうかをみようとしています。このような問題は、単語の綴りを見て発音と語義を覚えるだけの学習をしている学習者には難しく感じるかもしれません。高校修了時までに学習する語の知識を診断するには10問では少なすぎますが、入学試験は診断テストではないので、センター試験にそこまで要求するのは無理でしょう。しかしこれら10問に8問以上答えられた人は、語彙の学習に関しては合格と判断してよいと思います。「8問以上」としたのは、選択肢の語の中にいくつかの難しい語が含まれています(問1、問5、問6)ので、これらの語の1つか2つに未知語があって、そのために多少まごつくことがあるのは止むを得ないことです。

 次に文法に関する設問をみてみましょう。第2問のCがそれに当たります。文中の語順を問う問題です。これは3問から成り、問1は質問と答えから成る対話において、与えられた語を並べ替えて、答えの文を完成するようになっています。問2と問3は単文で、それぞれ与えられた語を並べ替えて文の一部を完成する問題になっています。紙面の関係で問1だけ挙げておきます。

問1. “Did you install that computer software you bought last week?”  “Yes. And ___ ___ ___ ___ ___ use.”  (①easy ②finding ③I’m ④it ⑤to)

 これら3つの問の中に特に難しい語はなく、与えられた語を並べ替えて文法的な文を作るのに迷うような落とし穴もありません。ですから、これらのどれかに誤答をした人は、英語の基本的文法知識に欠陥があると思って間違いありません。英語は語順を大事にする言語ですので、語を並べて正しい語順にして文を組み立てるというのは、もっとも基本的な文法技能の一つです。そういう理由で、センター試験でも何年かこの形式の問題が採用されています。

 しかし文法は語を並べて文を組み立てるルールに限りません。言語の構造は一般に(1)語彙構造、(2)句構造、(3)文構造、(4)談話構造、の4つのレベルから成っています。文法知識に関する自己評価もこれら4つの観点からなされる必要があります。語彙の文法的な役割についてはすでに述べましたので、次回は高校段階までに習得すべき句構造、文構造、談話構造の基本的知識について述べます。(To be continued.)

「野田首相の表情と発言」のこと
(1)私は1年ほど前に別のブログ「英語教育批評」で、「首相の発言」の問題を取り上げたことがあります。当時は、はっきりと自分の言葉で意見を言う小泉首相の評価が高かったのです。前総理の菅さんは、“イラカン”とも言われたように、イライラしている様子が、テレビ画面でも分かる人物でした。今度の野田首相はどうでしょうか。とても落ち着いていて、怒ったり、怒鳴ったりということがありません。心強いと信頼する人もいるでしょうが、私はどうもあやしいと思っています。

(2)野田首相は、「与野党の話し合いで解決を」とよく言いますが、政治というものはそんな生易しいものではないことはご本人が一番よく知っているはずです。しかし、田中防衛大臣の起用とか、鳩山元首相に党最高顧問を依頼するとか、何をやりたいのか国民にはよく分かりません。底抜けの“好人物”で、敵味方なく“話し合い”ができると本気で思い込んでいるのかも知れません。テレビ画面では冷静沈着に見える政治家のほうが、実際は危険なのだと思いますが、内閣支持率の低下を見ると、多数の国民もそれは見抜いているようです。

「トーク番組」再考
(1)「私のテレビ批評(その42)」で、“トーク番組がつまらなくなった”ということを書きましたが、その例として、「NHK の朝ドラのヒロイン(女優は栗山千明)などが出演したら、個性が強すぎて面白くないだろう」といったことを述べました。トーク番組ではありませんが、NHK の“鶴瓶の家族に乾杯”という番組に彼女は出演しました(2012年2月6日)。その後はNHK の”“スタジオパークからこんにちは”にも出ていましたが、ドラマが終わらないうちにどうしてこうも宣伝したがるのでしょうか。

(2)この女優が鶴瓶と一緒に旅をしたのは岡山県の倉敷でしたが、彼女の態度はとても控え目で、感じの良いものでした。“だから女優は怖い”とも言えるのかも知れません。女優が出るコマーシャルでは、“あの人誰だったかな?”と誰だかよく分からないことがありますが、男の場合は、俳優でもスポーツ選手でも、すぐわかる場合が多いのです。

(3)ついでに、“家族に乾杯”の演出方法に注文をつけておきたいと思います。それは、“どうしてせわしなく画面を変えるのでしょうか?”ということです。1つの纏まりごとに場面を変えてくれれば、落ち着いて視聴出来ます。まるで、民放の予告番組のように、細切れにして提供されると、全体像が分かりにくくなるのです。いつでもそうした傾向があるというわけではないようですから、演出がその都度変わるのもおかしいと思います。

(4)NHK は視聴率など気にしなくてよさそうですが、やはり視聴率を稼げないと、担当者は局内で肩身が狭いのでしょう。“いっそのこと国営放送にしては”という意見もありますが、独裁国の放送のようになったら、言論の自由が失われてしまいます。デジタル放送になって、余裕の出た電波の使用方法を含めて、“放送の在り方”を真剣に検討すべき時機だと思います。(この回終り)

<TPPを考える④-4 各論‐3 保険>

各論—3 金融・投資・保険

<TPP 各論 3  保険 >

 TPP交渉参加のための9カ国との事前協議は、これまでにブルネイ、ベトナム、ペルー、チリ、シンガポール、マレーシアから参加の了承を取り付け、本丸であるアメリカとの事前協議が、今週から始まった。事実上の日米FTAといわれるTPP参加の前提条件を整えるこの事前協議では、適用除外品目などをめぐり、“国益”をかけた激しい応酬が展開されるものと見られている。政府はこれと併行して、協議で得た情報を公開し、国民の意見を聞くため、全国各地でTPPタウン・ミーティングを開く計画だという。国民自身の判断が求められる時が近づいている。

 農業特にコメの輸入や残留農薬の問題それに医療や介護については、直接生活にひびくから国民もかなり関心を持っていると思うが、金融や投資となると関心は一部の人達に限られるのではないか。ところが、「間違いだらけのTPP」 (東谷暁著)によると、アメリカが日本をTPPに誘いこもうとする本当の狙いは、農業や医療分野ではなく、金融と投資の自由化であるという。それによると、アメリカは、先ず突破口として、これまでも強く要求してきた簡易保険と農業共済の二つの金融機関の特権の廃止、民間機関と同等の扱い(equal footing)を求め、TPPによるサービス貿易の完全自由化要求を通じて、資産およそ120兆円の簡易保険(民間生命保険の60%以上)と45兆円の農業共済を完全民営化した上、M&A(合併と買収)などにより、アメリカ資本の傘下に置くことを狙っているという。先に締結された米韓FTAにおいて、アメリカ側は韓国郵政の簡保の特権を排除し、equal footingを認めさせたというから、こうした予測も杞憂だとはいえないだろう。

 ここでは、比較的国民に身近な保険について日米交渉の歴史をたどってみよう。そこに、TPPにおけるアメリカ側の狙いと戦術が透けて見える。

保険業というのは国民の生活にある程度余裕がないと成り立たないから、世界の保険市場の80%は米、日、英、独、仏の5カ国で占めているが、中でも、大正時代から政府保証の簡易保険の恩恵を受けてきた日本人は保険好きで、市場規模はアメリカに次ぐ。このため、アメリカの保険業界は早くから日本市場への進出を目指しており、1990年代に行なわれた日米経済包括協議の4分野のひとつに「保険協議」が入っていた。これに先立ち、1980年代イギリスに端を発したいわゆる“金融ビッグバン” が世界の潮流となり、日本でも1990年代の日本版ビッグバンで、金融業界は、大蔵省による“護送船団”方式を脱し、自由競争時代に入っていた。その一環として成立した新保険業法では、日米協議でのアメリカ側の要求を受け入れ、「第1分野:生命保険」と「第2分野:損害保険」の相互乗り入れが可能になった。ところがその時、アメリカ側は得意とする「第3分野:医療、疾病、傷害保険など第1分野、第2分野に属さない保険」については、適用除外を求め、日本政府は2001年までの4年間、事実上ガン保険などに外資系の独占権を認めた。その結果、アメリカの保険会社は、例えば、ガン保険ではAFLACが85%のシェアを寡占することになり、今日なお、アメリカの保険会社が、先行の利益を享受している。

 また、第1、第2分野においては、アメリカ側は、保険会社の経営の透明性を確保するとして、いわゆるソルベンシー・マージン条項を新保険業法に入れさせた。ソルベンシー・マージンとは支払い余力のことで、その中には保険会社の保有する土地や株式等も算入されている。ところが当時、日本では、土地、株は暴落状態で、それに伴う金利の低下によって、養老保険などの長期保険はいわゆる”逆ザヤ“となって、中小の保険会社はソルベンシーマージン不足で次々にM&Aによって外資の餌食となった。その結果、当時世界最大の保険会社だったAIG傘下のアリコジャパン、エジソン生命、スター生命などが日本進出を果たし、この3社の新規保険料収入は2004年には国内最大手の日本生命を追い越すまでに急成長した。

 TPPにおけるアメリカの狙いであるという簡易保険は、小泉内閣の規制緩和の最大の目標であった郵政民営化の中で、郵政公社を経て4分社化されたうちの一つ、郵便保険会社となり、
全株式を譲渡して完全民営化されるはずであった。ところが、簡保の宿をめぐるスキャンダルや、民主党による政権交代と民営化に反対する国民新党との連立により、いまのところ民営化は頓挫している。アメリカは日本政府が郵政事業に保有する株式を通じて、事実上郵便貯金、簡易保険に政府保証を与え特別扱いしているとして、今回の事前交渉でも、株式の売却による完全民営化をTPP交渉の最重要課題の一つに挙げている。

 一方、TPP参加による金融・投資関連分野でのメリットについて、経団連は、「TPPを通じて実現すべき内容」の中で、「特に途上国において、自国への投資を認める条件として、自国資本の一定の導入や、自国民の雇用、自国産品の使用な度を義務付けることがあり、効率的、機動的なビズネスを行なううえで障害となっている」として、TTP参加により、これらの差別的措置を禁止することができることを挙げている。例えば、日本の得意分野である電気通信分野では、国家機密の保持を名目に外資の出資比率を抑えている国が多く(例えば、ベトナム40%以下)、これがはずされればメリットが大きいという。金融、投資分野で経団連が挙げているメッリトはこれだけである。

 ところで、これまで金科玉条のように言われてきた“金融は産業の血液、投資は未来の産業の基盤、保険は長期投資の資金”という古典的解釈は怪しくなってきた。その原因は政府による国債の乱発である。銀行も保険会社も国債の引き受け機関と化し、代わりに政府が中央銀行にゼロ金利で膨大な資金を市場に供給させ、安い金利の金を手にした投資家は目先の利益を求めて世界中を駆け巡り、原油や穀物、国債市場を混乱させ、いまや国家財政の命運を握るほどの怪物となった。TPPを考える際には、正常に機能しなくなった金融資本主義の現状も判断の重要な材料になる。(M)

* AFLAC: American Family Life Assurance Company : 本社はジョージア州にあるが、従業員の半分は日本に在住する日本人で、保険料の4分の3は日本で集めている。
* AIG:  American International Group : リーマンショックにより事実上経営破綻し、政府による救済で蘇ったが、その際、幹部やトレーダーが臆面もなく多額の報酬を受け取ったことでオバマ大統領を激怒させ、メディアには”AIG bonus babies “と揶揄された。  (M)

今年1月に行なわれた大学入試センター試験の英語筆記問題には、語彙の知識に関する設問が17問あります。そのうち発音に関するものが7問、語法(語の文法や使い方)や連語・慣用句に関するものが10問です。ここでは、それらが高校までに学習することになっているどんな語彙知識をみようとしているか、またそれらが試験問題として適切かどうか、という観点から検討します。

 そのような検討は、本稿の目的である「自己評価」という観点からは外れるのではないかと疑問に思う方があるかもしれません。しかしここで敢えてそれをするのは、大学入試センター試験は高校生の英語学習に大きな影響力をもつ試験であり、それが語彙知識をどのように捉えているかは、受験生にとっても重大な関心事だからです。なんと言っても、大学入試センター試験は50万人を超える受験者があり、しかもそれは全面的に公開され、その試験問題は主要な新聞紙上にも掲載されます。ですから、それはさまざまな批判を受けて当然であり、学習者に学習の指標を示してくれるような問題へと改善されていくべきものです。

 さて語彙に関する問題ですが、そこで毎年取り上げられる最初の設問は語の発音です。それはAとBの2つの種類から成っています。Aは4つの語の中から下線部の発音が他の3つと異なるものを選ばせる設問で、次の4問から成っています。(1) amuse / cute / future / rude (2) feather / federal / gender / gene (3) enough / laughter / mighty /rough (4) accuse / circumstance / decay / facility

 Bは語の第一強勢の位置を問うもので、与えられた語と同じ位置に強勢のある語を4つの中から選ばせる、次の3問です。 (1) modern [ athlete / career / fatigue / sincere] (2) religion [ calculate / entertain / ignorant / musician] (3) identity [ automobile / disagreement / electronics / geography]

 たしかに、これらは語の発音の知識をみる問題のように見えます。しかし発音の知識とは何でしょうか。それは実際に発音する技能を支えるために必要なものであって、知識自体に意味があるわけではありません。ですから、知識があっても正しく発音できないのでは意味がありません。実際に、この問題に正解した生徒が必ずしも正しく発音できるわけではないという調査報告が多数あります。そしてその逆(この問題に正答を選べなかったが大部分は正しく発音できる)もあり得ます。そういうわけで、この問題形式は発音の問題として適当ではない(つまり妥当性が低い)と多くの英語教育の専門家から批判されています。大学入試センターの問題作成部会もそのことを認識しており、昨年度の報告書(インターネットで検索可能)の「4.今後の問題作成に当たっての留意点又はまとめ」の中に、「リスニング試験の導入から6年目を迎えた現在、発音の知識を問う第1問をこのまま存続させるべきであるかどうか、また引き続き含めるとすればどのような内容と形式が適切なのか、このような問題については広く意見を募り、集約を行ない、より良い方向に向かって検討を続けることが必須であろう」と述べています。これは当然のことながら、問題作成者として健全な態度です。ところが意外なことに、高校の教科担当教員による昨年度の報告書(インターネットで検索可能)の中には、「語の発音や強勢の問題はコミュニケーションの基礎知識として重要なものであるので、出題内容・出題方法を工夫し、今後も継続していただきたい」という要望が書かれているのです。これは見過ごすことのできない重要な問題です。筆者の知るところ、これと反対の意見を持つ高校教師は少なくないからです。

 そこで筆者は、学習者の立場から、この問題を考えてみることにします。結論を先に述べるならば、このようなステレオタイプな発音のペーパーテストはすべての入学試験問題から排除してほしいと思います。その主な理由は、第1に、それがテストとしての信頼性に欠けているからです。英語学習者はよく知っている語についてはそれを正しく発音でき、まったく知らない語についてはどう発音するか分からないことが多いのが自然ですから、発音のペーパーテストというのは、出題される語が受験生になじみの語かどうかで難易が決まります。与えられた語の中に知らないものがある場合には、コンテクストも与えられていませんから、受験者はカンで正答を選ぶしかありません。そのカンが当たるか当たらないかはほとんど運まかせです。しかも出題される語の中には、毎年、それほど頻度の高くない語が含まれています。今年の第1問に出題された31の単語では、「JACET 8000」で順位4000を超える語が、rude, mighty, decay, fatigue, sincere, ignorant, automobile, disagreement, electronicsの9語もあります(ただし、最後の2つは派生語なので基本形から類推できます)。これらは決して特殊な語ではありませんが、受験生はこれらのいくつかを高校までの教科書で出合っていない可能性が高いと思われます。したがって、この形式の問題に対処するためにどれだけの語をカバーすべきかが不明であり、受験生は非常な不安を抱いると思われます。英語は得意だけれど、発音のペーパーテストだけは苦手だという受験生の声を筆者も聞いたことがあります。

 第2に、選択肢の作り方の問題があります。このようなペーパーテストで、しかも与えられた選択肢の中から一つを選ぶという問題形式では、選択肢の作り方によって難易が非常に変わります。出題者は問題作成の過程で、ほとんど無意識的に、正答となる選択肢として生徒の誤りやすいものを選び、誤答となる選択肢をできるだけ正答らしく見せかけようと工夫をこらすものです。時には、意地の悪い問題で生徒を悩ませてやろうという心理が働くこともあるかもしれません。今年の発音問題ではBの第3問が特に難しい。選ばれた語が難しいということもありますが、それだけではありません。正答のgeographyは、正しく発音している人でも、その第1強勢が第2音節にあることは意識していないかもしれません。この語の強勢は第1音節にあると誤解をしていたら、この設問は解けなくなります。またelectronicsは第3音節に第1強勢があるのが普通ですが、electronics industryなどのように複合語を作るときは、electronics industryのように強勢を移動させる人もあると思います。語の強勢というのは、他の音声特性と同様、コンテクストから切り離して決めることはできないことが多いのです。

 では、このような発音のペーパーテストにどう備えたらようでしょうか。筆者の受験生へのアドバイスは、このようなテスト問題は無視することです。受験生だけではありません。英語学習者の皆さんへのアドバイスです。その理由はすでに述べたように、こういう問題項目は、第1に発音テストとしての妥当性に欠けています。第2に問題作成者による語の恣意的な選択と、受験生を惑わせようとする巧妙な選択肢の作成によって、テストの信頼度を低いものとしています。学習者はこのような形式のテスト問題に全問正解しようとして無用に悩むことのないようにしてください。もしこのような問題に1つ2つ間違えても、問題が悪いのだと思ってください。(To be continued.)

前回は語彙知識の広さ、つまり「語彙サイズ」の話をしました。今回は語彙知識の深さ、つまり「語をどこまでよく知っているか」の問題を取り上げます。それぞれの語はさまざまな顔を持っています。どんな顔を持っているかは辞書を見ればだいたい分かります。日本語を母語としている人は日本語の辞書(国語辞典)を引いてみると、そこに語についてのさまざまな情報が見事に整理されていて感心します。そしてよく知っている語についても、自分の知らない情報がいろいろ書かれているのを発見して、思わぬ得をしたような経験をするものです。日本語の場合と違って、英語の辞書には知らない情報がたくさんあって、引き慣れないと煩わしく思う人もあるかもしれません。しかしよく見ると、英語辞書も(英和辞書、英々辞書など)語についての情報をうまく分類し、整理してくれています。英単語について知りたいとき、辞書を利用しない手はありません。次は学習用辞典が記述に用いる情報分類の一例です。

1)綴り(見出し語)、2)発音、3)品詞、4)語形変化、5)語義(ことばの意味)、6)語法と用例、7)コロケーション(連語)、8)イディオム(慣用句)、9)派生語、10)関連語・連想語、11)語源、12)使用頻度(見出し語の大きさや星印で示される)

 辞書が単語についてのこれらの情報を記載していることは辞書愛用者にとっては常識ですが、そうでない人にとってはごちゃごちゃと書いてあって煩わしいと思うかもしれません。しかし英語を使えるようになりたいと思う人は、辞書が私たちに教えてくれる情報がどのようなものであるかについてよく知っておく必要があります。それを知らずにいるのは、すごい宝物の入った箱を前にして、それを外から眺めているようなものです。いま試しに ‘hand’ という語を手許の英和辞書か英々辞書で引いてみましょう。そしてこの語について、次の質問に答えてみてください。辞書を見れば答えるのは簡単ですね。

Q1)この語の綴りは? Q2)発音は? Q3)品詞は何と何? Q4)名詞の複数形は?動詞の過去形は? Q5)名詞では身体のどの部分を指しますか? Q6)  “Let me give you a hand with those bags.” この文の意味は? Q7)「握手する」の英語は? Q8)この語を使った慣用句を3個以上あげてください. Q9)派生語・合成語にはどんなものがありますか? Q10)この語から連想される語を5個あげてください.

 学習者は辞書に書いてあるこれらの情報をすべて覚える必要があるでしょうか。むろんそんな必要はありません。辞書を暗記しようなどとは考えないでください。だいたい、辞書を丸暗記することなど不可能なことです。人間の記憶システムはそのようには出来ていないからです。たとい努力して一部を覚えたとしても、あまり役には立たないことが分かるでしょう。それよりも、語は使いながら身につけていくのが得策です。同じ語に何度出合ってもすぐ忘れてしまうと人は嘆きますが、実際には、その語に幾度も出合って覚えたり忘れたりすることを繰り返すうちに、あるとき脳の記憶回路に変化が起こり、その小さな変化が記憶貯蔵庫に送られ、それが少しずつ蓄積されて知識を形成するのです。

 ですから、辞書の引き方には2種類あります。一つは、自分の知らない語の読み方や意味を知りたくて引く、あるいは、だいたいは知ってはいるが自信がないので引いて確かめる、という場合です。他の一つは、時間や心の余裕のあるときに、何かの語を引いたついでに辞書に書いてあるその語の情報を読む、という場合です。前者、つまり語の発音や意味を知りたくて引く場合には、電子辞書のほうが速くて便利なようです。しかし後者のような辞書を読むという点では、紙の辞書のほうが優れています。ですから、初級・中級の学習者には、急いで意味をしらべるような場合を除いて、なるべく紙の辞書を使うことをお薦めします。辞書を読むことは、第1に、自分がその語について持っている知識を整理するのに役立ちます。第2に、自分がいかにその語について不完全な知識しか持っていないかを教えてくれます。そしてその語についてもっと知ることが沢山あることに気づかせてくれます。

 では語彙知識の深さはどのように評価したらよいでしょうか。語彙の研究者はいろいろな測定方法を考案しています。なかでも「語連想テスト」が語彙の深さを測定するのに有効のようです。しかし先に述べたように、語はさまざまな顔を持っていますので、学習者の語彙知識の深さを全面的にテストして評価するのは難しい課題です。次回には、今年1月に実施された大学入試センター試験の英語で語彙についてのどのような知識を測ろうとしているのかをしらべてみましょう。(To be continued.)