Archive for 12月, 2011

< 今年の10大ニュース >

< 今年の10大ニュース >

 年の瀬になると、今年の10大ニュースが話題になる。私も現役の頃は部内で意見を戦わせたものだった。ニュースバリューの判断には、価値観がからむから、なかなか意見が一致しないことが多い。昔はAP通信と新華社通信の10大ニュースは1から10まで異なっていた。
 
 今月17日に発表されたAP通信社の“2011 News The Top 10 “ の①位は「オサマ・ビン・ラディンの死」②位は「日本の3重災害」であった。以下③「アラブの春」④「EUの金融危機」「アメリカ経済」と来て、7位「カダフィ政権の転覆」8位 「米議会の財政をめぐる対決」 10位「ウォール街を占拠せよ」と続いている。アメリカ以外のニュースが4つも入っているのは珍しい。2011年がそれだけ世界にとって多事多端な年であったことを物語る。 (*AP10大ニュースは金正日総書記死去の前に発表された ) 
 
 中国、インド、ブラジル、ロシアなど新興国の18社のメディアが合同で選んだ10大国際ニュースでは、「東日本大震災と福島第一原発事故」が第1位で、2位が「中東の政変」以下 ③「オサマ・ビン・ラディン殺害」「ウオール街を占拠せよの反格差デモ」「欧米の債務危機」「スティーブ・ジョブズ氏の死去」「世界人口70億人突破」などが並んでいる。昔と違ってAPの10大ニュースとあまり違わなくなった。それだけ、globalizationが進み、価値観が近づいたことをしめすものだろう。(* この10大ニュースも金総書記死去の前に発表 )

 共同通信社加盟の新聞・民放各社の論説委員等(つまりニュースのプロ)が選んだ国際10大ニュースは次の通りである。
① 北朝鮮の金正日総書記急死 ② 欧州財政危機 ③ 中東民主化 ④ ビン・ラディン殺害 ⑤ タイの大洪水と日本企業の操業停止 ⑥ 福島第一原発事故 ⑦ 米で反格差デモ、世界へ拡大 ⑧ NZで大地震日本人28人死亡 ⑨スティーブ・ジョブス氏死去 ⑩ 中国高速鉄道事故

 一方、読売新聞の「読者が選ぶ10大ニュースの国際編」では、①タイの洪水 ②ビン・ラディン殺害 ③アラブの春 ④NZ地震 ⑤ユーロ危機 ⑥中国高速鉄道事故 ⑦ジョブス氏死去 ⑧世界人口70億人突破 ⑨中国世界第二の経済大国 ⑩ウィリアム王子結婚 番外 金正日総書記死去 となっている。

 ニュースバリューの判断基準は、「利害関係と興味」の原則つまりどれだけ多くに人に、どれだけ大きな影響をあたえるか、どれだけ多くに人が興味を感ずるか、それにニュースとしての新しさ、などである。NHKに入って3年目の記者研修で、編集部のデスクから、「くだらないニュースをやるより、天気予報を繰り返せ」と言われた。天気予報のバリューは、前記の基準にあてはめると、なまなかなニュースより重いのである。

 ではどうしてニュースの選択や扱いにばらつきが生ずるのか。それは選ぶ人の価値観が入るからである。先日の「原発とメディア」という朝日新聞の記事に「1975年京都で開かれた初の『反原発全国集会』の扱いは、朝日が3段見出し写真付き60行、読売はベタ(1段)10行だったと書いてあった。

 最後に、底流(つまり将来どれだけ多くの人にどれだけ大きな影響を与える可能性があるか)を重視する私の考えに基づいて選んだ今年の10大ニュースは次の通りです。

①  福島原発の事故とエネルギーシフトの動
    き             
②  ネットで結集した民衆の力が、中東の独裁政権を相次いで
    打倒
③  欧、米、日の財政危機と格差反対デモの拡がり
④  COP17 と WTO交渉 行き詰まる
⑤  アメリカ、世界戦略の軸足をヨーロッパからアジア・太平洋
    へ
⑥ 中南米にアメリカ抜き、キューバを加えた共同体誕生
⑦ 中国国家統計局発表の昨年度GDP日本を抜いて世界第2
    位
⑧ 世界人口70億人を突破
⑨ 中国高速鉄道事故などで一党独裁体制に揺らぎ
⑩ 北朝鮮指導部のnepotism 3代目に

 では、皆さんよいお年をお迎えください。(M)

「理想の自己」(ideal self) と「可能な自己」(possible self) とのギャップに悩まない人はいないでしょう。人は現実の自己を知れは知るほど、自己の不完全さを知るものです。他方では、自己の可能性を追求しようとする意欲はすべての人が本来もっています。しかしある人は「理想の自己」と「可能な自己」との差があまりにも大きいことに絶望し、理想を捨てるしか自分の生きる道はないと考えます。これまでにしばしば述べたように、実現を諦めた理想は単なる夢にしかなりません。人生にはそういうことがたくさんありますが、英語学習においても、理想を捨てたら学習の意欲は大きく減退し、小さい現実的な「可能な自己」(たとえば卒業に必要な単位をなんとかして取得する、など)の追求に救いを求めることになります。それに似たことは多くの人がすでに経験しているのではないでしょうか。

 学習意欲についてのこれまでの研究は、将来のあるべき自己のイメージが個人の自律的学習活動を促し、それを支え続けるという結論を導き出しています。しかし、これは自動的にそうなるというのではなくて、そうなるための条件がいくつか必要であるように思われます。それらを以下の5項目にまとめて、この章のテーマである「学習意欲の心理学」の締めくくりとします。

 第1に、学習意欲を引き出すためには、自分は将来こうなりたい、こういう人間になるべきだという自己指針がなければなりません。すでに触れたように、その際、理想の自己と可能な自己との調和をはかることが大切です。そのギャップがあまりにも大きいと、理想の自己はただの見果てぬ夢に終わります。そうはならないように、理想の自己は長期目標として掲げておき、そこを目指して可能な自己を少しずつ広げていく。そうするためには、中期目標としての「あるべき自己」(ought self) を自己指針とするのが現実的です。この点で人は大きく違うようです。学習意欲のまったく欠けている人が多いのは、そういう指針を持っていないためだと考えられます。

 第2に、たとい自己指針があっても、それがあまりにも漠然としたものであっては役には立ちません。それが常に意欲をかき立てるパワーを発揮するためには、「あるべき自己」のイメージが具体的で活き活きとしたものでなくてはなりません。これまでの研究は、自己イメージが細部まで行き届いたものであるほど、それは動機づけとして効果があることを示しています。(自己イメージのトレーニングについては第4項を参照)

 第3に、「あるべき自己」は、当然のことながら、学習者個人が到達可能だという信念を持っているときにのみ有効です。しかし、これがなかなか難しい。私たちはみな自分の周りにいる人たちが気になるものです。日本の社会では、しばしば、出る釘は打たれます。みんなで仲良く、何でもほどほどにしておくという中庸の精神が尊ばれます。そういう環境の中でどこまで自分自身の「あるべき自己」の指針をつらぬくことができるか、そこが勝負です。勝利するために必要なのは、自分の能力を信頼する「有能感」(feelings of competence)でしょう。これは他の人と比較して自分が有能であるというよりも、理想的な自己の在りようから生まれる有能感であることが望ましい。スポーツ選手がよくやるように、他の人と競争して無理に自分の中に作り上げようとする自信のようなものは、一時的には効果があるように思えても、時に過信や傲慢、また失望や無力感につながりますので、筆者はお薦めしません。

 第4に、「あるべき自己」のイメージは、イメージ・トレーニング(またはメンタル・トレーニング)によって強化することができます。まず自分の心の中にある理想に向かって進歩する自己をイメージします。イメージづくりには想像力を駆使し、特に視覚的に自分の姿をイメージするようにします。そしてそこに至るまでのいくつかのステップを考え、それぞれのステップに至るための具体的な目標を設定します。イメージ・トレーニングは特にパフォーマンスの改善に効果的だと言われています。一流のスポーツ選手はイメージと聞いただけで、演技を行なう場所や状況などを、五感を使ってリアルにイメージできるといいます。英語学習者もそうなるといいですね。これはヴィデオなどを利用して自分の演技を記録し分析し内省するようにすれば、現在では誰にでも実践が可能です。

 最後に「経験すること」(experiencing)の重要性を強調したいと思います。言語学習は実際の使用経験を積み重ねることによってのみ前進するものです。経験することによって、自分の長所や欠点が自覚され、次の目標に向かって新たな意欲がかき立てられるのです。経験するためには、自分の生活に中に言語を実際に使用する機会を作り出す工夫が必要でしょう。そして習熟には多くの時間が必要なことを覚悟しなければなりません。参考までに、カナダ・オンタリオ州のバイリンガル・プログラムを紹介しました。そこでは、基礎レベルの達成に1,200時間以上、中級レベルに累積2,000時間以上、上級レベルには累積5,000時間以上の授業を中等学校修了までに用意しています。しかし日本では、大学を含めてもこれだけの授業は確保できません。つまり学校の授業だけでは上級レベルはおろか、中級レベルを修了することさえ難しいと考えられます。習熟には、それに見合う学習時間を自分で生み出さなければなりません。そしてその学習時間は、上級に進むほど必要性が増大します。長期にわたるその努力を支えるものは、自己の学習を全体的にコントロールする自律的な学習習慣と、「あるべき自己」に向かってエネルギーを結集し続ける燃える心であると言ってよいでしょう。(「学習意欲の心理学」おわり)

<TPPを考える ④−(1)手続き論>

TPP ④−(1) 手続き論

 民主主義の根幹は手続きである。手続きを踏んで物事を決めていく。反対派の意見にも耳を傾け、少数者の意見も尊重する。反対派、少数者を説得す努力も必要である。だから決定に時間がかかる。しかし、致命的な間違いを犯す危険は少なくなる。特に我々に本人の多くは、経済評論家内橋克人が言う“頂点同調主義”と“同質化傾向”に流されやすいから、民主主義の手続き論を肝に銘じておく必要がある。そういう観点からすると、国の将来にかかわるTPPに関する手続き論は重要な意味を持つ。だから、国民が内容をよく知らない内に参加に前のめりになるという民主党政権の非民主主義的手法に、多くの国民が危惧を抱かないわけにはい菅・野田!そこで、TPP問題がどのような経過をたどって今日に至ったかを検証してみたい。

<TPPをめぐる動き>

2006       P−4協定発足。(シンガポール、チリ、ブル
           ネイ、NZ)
2008−9     ブッシュ政権 P−4の交渉に一部参加。
2009−1     オバマ政権発足。
11−7  オバマ大統領来日 日本重視を強調(アジ
            ア歴訪の最初の訪問国)
11−11 米通商代表部 直嶋経産相に日本のTPP参
加 を促す。
11−13  鳩山−オバマ首脳会談。鳩山首相「東アジ
ア共同体」を提唱。
     11−14 オバマ大統領 東京のサントリーホールで演
説   アジア・太平洋地域でのパートナー
            シップの重要性を強調。
     12−14 オバマ政権 TPP参加を決定。
2010−3     9カ国交渉開始(P−4,米、豪、ペルー、ベト
ナム、マレーシア)
     10−1  菅直人首相、第176臨時国会所信表明演説
           「TPP参加を検討。11年6月までに最終判断」
           本会議および予算委員会で質疑。
     10−8  第47回日米財界人会議 両国政府にTPP実
現の支援を要請。
     10−21 日本経団連「11月のAPEC横浜首脳会合で
TPP参加を表明するよう」緊急提言。
     11−9  「包括的経済連携に関する基本方針」を閣議
決定。
            主要貿易国間のEPA/FTAの拡大に日本の
取 り組みが遅れているとして、「国を開く」固
い決意のもとに、高いレベルの経済連携を進
めることを表明した。具体的取り組みについ
は「センシティブ品目について配慮を行ないつ
つ、全ての品目を自由化交渉の対象とする」
     11−13 菅首相 APEC横浜会議を前に、経団連主催
のCEO・企業幹部の会合で挨拶 「包括的経
済連携に関する基本方針」による平成の開国
を強調、法人税の引き下げ検討を約束。
     11−14 菅首相 APEC横浜首脳会議の閉会に当たっ
ての議長記者会見で 「平成の開国」を宣言。
2011−1−14  菅首相 第177通常国国会の施政方針演説
で「平成の開国」を国づくりの理念としてうた
う。 
2     TPPのための米国企業連合(IBM,Boeing,
EXONモービルなど)米政府に貿易、投資の
障害除去を要望。
     3−11  < 東日本大震災・福島第一原発事故 >
     9−13  野田佳彦首相 第178臨時国会の所信表明
演説 「TPPの交渉参加についてしっかりと議
論し、出来るだけ早期の結論を出す」とのみ述
べる。
11−11 衆参両院予算委員会でTPP集中審議
           野党が情報不足を追及。
     11−12 野田首相記者会見「TPP交渉参加に向け
           て関係国との協議に入る」
           この会見の中で野田首相は、「TPPについては
党内で20回以上、50時間にわたって討議した」
と述べる。
     11−13 日米首脳会談(ホノルル)
           TPP交渉内容に付いて日米に食い違い。
アメリカ国務省「野田首相は、貿易自由化交渉
には全ての物品、サービスをのせるとオバマ
大統領に語った」と発表。
            外務省「事実無根」と抗議。日本政府訂正求め
ず。
     11−13 APECホノルル会合 野田首相 P-9との協議
開始を伝える。
     11−17 オバマ大統領キャンベラで演説
           「米国はアジア・太平洋を最優先」「誰もが従う
べきルールが、国際経済システムに存在す
る」「TPPは地域全体のモデルになりうる」
     12    メディア各社の世論調査で、野田内閣の不支
持率が、発足3ヶ月で支持率を上回った。TPP
に関して「国民に十分説明されているか」と
           いう設問には70~80%がNo.と答えている。
 
この年表を眺めていると、日本政府が、十分な国内的準備もないまま、アメリカの世界戦略にまきこまれていく様子が浮かび上がってくるではないか。この間、交渉の内容についてまともな情報が取れなかったとすれば、政府の情報収集能力の欠如は度し難く、もはや、間抜けとしか言いようがない。また、知っていて明かさないのであれば、民主主義国の政府として国民への裏切り行為である。民主党内でのTPP推進派の中心人物である前外相の前原誠司政調会長は、”TPPお化け論“を展開している。11月14日都内での講演会で「TPPの反対論、慎重論の中には、事実に基づいた不安感と同時に事実に基づかない議論もある。これを私は”TPPお化け”と言っている」と述べた。お化けは実態が見えないから怖いのである。情報が乏しいと言いながら、お化けの正体は知っていると言うのなら論理矛盾ではないか。はたまた、”民はよらしむべし、知らしむべからず”という江戸時代の政治感覚の持ち主なのか。

 TPP協定原案は、英文で160ページ、これにいくつかの付属文書がついており、21の交渉項目はいずれも国民生活に大きな影響を及ぼす可能性があるという。ところが、外務省のHPには、たった2ページのexcerptが載っているだけである。また、新聞、TVの多くは、“自由貿易は日本の利益”という理由で、いち早く社説で賛成論をぶった手前なのか、TPPについて十分な情報を提供しているとは思えない。本来なら協定全文を、それぞれの項目の専門家の解説を付して逐次紹介し、それに基づいて論説を展開すべきだろう。
         
 衆参両院での集中審議や谷垣自民党総裁との党首討論で野田首相は“日本の国益は必ず守る”と繰りかえし、「国益とは具体的に何か」という追求にも何をどう守るのかには、ほとんど触れなかった。政治家が”国益”、”国益”と叫び始めた時には警戒が必要だ。彼等のいう国益が本当に国民の利益なのかどうかよく検証してみる必要があるからである。したがって具体案が示されなければ本当に国民の利益になるのかどうか判断のしようがないのである。

 TPPに関する手続き論として、外交は政府の専決事項だから、政府に任せ、国民の代表である国会が批准の段階で民意を反映させればよいのだという意見がある。こういう意見を内橋は権威を背景とする”権論“と名づけ、民衆による議論を“民論”として対置している。民論を軽視し権論ばかりに頼っていると、やがてしっぺ返しを受けることになる。「殷鑑遠からず」米韓FTAをめぐる韓国国会の混乱、社会の反撥を他山の石とすべきである。(M)

学習意欲の心理学(10)

Author: 土屋澄男

中級レベルの話をしましたので、次は上級レベルの話になります。中級レベルの目標に達した学習者は、すでに英語の学習がどんなものであるかを体得していますから、あとは経験を積むだけの問題になります。中級レベルでは、辞書を引きながら雑誌や文献を読むことが目標の一つでしたが、それでは時間がかかりすぎます。上級レベルの学習者なら、できるだけ辞書を引かずに読めるようにしたいと思うでしょう。ラジオやテレビのニュースについても、自分に関心のあるトピックだけ理解できるというのではつまらない。ネイティブ・スピーカーと同程度までは無理としても、一般的なトピックのニュースはだいたい聞き取れるようになりたいものです。また会話も、普通のトピックはフォローできるようになりたいと思うでしょう。手紙を書いたり、プレゼンテーションをしたり、ちょっとした議論をしたりすることもできるようになりたいものです。そのために必要なのは言語使用の経験であり、経験を積むために必要なのは使用の機会と時間です。

 カナダ・オンタリオ州の上級レベルのフランス語コースはどうなっているでしょうか。まず到達目標として次のような項目が挙げられています。(ア)大学教育をフランス語で受けられること、具体的には大学での講義を理解し、論文を書き、討論に参加できること、(イ)フランス語を使う仕事に就職できること、あるいは、短期間のオリエンテーションの後、フランス語社会で生活できること、(ウ)ごく普通に会話に参加できること、(エ)フランス語系カナダ人の感情や価値観が理解できること(伊東克己著『カナダのバイリンガル教育』渓水社)。

 カナダは英語とフランス語を公用語とするバイリンガル国家ですから、国民の融合のためにできるだけ多くの人がバイリンガル(二言語併用者)になることを望んでいます。つまり、フランス語を第一言語とする人には英語を学んでもらい、英語を第一言語とする人にはフランス語を学んでもらって、相互のコミュニケーションをスムーズにしたいというわけです。そしてこれは、教育政策の主要課題の一つともなっています。ですから、上級レベル学習者はフランス語でほぼ自由に会話ができ、それで仕事ができ、大学教育をフランス語で受けられることが目標となるわけです。オンタリオ州の到達目標では、大学教育をフランス語で受けられることが第一に挙げられていますが、それはこの上級レベルのコースが、大学進学を目指す中等学校生徒のためのものだからです。

 では上級レベルの授業時間数はどうなっているでしょうか。オンタリオ州フランス語授業基準表によると、小学校第4学年から中等学校修了までの10年間に割り当てられているフランス語授業時間数は、累積するとなんと5,070時間に達します。これは中級レベル達成に必要な2,160時間に、さらに2,910時間が追加されています。これほど膨大な授業時間がどのようにして確保できるのかというと、それは「イマージョン・プログラム」という特別なコースの履修によってのみ達成可能になります。このプログラムは、初等学校の第6学年から第8学年にかけてイマージョン・プログラムを履修し、中等学校(第9学年から第13学年)では、フランス語の授業が約50%を占めるバイリンガル・プログラムを履修した場合にのみ可能になります。カナダでは、この最後の累積学習時間が5,000時間に達することが、各教育委員会の提供するフランス語教育プログラムがイマージョン・プログラムとして教育省に認定されるかどうかの基準となっています。

 学校教育で5,000時間の第二言語または外国語の授業を確保することは、特別なバイリンガル教育プログラムを設定しないかぎり、日本では実施不可能でしょう。わが国の現状から考えられることは、高校修了時までに基礎レベルの英語を身につけさせ、大学修了時までに中級レベルの英語力を確保できるカリキュラムを用意することです。上級レベルの目標達成は容易ではありません。それには英語を主要言語とする地域の大学・大学院などに留学するか、職業上の必要などから相当期間の英語使用経験を積み重ねて、はじめて可能になると考えられます。最近、大学学部の英語専攻以外の専門科目で英語のみを使用する講義や演習が増えてきたと聞いています。これは上級を目指す英語学習者にとっては福音です。しかし注意しなければならないのは、そういう科目を履修しても、中級レベルの到達目標をクリアするだけの英語力がついていなければ、時間をいたずらに消費することになりかねません。留学についても同じことが言えます。日本人学習者は、上級に入る前に、まず中級レベルの英語力をしっかりと固めることが肝要です。(To be continued.)

学習意欲の心理学(9)

Author: 土屋澄男

イメージ・トレーニング(またはメンタル・トレーニング)は、効果のある練習法として現代のスポーツ選手に広く認められていますが、英語学習者にとっても、特にプレゼンテーションやスピーチなどのパフォーマンス向上のために、大いに利用すべきテクニックです。パフォーマンスにはプレゼンテーションやスピーチのような発表活動だけでなく、相手の話を聴いてそれに適切に反応する場合に必要な理解活動も含まれます。ですから、ある事柄について誰かと意見を交換するというような対話や議論などの活動も、イメージ・トレーニングの対象になるでしょう。その場合は、対話する人のイメージを呼び起こし、その人がどんなことに関心があり、どのような意見を持っているかを予想し、それを自分の意見と比較しながら議論の進め方を考え、そのプロセスをイメージ化することができます。もちろん実際の対話場面では予想通りには進まないでしょうが、およその進行を心にイメージしておくことによって、不測の事態にも落ち着いて対処できるものです。

 イメージ・トレーニングの話がここまで進むと、私たちはすでに英語学習の基礎レベルを超えて、中級のレベルに入っています。ここで中級レベルの英語学習についてふれておくことにしましょう。筆者はこのトピックの最初のほうで、カナダ・オンタリオ州のフランス語授業計画について述べたことがあります。そこでの中級レベルと呼ばれている学習段階を見てみましょう。まず、このレベルの到達目標は次のようです。(ア)時々辞書を引くだけで、関心のある分野の新聞記事や文献が読めること、(イ)関心のあるラジオ・テレビのニュースや番組が理解できること、(ウ)会話に適切に参加できること、(エ)フランス語系社会の文化・習慣・経済・諸制度などについて適切な情報を得ていること、(オ)フランス語系社会に2~3ケ月も居住すれば、そこで通常な言語生活が営めること(伊東克己著『カナダのバイリンガル教育』渓水社による)。

 上記のオンタリオ州でのフランス語到達目標のうち(ア)~(ウ)については、そのまま日本の英語学習者の中級レベル到達目標に当てはまるように思います。つまり、学習者に関心のある分野について、時々辞書を引くだけで新聞記事や文献が読め、その分野に関係するラジオ・テレビのニュースが理解でき、会話にも参加できる、というわけです。オンタリオ州ではこのレベルを中等学校修了時までに到達できるような選択コースが用意されています。しかし日本では基礎レベルを終えるのに高校修了時までかかりますので、中級レベルの英語学習は大学の4年間をかけて行なうことになります。ここでしっかりとした学習ができるかどうかで、将来英語が実際に使えるようになるかどうかが決まります。その機会を逃すと、高校までに学習した基礎レベルの英語知識が冬眠状態に入り、後で再学習に入ったときに忘却したものを回復するために多大の余分なエネルギーを費やすことになります。このことについての認識が多くの大学生や一部の英語教員に欠けているのは、非常に残念なことです。

 そこで、大学での中級レベルの英語学習の目標を達成するためには、どれくらいの時間を確保したらよいでしょうか。オンタリオ州のフランス語授業基準表では、このレベルに到達するのに設定されている授業時数は、小学校第4学年から中等学校修了時までの10年間で、延べ2160時間です。そのうち基礎レベルに1200時間が費やされることになっていますので、中級レベルの達成にはさらに約1000時間が確保されなければなりません。日本の大学における英語授業数は大学設置基準の改訂(平成10年)により、大学で取得すべき外国語の単位数は大学ごと決められています。英語専攻の学部・学科やコースを除くと、外国語は第1年次と第2年次で週90分の演習が2コマというのが標準的です。すると、大学での英語の授業はせいぜい240時間くらいにしかなりません。残りの760時間は自主学習で埋めなくてはならないことになります。

 現状では、自主学習をしない大学生の卒業時における英語力は、高校修了時とあまり変わらないことになります。いつか東大の英語の先生が「東大生の多くは入学時の英語学力のほうが卒業時よりも高い」と言って世間を驚かせましたが、これはたぶん真実ではないかと思われます。こうして一流と言われる大学の卒業生でも、その英語力はせいぜい高校卒業程度、つまり基礎レベルの目標に到達したかどうかという程度と推定されます。ここから出てくる結論は簡単です。大学卒業時までに中級レベルの英語をしっかりと身につけたいと思う人は、大学4年間で760時間またはそれ以上の自主学習を行なわなければならないということです。この目標を達成するには、大学在学中にそれだけの英語学習時間を自分で生み出すことが必要なのです。(To be continued.)

< TPPを考える ③ >

③ 自由貿易と経済ブロック

 第二次世界大戦の背景には、1930年代の大恐慌に対応するための列強の ①平価の切り下げによる輸出ドライブと世界市場の奪い合い、②植民地を巻き込んだ関税障壁の引き上げによる排他的経済ブロックの強化があった。このような歴史への反省から、戦後世界の永続する平和を確保するための基盤として、安全保障面での国際連合とともに、①通貨の安定をはかるIMF(国際通貨基金)と ②互恵平等の自由貿易を目指すGATT(関税と貿易に関する一般協定)が設けられた。これらの設立を主導したのは超大国となったアメリカであったが、アメリカ議会はGATTの批准を拒否した。第一次大戦後、国際連盟の設立を主導しながらアメリカ議会が批准を拒否したのと似ている。要するに、枠組みの恩恵は受けるが、自国の具体的な不利益は拒否するというのがアメリカ議会の常套手段である。
  
 敗戦国の日本は、戦後10年の1955年にGATT加入を許され、1959年には、戦後初めての日本での大規模な国際会議としてGATT東京総会が開かれた。この会議を取材中に親しくなったGATT事務局員の中に、戦後直ぐ進駐軍の兵士として日本に駐留した人がいた。彼は、再び訪れた日本の復興振りに驚き、「そのうち日本はアメリカのライバルになるかも」と言って笑った。当時、日本は、まだGATT35条の援用国という差別待遇を受けており、外貨準備高は数十億ドル(現在は1兆3千億ドル)しかない状態であったが、彼の予感は的中した。GATTの恩恵を最も大きく享受したのは日本であると言われている。GATT参加のおかげで日本の輸出は飛躍的に伸びて、早くも60年代にはアメリカを脅かすまでになった。

 それを象徴するのがアメリカの対日貿易赤字の増大、それに伴う繊維、自動車、半導体、政府調達などをめぐる日米貿易摩擦であった。アメリカ側は日本に自由貿易とはうらはらの輸出規制と内需拡大を求めて圧力を強め、前にもこのグログに書いたが10年間で公共投資を10倍にせよという要求まで持ち出し、日本はこれを飲んだ。日本はアメリカに守ってもらっているという負い目、アメリカは日本なしでもやっていけるが、日本はアメリカなしではやっていけないとい引け目が、2国間協議ではこういう結果をもたらす。今年締結され、批准をめぐって韓国の国会で催涙ガス騒ぎが起きた米韓FTAについても同じことが言えるだろう。

 一方、GATTやWTOのような多国間(多角的)交渉では、大国のエゴは通りにくい。GATTの場で、日本が本格的にアメリカと争った数少ない事例に、冨士フィルムとコダック社の外資規制などについての紛争がある。この争いはGATTを引き継いだWTOの紛争小委員会の場で日本側の勝訴となった。GATTは、1995年に発展的に解消して、関税のみでなくサービス産業や知的財産権をも扱うWTO(世界貿易機関)となったが、先進国と途上国、とくにアメリカとインドの確執で、ここ数年間停滞している。死んだわけではないが、その行き詰まりの陰で、2国間或いは数カ国間の地域貿易協定を結ぶ動きが活発化した。現在、世界で300を超えるという。しかし、加盟国すべてを平等に扱うルールのあるWTOと異なり、小国は交渉の埒外におかれる。ちなみに、ロシアのWTO加盟が、申請から18年を経て先月決定したが、最終段階で長引いたのは小国グルジアが反対したからで、アメリカなどが説得に当たった。ロシアの加盟でWTOは世界貿易の98%をカバーすることになる。

 地域ブロックとして最大のものはいうまでもなくEU(ヨーロッパ同盟)である。EUは1952年欧州石炭鉄鋼共同体として発足し、1958年に欧州経済共同体になり、さらに政治的統合を目指して参加国を増やしてきた。冷戦終結後は旧東欧諸国をも含めた地域ブロックに成長し、現在の加盟国は27カ国にのぼる。これに対抗してアメリカは、1994年、メキシコ、カナダとNAFTA(北米自由貿易協定)を結んだ。アジアではASEANを中心に連携が進んでおり、日本も2002年のシンガポールを初めとして、年代順に、メキシコ、マレーシア、フィリピン、チリ、タイ、ブルネイ、インドネシア、ベトナム、ASEAN,スイス、ペルーそしてインド(2011)とEPAないしFTAを締結、或いは交渉を終わり、韓国、中国、湾岸諸国、及びオーストラリアと交渉中である。TPPはその流れを一層促進させることをねらっている。だが、WTOのように公正な交渉によってルール作りが進められるかどうか懸念が残る。(M)

* GATT (関税と貿易に関する一般協定 ガット the General Agreement on Tariffs and Trade ウルガイ・ラウンドの参加国 125)
* WTO (世界貿易機関 ダブリュ・ティー・オー the World Trade Organization ドーハ・ラウンドの参加国 153)
* FTA (自由貿易協定 エフタ free trade agreement ) 関税や企業への規制の撤廃など物流の自由化
* EPA (経済連携協定 イー・ピー・エー economic partnership agreement )物流に加え知的財産権、投資の自由化、人的交流など幅広い分野での連携
* TPP (環太平洋戦略的経済連携協定 ティー・ピー・ピイーthe Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement 最初の参加4カ国、現在は9カ国、日本など3カ国が参加希望)
* FTAAP (アジア・太平洋自由貿易地域 エフタープ the Free Trade Area of Asia-Pacific  APEC加盟21カ国の参加を目指すという)
* 英語の略語には、元となる語の頭文字を、アルファベット読みにする initial と、一語のように読む acronym がある。どのように読むかは慣用で決まる。initial には定冠詞をつける場合がある。(ex. the BBC )

“テレビの演出とはなんだ?”という話
(1)“演出”とは「芝居、テレビ、演奏などが効果的に目的に適うように工夫すること」という意味があることを前提にして話を進めますが,テレビ番組を見る場合は、“眉に唾をつけて”見なければいけないという問題を取りあげます。3週間ほど前にある番組でかなりの数のタレントを集めて健康診断の結果を公表して、「この人は後何年生きられるか」という寿命のことまで話し合っていました。診断している医者たちは、所属病院まで公表していましたから、ニセ医者でないことは確かなようでした。

(2)その番組で「この人はいつ死んでもおかしくない」とまで言われたあるタレントを追跡視聴してみました。そのタレントは、他のテレビ番組やラジオなどにも出演して忙しそうでしたが、そのテレビ番組の後でも、健康状態のことは何も語りませんでした。そればかりか、食事をする場面までいつもと変わりなく美味しそうに食べながら宣伝をしていました。私のある年配の知人は、「そんな番組なんて“演出”に決まっているじゃないか」と平然と言いました。こうなると、どんなテレビ番組も“演出”とは“やらせ”のことに見えてきます。影響力の大きいテレビがそういうことをしているとしたら、加担した医者を含めて、許せないことです。

(3)ある番組では、様々な品物を前に置いて、タレントたちが、その1つ1つが、百円以下の安物か、何万円もする高額商品かを順番に当てるコーナーがあります。当たらない場合は、その高額商品を自腹で買うことになります。先日は、「とくダネ!」(フジテレビ系)の司会者小倉智昭が出演し、合計で百万円ほどの品物を買わされました。その場に出演していたタレントたちは、「明日の“とくダネ!”で小倉さんが何と言うか見ものだ」とからかっていました。しかし、翌日の小倉智昭は、前日のことには何も触れませんでした。やはり、前日の番組は、視聴者をハラハラさせるための“演出”だったと思わざるを得ません。

(4)あるテレビ・ドラマについて、その監督が、「場面はリアルなものでないといけない」という趣旨の発言をしていました。私は、殺人事件でも、“いじめ”を扱った学園ドラマにしても、画面が“どぎつい”ものが多過ぎると感じています。極端に言えば、“殺人”や“いじめ”の手法を教えているように思えるのです。そのくせ、終わりには、「このドラマはフィクションです」といった断りを出しています。フィクションなら、画面はどんなに“どぎつくても”よいのでしょうか。テレビ関係者は、自分の都合ばかり考えずに、視聴者をもっと大事にしないと、それこそテレビの“寿命”はいつ尽きるか知れませんよ。(この回終り)

学習意欲の心理学(8)

Author: 土屋澄男

前回は、何かをしようという人間の意欲と想像力の関係について述べました。そのポイントの一つは、自己についてのイメージづくりが、「あるべき自己」を実現するパワーになるということでした。このことに関連して、特にスポーツ心理学の分野で「イメージ・トレーニング」と呼ばれる練習法がさかんに研究され、広く応用されています。(これに類似した用語に「メンタルトレーニング」というのがありますが、これはイメージ・トレーニングを含む広義の心理的トレーニング法をいいます。)

 イメージ・トレーニングは、現在、ほとんどあらゆる種類のスポーツに応用されています。これは、スポーツ選手が心の中に自分の「あるべき姿」をイメージし、実際の演技がそれに近づくようにトレーニングを行なう方法です。たとえば、「100メートル走」の選手が自分の走りをヴィデオに撮るなどして分析し、どこに欠陥があるかを見出し、それをどのように修正したらより効率的な走りができるかを考え、それを頭の中にイメージし、目をつむってもそのイメージが脳裏に浮かぶようにします。分析に際しては、より客観的な評価をするために、コーチや他の人からの助言を得ることも大切です。そういうイメージづくりを充分に行なった後に、実際に走ってみます。そして自分の体がイメージ通りに実行できるまで繰り返しリハーサルをします。「体操」や「フィギャースケート」などの高度な個人技には、このようなトレーニンが必要不可欠なことは容易に理解できるでしょう。最近は個人技を競うスポーツだけではなく、サッカーやベースボールなどの団体スポーツにも、個々の選手の技能向上にこの練習技術が広く応用されています。

 イメージ・トレーニングを私たちの英語学習に応用することはできないでしょうか。もちろん可能です。実際にそのようなトレーニングを行なって効果をあげているという報告があります。まず記憶ストラテジー(方略)として、語句や文などをイメージ化して記憶する方法が知られています。つまり、語句や文を記憶するときに、それと意味的に(または形式的に)関連のあるイメージと組み合わせて記憶するわけです。たとえば、次の(a)と(b)の文はどちらが記憶しやすいでしょうか。

(a) The jeans were made by a tailor. (b) The jeans were made by a machine.

おそらく、多くの人にとっては (a) のほうが記憶しやすいでしょう。その理由は、仕立屋さんがジーンズを作っているシーンはイメージしやすいが、機械がジーンズを作っているシーンはイメージしにくいからです。このように、語句や文や文章を視覚的なイメージ(または聴覚などの他の感覚によるイメージ)を心に思い描いて、そのイメージと結びつけて記憶すると保存しやすいということがあります。これはイメージ・トレーニングの記憶面への応用の一例です。

 さらに、学習意欲に関してはこちらの方がずっと重要と思われますが、自分の目標としている「あるべき自己」のパフォーマンス(演技)をイメージし、それを自分の現時点で到達しているパフォーマンスと比較し、どこを修正したらあるべき演技に近づくことができるかを考えます。このイメージ・トレーニングは非常に重要です。たとえばクラスで、英語でプレゼンテーション(またはスピーチ)をする場合を考えてみましょう。まずそのための準備をしますが、たいていは原稿を作ることから始めます。しかし、出来上がった原稿を暗記するようなことはしないほうがよろしい。なぜなら、暗記しようとすると、原稿通りに間違いなく話すことに注意が向いてしまって、自然さが失われます。そして途中で間違えると、必ずと言ってよいほど混乱に陥ります。そこで、出来上がった原稿は机の上に置き、目の前に聴衆がいることを想像して、その人たちに向かって話すように練習するのです。その場合リハーサルをヴィデオに撮って、自分の現在のパフォーマンスを客観的に分析することが大切です。ここがまずいから、このように修正しようという点をいくつかメモし、その部分を一つずつ意識的に修正しながらリハーサルを繰り返します。そのようにして自分のあるべき姿をイメージすることができ、ある程度の自信が生まれてくれば、リハーサルは終了します。そして本番に臨むわけです。

 このように、イメージ・トレーニングの神髄は、現実の自己とあるべき自己との間のギャップを埋めることにあります。そのギャップがあまりにも大きすぎると、学習者は自信を失って絶望的になります。その成否は、学習者がそのギャップをなんとかして埋めたいという意欲と、何とかするという信念の有無にかかっています。(To be continued.)

< TPPを考える ② >

② TPPの底流

 TPPを考える時に重要な視点のひとつは、それがアメリカの世界戦略の中でどのような位置づけになっているかという点である。そこで、TPPをめぐる底流として、戦後のアメリカのアジア戦略とアジアにおけるブロック化の歴史を振り返ってみる必要があると思う。

 太平洋戦争以前は、日本を除き、アジアのほとんどの国は欧米列強や日本の植民地或いは実質的保護領であった。当時の大日本帝国は、アジアの植民地に潜在する民族独立願望を利用して、いわゆる“大東亜共栄圏”を形成しようとした。共栄を標榜しながら、実は石油を初めとする資源の獲得が目的であることを見透かされ、この構想は敗戦とともに消え去ったが、結果としてアジアの諸国は独立を達成した。宗主国であった英、仏、蘭のヨーロッパ勢力は後退して、太平洋戦争の勝者であるアメリカのアジアにおける覇権が確立した。

 しかし、アメリカにとってアジアは、あくまでヨーロッパ正面の対ソ・東欧第一戦線を補完する第二戦線であり、その戦略目標は共産中国の封じ込めであった。とくに中国の影響が中国仕込みのホーチミン率いる北ベトナムを通じて東南アジアに広がることを恐れた。いわゆるドミノ理論である。ドミノ倒しを防ぐためとしてアメリカは、旧宗主国と語らって、1954年、SEATO(東南アジア条約機構)を結成した。つまりは、第一戦線におけるNATO(北大西洋条約機構)のアジア版である。だが、SEATOは、旧宗主国と独立間もないアジア諸国の寄り合い所帯であったため、ベトナム戦争において機能せず、1975年、アメリカは敗てれベトナム社会主義共和国が誕生した。しかし、ドミノ倒しは起きなかった。アメリカはアジアにおける民族主義の高まりを2重に見誤ったのである。

 欧米主導のSEATOに対し、東南アジアの内発的な動きとして、1967年、タイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、フィリピンの5カ国により、ASEAN(東南アジア諸国連合)が結成された。ASEANはボルネヲ島の旧イギリス植民地をめぐるインドネシアとマレーシアの対立から、意図的に、政治、外交、安全保障などの戦略的要素を排除したため、米ソの冷戦中は、ブルネイが加盟しただけで、ほとんど存在感を発揮できなかった。ASEANは、冷戦終結後の1990年代に入って社会主義国であるベトナム、ラオス、カンボジアのインドシナ3国とミャンマーを加えて、ASEAN-10となってから、域内人口6億人を擁する無視できないグループに成長した。

 中国もまた冷戦終結とともにASEANとの関係改善に乗り出し、1997年には初のASEAN+3(中国、日本、韓国)首脳会議の開催に成功した。ASEAN諸国には多数の華僑が存在し、経済の中枢を担っているところもあり、中国は急速にASEANのとの結びつきを強めていく。ASEANはさらに、インド、オーストラリア、ニュージーランドを加えたASEAN+6によるアジア・オセアニアの経済連携協定を視野に入れて行動を開始した。
           
 一方、ベトナム戦争によって東南アジアへの影響力を大幅に減殺されたアメリカは、アジアの同盟国である日本を通じてアジア戦略の立て直しを図った。これに応じて大平正芳首相が提唱したのが、環太平洋構想(the Pacific Basin concept)、つまり、アジア、オセアニア、アメリカ大陸を包含する経済連携構想であり、これがAPEC(the Asia-Pacific Economic Cooperationアジア・太平洋経済協力)の源流になったといわれる。APECは1989年、日、米、加、豪、ニュージーランドとブルネイが参加して発足した。その後、ASEAN諸国や中国、ロシア、メキシコ、ペルー、台湾、香港などが加入し、現在は21の国と地域で構成されている。このうちTPPの交渉に参加しているのは、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド、米、豪、マレーシア、ベトナム、ペルーの9カ国で、日本とカナダ、メキシコが参加を希望している。

 野田首相によると、TPPはAPEC全体をFTAAP (the Free Trade Area of the Asia-Pacificアジア太平洋自由貿易地域) に発展させる最初のステップであり、事実上のリーダーであるアメリカはTPPの門戸を中国を含め、全てのAPEC諸国に開いているというが、中国は招待されていないと主張している。私見では、中国がTPPに参加することはないと考える。なぜならば、TPPに参加すれば、中国共産党によるすベての統制が協定違反とされ、独裁国家として成り立たなくなってしまう可能性があるからである。したがって、中国はASEAN+3を軸にアジアのブロック化を進める一方APECに留まってアメリカの戦略的意図を牽制するだろう。 
                   
 アメリカのオバマ大統領は、11月17日オーストラリア議会で行った演説で「アメリカは、今後の安全保障政策でアジア・太平洋地域を最優先に位置づける」と宣言した。この宣言は、アメリカが戦略の軸足をヨーロッパからアジア・太平洋へ移し、中国を世界戦略上の主目標として21世紀の覇権をかける主戦場とすることを示唆したものではないかという見方も出ている。(M)

“クイズ番組”を考察する
(1)高校生にとても人気があるのは、毎年夏休みに行われる「全国高等学校高校生クイズ選手権」(日本テレビ系)のようです。「アメリカへ行きたいか?」という司会のアナウンサーの掛け声に、大勢の高校生が「おー」と大声で応じるのです。今年(2011)の問題の1つは、「金星にある2番目に高い山の名前は?」というものでした。こんな問題に答えられる高校生が何人かいるのですね。私が高校生だったら、「そんなこと覚えて何になるのだ」と抵抗すると思います。

(2)金星について学ぶならば、「なぜ金星は“明けの明星”とか、“宵の明星”と呼ばれるのでしょう」といった問いに答えられるようにしたいと思います。ある若い知人にそう言ったら、「理科的なことはダメで、文学的なことは良いとは言えない」と反論されました。私は、理科か文学か、といった問題ではなくて、日常生活で使われることの多い言葉とか表現を知ることが高校生には大切だと思ったのです。それが“教養”であり、日常のコミュニケーションを円滑にさせる“潤滑油”の役目を果たすからです。

(3)“クイズ番組”は各局にいくつかあります。“Q様”(テレビ朝日系)は問題によっては程度が高過ぎますし(漢字の意味など)、“ペケポン”や“ネプリーグ”(フジテレビ系)は、ゲストによってレベルが大きく変わります。10月の新番組編成で消えましたが、私は「平成教育委員会」(フジテレビ系)をよく見ました。私立中学の入試問題を基準にしていたので、問題の意図やレベルが分かりやすかったからです。中にはおかしな出題もありましたが、日本では、“お受験”なんていう変な言い方があるように、受験制度そのものがおかしいのだと思います。

(4)「教科書にのせたい!」(TBS系)は、クイズ形式ではありませんが、お笑いの“ウッチャンナンチャン”などが、わりと真面目に司会をしている教育番組です。先日のテーマは「比較をすると分かりやすい」ということで、東京の日比谷公園にエジプトのピラミッドがあったらこうなります、ということで、CG 画面を提示して、その高さを東京タワーと比べやすくしていました。これなどは教室でも応用出来る教材になるでしょう。時には極端過ぎる例があるのは他の番組と共通です。

(6)TBS と言えば、“日立”が提供している「世界ふしぎ発見!」がよく知られた長寿番組ですが、1時間の中で3回出題があって、そううちの1回は選択肢問題です。常連の回答者には黒柳徹子や坂東英二などがいます。やらせでなければ、黒柳徹子の正答率は驚異的なものです。記述式の答は私などほとんど答えられません。。

(7)この番組で感心するのは、“ミステリーハンター”と呼ばれるレポーター役の女性のことです。特定の事務所などからの推薦で選ばれるようですが、未開の奥地へ行って、そこの住民に歓迎されると、得体の知れない飲み物や食べ物を口にしなければならないのです。ある時は嫌がりながらも、蛾の幼虫のような青虫をそのまま食べていました。その勇気には脱帽です。

(8)視聴者でも、クイズ番組を4週間くらい続けて見ていれば、同じような問題が繰り返されるので、正答率が高くなります。しかし、その答を覚えてもすぐに忘れてしまうのが普通です。つまり“点的情報”で、“線的情報”ではないからです。クイズの答に限らす、“テレビからの情報は自分で想像力を働かせて積極的に処理しないとい意味がない”ということです。(この回終り)