Archive for 8月, 2013

(159)参院選管見

Author: 松山 薫

(159)参院選管見 暮らしはどうなる

④−5 賃金は増えるか

〔現状〕

  厚生労働省の調査によると、平成24年の雇用労働者の平均月額賃金は、平均年齢39.8歳で、42万3千4百円であった。年収にすると、502万円となる。しかし、これは、勤続年数17年の正社員の平均であり、パートを含めた非正規社員の平均給与は、残業代、賞与を含めて、月額 31万4千2百円、年収 377万円で、前年比0.6% 減リ、1990年以降最低となった。この内フルタイムの雇用者賃金は 40万1千7百円、パートタイマーは9万七千2百円で、パートタイマーの増加が全体の水準を引き下げている。パートなどの法定の最低賃金は、全国平均で1時間当たり763円で、限度一杯働いても、月収は12万円程度にしかならない。このため、非正規労働者の4人に3人が年収200万円以下となっている。政府が最低賃金の引き上げに介入したのは、生活保護費との逆転が起きたからであるが、それでも、イギリスの928円、フランスの1084円などにははるかに及ばない。

〔問題点〕

 国際労働機関(ILO)が定めているように、賃金が労働の対価であるならば、同一労働、同一賃金が原則であべきだが、日本の賃金にはこの点に関して問題が多い。またILO第1号条約では、労働時間は1日8時間、1週48時間が限度と定めているが、日本政府はこの条約を批准しておらず、多くに事業所で長時間労働が常態化している。

① 男女間の格差:厚労省の調査によると、平成22年現在、女性の賃金は男性の7割弱で、他の先進諸国に比べて格差が依然大きいとしている。

② 正規労働者と非正規労働者の格差: 上記調査によると、正規労働者の月額平均賃金が31万7千円であるのに対して、非正規労働者は19万6千円で、約6割。

③ 長時間労働 : 就業時間の長さにも、大きな問題がある。正規の賃金では食っていけず、時間外労働に頼らざるをえないのが現状だろう。NHKに中途採用で入社した時、基本給が前の会社より2割以上も少なかったので、「これじゃ食っていけませんよ」と言ったら、採用担当者は、「報道は時間外が多いから、十分食っていけるよ」と言った。時間外にたよる賃金は、60年前と何も変っていいない。いや、ますます悪化するのではないか。work-and-life balance はなかなか実現できそうもない。

④ 裁量労働制のわな—“名ばかり管理職”: 労働基準法では、1日8時間、週40時間が所定労働時間となっており、時間外割り増し賃金を払えば1日13時間まで延長で
きる。割増賃金を払わず、しかも、この延長枠を超えて働かせるさせる目的で、”名ばかり管理職“などが横行し、日本人はworkaholic (仕事中毒)であるとさ、”karoshi“が世界的に知られるようになった。その代表的なものが”ブラック企業“だ。東京のある弁護士グループは、今年の「ブラック企業大賞候補」に外食産業の「ワタミ」、アパレルの「クロスカンパニー」教育関連の「ベネッセ」、運輸大手の「西濃運輸」など8社を挙げている。
NHK労組の役員をしていた頃、労使の協議で「組合員管理職」という得体のしれない
ものが出来た。このような「鵺的」存在が労働運動に及ぼす悪影響を考えて反対したが、組合大会ではあっさり承認されてしまった。記者だプロデューサーだ、ジャーナリス
トだと言っても、所詮はサラリーマンだと、改めて思い知らされた。

⑤ 有給休暇:労働基準法では勤続年数に応じて年間10日から20日間の有給休暇を、原則として自分の望む日に取れることになっているが、消化率は民間の調査では40%以下で主要先進国中最低、厚労省の調査でも50%以下である。理由は色々あるが要するに自由に取りにくい労働環境や職場の雰囲気があるということである。そこで、正月、ゴールデンウィーク、お盆などに、一斉に休み、”民族大移動”が起きることになる。外国人から見ると異様な光景だ。”群れる国民性”を温存するのに役立っているのではないかと言った外国人の同僚がいた。そのほうが統治者にとっては都合がよいだろう。二昔くらい前に国民の祝日を増やすことに熱心な“牛若丸”とかいう自民党の政治家がいた。”牛若丸”はそのことを承知の上で、やっていたのだと私は勘ぐっている。

⑥ 物価の値上げラッシュ: アベノミックスによる円安で輸入物資の値上がりが続く。  原油・天然ガスの値上がりによる電気・ガス料金の大幅値上げ、ガソリンはリッター160円で高止まりしている。私が車に乗っていた10年前は85円くらいだった。
 この他、冷凍食品、小麦製品、清酒、食用油、ハム・ソーセージ、ラップなど枚挙にいとまがない。私はチーズパンが好きで、いつもプールの帰りに買っているが、この半年ほどで3分の2くらいの大きさになり、チーズの個数も大幅に減った。多くの輸入関連食料品でこういう実質値上げが行なわれている。
賃金と物価は相対的なもので、戦後のインフレ期には年3回ベースアップという時期もあった。今は物価が上がって、賃金が下がっているのだから、大人数の世帯や収入の少ない年金生活者などは大変だ。安倍首相は選挙戦で、10年間に国民総所得(GNI)を150万円増やすと演説したが、故意か無智かこれは、GNIを個人所得と取り違えており、うまくいっても半分程度しか増えない専門家は言う。アベノミックスでは10年間、年率2%のインフレを想定しているから、実質賃金はほとんどあがらないことになる。

 ⑦ 企業の出し渋りと労働組合の無力:企業の内部留保金はこの10年間で200兆円からから390兆円へ増えた。国家予算の4倍にもなる膨大な利益の蓄積だ。利益が上がれば労働分配率も上がるというのが長年の慣行であったが、ここ10年はそれも崩れた。労働組合の存在意義が問われている。

〔展望〕

 前回のブログで述べたように、政府・財界は、国際競争に勝つためとして、労働力の流動化を進めようとしている。なんだか、明治から敗戦まで続いた富国強兵策の現代版のような気がする。つまり、労働者は、企業戦士となって、与えられた所で、文句をいわずに、倒れて後止むの精神で、お国のために働けと言われているようなものではないか。で、果たして勝てるのか。当面はともかく、中・長期的に見れば私の答えは“No.”だ。

企業が内部留保金を増やして、使わないのは、先行きに不安を感じているからだろう。短期的には、投機マネーに翻弄される世界経済は、第2のリーマンショックのような事態を招く危険性が十分ある。また、中期的には、世界的な賃金の平準化は避けられず、海外に進出しても生産コストが減る条件はなくなっていくだろう。かつて日本の10分の1程度であった中国の賃金は年率10%以上増えており、「チャイナ+1」としてのタイでは最低賃金が大幅に増額された。日本企業はベトナムややミャンマーへ逃避するようだが、同じことの繰り返しに終るだろう。さらに、長期的には、急激な人口減少を考えれば日本が再びGDP大国になる可能性は極端に低い。右肩上がりの経済成長を前提にした政策はやがて行き詰まる。

 もう半世紀も前のことだが、海運関係の取材をしていた時の忘れられない思い出がある。 全日本海員組合(全日海)と船主協会との賃金交渉の席で、船主協会側の山下汽船の社長が「組合の要求を呑めば、会社が潰れる」と猛反対した。これに対して全日海の中地熊三組合長は「従業員に十分な生活を保証できないような会社は、社会的に存在の意味がない」と言い放った。海員組合はその後、3ヶ月に及ぶストライキに突入した。当時、日本でほとんど唯一のクローヅドショップ制の産別組合であったから出来たことだった。その後、船主側と政府は、海運会社の集約を実施するとともに、海運業界は日本人船員を外国人に代えて行った。現在の企業の海外進出(逃避)を先取りしたものと言えるだろう。私は、今でも、中地組合長の発言は将来に通ずる大原則だと思っている。 そして、その原則を実現するには、GDP信仰とは別のアプローチが必要だと考えている。(M)

* 前回のブログで、「社会保障が0%」とあるのは、60%の入力ミスでした

英語の学び方Q & A (4)

Author: 土屋澄男

Q: 日本人にとって英語は学びにくい言語だと聞いています。本当にそうなのですか。そうだとすればその理由は何ですか。

A: 多くの日本人は英語が不得意だと言います。中学から高校または大学までそれなりに一所懸命に勉強したのに、殆どまたは全く使えるようにはならなかった、と言います。その理由はいろいろ挙げられますが、上の質問者のように、そもそも英語は日本人には学びにくい言語だという説があります。もしそうだとすれば、なぜそうなのかを知りたいと思うのは自然なことです。

ある言語の話者が他の言語を学ぶとき、2つの言語間の言語学的特徴を比較し、それらに共通点が多い場合には習得が容易であり、そうでない場合には習得が難しくなるということは以前から言われていました。たとえば私たち日本人にとって、韓国・朝鮮語は日本語と構造が似ているので比較的に習得が容易だと言われています。また中国語は、韓国・朝鮮語よりは難しいけれども、共通の漢字圏にあるので英語などのヨーロッパ言語よりは易しい、というようなことです。

ヨーロッパの多くの言語はインド・ヨーロッパ語族(Indo-European Family)に属しているので類似性が高いことが分かっています。ですから英語の母語話者がドイツ語やフランス語を学ぶことは比較的に容易だと言われています。筆者はかつてオランダを訪問したことがありますが、オランダ人には複数言語を自由に使える人が珍しくありません。英語で話しかけるとたいていのオランダ人が流暢な英語で応じてきました。それは、オランダ語と英語、ドイツ語、フランスなどは同じインド・ヨーロッパ語族に属しており、しかもオランダではそれらの言語が日常的に周囲で使われているからです。このようなことは日本では考えられません。

さて、日本と英語の間の言語間の距離(language distance)はどのくらい大きいのでしょうか。このことに関する研究はいくつかあります。白井恭弘著『外国語学習の科学』(岩波新書2008)は、アメリカ国防総省の外国語学校で採用している、英語の母語話者にとっての言語別難易レベルを紹介しています(同書p. 5)。それによると、日本語はアメリカ英語の母語話者にとって最も難しい「カテゴリー4」に属する言語の一つであり、上級レベルに達するのに週30時間の集中コースで44週を必要とするとしています。逆に、アメリカ人にとって比較的に習得が容易なのは「カテゴリー1」のロマンス語系言語で、これらの習得には「カテゴリー4」の半分以下(20週)の学習時間が割り当てられています。

カテゴリー4:アラビア語、中国語(北京語)、日本語、韓国語

カテゴリー3:ギリシャ語、ヘブライ語、ペルシャ語、ポーランド語、ロシア語、セルビア語とクロアチア語、タガログ語、タイ語、トルコ語、ウクライナ語、ベトナム語

カテゴリー2:ドイツ語、ルーマニア語

カテゴリー1:フランス語、イタリア語、ポルトガル語、スペイン語

さらに、英語から最も遠い距離にある言語として、とくに日本語と韓国・朝鮮語を挙げているものもあります。たとえばElder and Davies(1998)は(注)、日本語と韓国・朝鮮語が他のどの言語よりも英語からの言語距離が大きいとしています。逆に、日本人学習者が韓国・朝鮮語や中国語を学ぶ場合には、英語よりもずっと習得が容易であることが知られていますが、それがどの程度の違いかについてはまだ明確な結論を出すには至っていません。

以上のデータから現時点で言えることをまとめます。日本語を母語とする日本人が英語などのヨーロッパ言語を学ぶのは、中国語や韓国・朝鮮語を学ぶのとは大きく違います。それは言語距離という観点から事実として認めなければなりません。結論を下すのにはデータが不足していますが、アメリカ国防総省の集中コース・プログラムから推測すると、おそらく2倍以上の時間とエネルギーを必要とします。アメリカの集中コースと違って、日本の学校では週4時間くらいの学習がダラダラと何年も続きます。そういう学習環境では、普通に学んで上級レベルに達するのは非常に困難だと考えられます。日本人の多くが高校または大学まで英語を学び続けても充分に使えるようにならないのは、むしろ当然のことです。英語を本当に身につけたいと思う学習者は、学校教育だけに頼るのではなく、もっと自律的に学習に取り組む必要があり、そのための工夫を自分でしなければならないのです。次回にはそういう質問を取り上げます。(To be continued.)

(脚注)Elder, C. and Davies, A. (1998) Performance on ESL examinations: Is there a language distance effect? Language and Education, 12, 1, pp. 1-17.

(158)参院選管見 松山薫

Author: 松山 薫

検証 ④−4 これからどうなる−ミクロの視点  

< 暮らしはどうなる > 雇用・賃金・社会保障

 昨年末の衆院総選挙、先月の参院通常選挙で自民党が大勝したのは、暮らしが少しでもよくなって欲しいという多くの国民の切なる願いを、自民党が掬い取ったからだろう。NHKが今年の5月に実施した世論調査では、回答者の70%が将来の社会に不安を感じており、その反動として、自民党が選挙公約に掲げた「強い経済」の再生に期待をかけた有権者が多かったと考えられる。参院選直前の朝日新聞の調査によると、投票行動を決める時に重視する10の政策の内、「景気・雇用」を最も重視する有権者が76%と一番多く、「社会保障」が0%
でこれに続いていた。そして、比例区の投票先では自民党が53%と圧倒的に多かったのである。しかし、一方で、半数近くに上った棄権者には、どうせ変らないという醒めた気持ちがあったことも確かだと思う。

 アベノミックスの効果か景気循環のゆえか、景気が一部よくなっているのは確かなようだ。政府の月例報告や、日銀の景気判断は、政冶的な思惑が入ることもあるので、そのまま受け取るわけにはいかないが、4~6月期の上場企業の営業利益は前年同期比で33%も上回った。また6月の失業率は、3.9%と、およそ5年ぶりに3%台に下がった。消費も株高で利益を上げた一部の人達の高額商品の購入や、消費税増税前の住宅の駆け込み需要などで上向いている。こうした傾向を反映して、GDPは3期連続してプラスとなった。しかし、4~6月期の実質成長率年率にして2.6%upは1~3月期をかなり下回る数字で、市場は反応しなかった。特に雇用につながる企業の設備投資はマイナス0.1%で、景気がこのまま上向くのか失速するのか微妙な時期にさしかかっているようだ。アベノミックスの引き金となった株価の上昇と円安も日銀の異次元の金融緩和が始まった頃の水準にもどリ、不安定な動きを続けている。今後の成り行きは、アメリカの金融緩和策が何時、どのような形で終るかにかかっているようだ。

 このため、消費税法に基づいて10月には決断しなければならない消費税増税の取り扱いが安倍政権にとって難しい課題になってきた。政権や与党内部でも意見が分かれている。産経新聞は「政権の命運をかけて論議がこれから始まる」と伝えた。安倍首相の胸中には、前回(1997年)橋本内閣が消費税を3%から5%に引き上げ景気が腰折れしてデフレに突入、翌年の参議院選挙で惨敗して退陣に追い込まれた悪夢が去来しているのではないか。自信がないのか、それとも民意を聞いたという目くらましのためか、これから59人のいわゆる有識者や消費者代表、地域代表らの意見を聞いて決めるという。消費税の増税が景気に及ぼす影響が論点だろうが、何年か前の自民党政権時代のように、景気がよくなっても庶民の暮らしがよくならなければ、意味がないと私は思う。そこで私は、これらの議論を聞いて是非を判断する際、私の判断基準となる、それによって“trickle‐downは起きるのかどうか”について、3点を提起しておきたい。

(1) 雇用: 安心して長く働ける職場は確保されるのか?

 7月末から8月にかけて、NHKが放送した「七つの会議」という連続ドラマがあった。視力の心配をしながらも結局4回シリーズを全部見てしまった。日本の企業社会の闇に鋭く迫る異色のドラマだった。同業他社との競争に生き残るための無理な価格の引き下げ、大企業から子会社、下請け、孫受けへと転嫁されていく安値受注と苛酷な条件に苦しむ末端の人達、その結果起きる不良品による社会的な危険とそれを隠蔽しようとする幹部、告発しようとしながらも家族の生活や同僚からの孤立を怖れて悩む社員。そこでのkey wordは、「家族が路頭に迷うぞ」「お前の独りよがりの正義感とやらで、会社をつぶして同僚や家族を路頭に迷わせてもいいのか」という常套的脅し文句だった。

 企業社会のこの国では、失業は“マクド難民”やホームレスの道へつながりかねないから、生活するためにはとにかくどこかに雇用されなければならない。家族を抱えての失業体験のある私には、雇用不安の切実さは身に沁みてよくわかる.〔2012−3−24〕

 平成22年に行なわれた直近の国勢調査に基づく厚労省の統計によると日本の雇用労働者は5154万人で、生産人口(15~65歳)の64%に当たる。生産人口には完全失業者(250万)や半失業の人、専業主婦や就学中の者もいるから、この数字は、日本が典型的なサラリーマン社会であることを改めて示している。また、最近の総務省の調査によると、昨年、非正規労働者が初めて2000万人を上回り、雇用者全体に占める割合も40%に迫っている。年齢別では55歳以上の6割近くが非正規雇用であった。働く人達にとって安定した職業につくことはますます難しくなっているのが現情である。

 その最大の原因は企業の国際化 ある。企業が資本主義社会の競争で生き残るには① 製品(サービス)の価格を他より安くする ② 同じ様な製品なら、よりuserのneedsに合致したものを提供する ③ innovationによって、新しい価値を生み出したり、独自の製品を作る のいづれかしかない。しかし、① はアジア諸国に比べて賃金の高い日本では、不可能に近いし、労働生産性の向上にも限度がある。そこへ円安による輸入原材料の高値が追い討ちをかける。そこで、企業の海外移転が進み。今や日本の製造業従事者は、ピーク時から600万人も減り、昨年末ついに1000万人を割り込んだ。② についても液晶TVやスマホを含む携帯端末に見られるように、消費者のneedsに合わなかったり、ガラパゴス化した日本製品は韓国や台湾、中国の企業に遅れをとり、大手の電器関係企業が大量の人員整理を始めた。人減らしのための”追い出し部屋 ”が問題になっている。厚労省は、パナソニック、シャープ、ソニー、NECそれに朝日生命の5社について実情の調査に乗り出した。

 そこで、安倍政権は手っ取り早い雇用政策の目玉として、公共事業を復活させた。200兆円をばら撒くという。確かに田中角栄の無謀な「日本列島改造論」で日本は土建国家となり、土建業が失業の受け皿になっていたことがある。しかし、それは財政危機の原因にもなった。前車の轍を踏む恐れはないのか。 一方で、世界最高レベルの長寿国日本では、医療・介護などの分野で人不足がみられるが、低賃金や仕事の内容への適不適から、雇用の受け皿にはなっていない。このため、安倍政権の成長戦略では、③の技術革新による成長産業の育成に重点を置いているわけだが、これは容易なことではない。innovationの代表格に祭り上げられているiPs細胞の活用や遺伝子治療にしても、臨床実験がようやく始まろうというところで、うまくいっても実用化には長い時間がかかる。

 こうした中で、今年の4月から、65歳までは、希望者全員を雇用しなければならない制度が発足した。年金の支給開始年齢が段階的に引きあげられ、年金受給までの“つなぎ”が必要だから当然の措置だが、若い人達の就業機会を奪うことにつながりかねない。大学生の就職活動は、いまや、入学直後から生活を就職にあわせる”全身就活“が必要になったという指摘もある。就活をあきらめ、大学院へ進んで博士号をとっても、40%は安定した職業につけない事態になっている。
 
 このような八方塞りの中で浮上したのが、産業構造の変化に対応するという名目での雇用の“流動化”である。そのためにまず、流動化の最大の障害である解雇の乱用を防ぐ「労働契約法16条」の改正や解雇自由の原則の採用が、いわゆる有識者会議などの議題に上っている。金銭による解雇について、安倍首相は国会でこれを否定しているが、実際にはすでに行なわれている。さらに、解雇がしにくい正社員については、限定正社員という制度を設けるという案が議論されている。また、派遣労働の規制を大幅に緩和して原則自由にすることも検討されている。

 こうして、産業構造の変化への対応という名分の下に、企業サイドの都合で解雇できる制度の導入が進んでいくだろう。そこには、当事者である労使の間での解決という本来の姿ははない。これに対応すべき労働組合の力が余りにも弱いからである。それは、日本の労働組合が企業内組合、つまり御用組合であるからだ。韓国では、労働組合の産業別組織化の動きがあるが、電気事業連合会と一緒になって原発を推進してきた電気労蓮の出身者が、連合の会長ではどうにもならないだろう。こうした雇用環境の中で、雇用者は将棋のコマのように使いまわされた挙句放り出されるような事態が生ずるのではないか、安定して長くはたらける場所を見つけることは、ますます難しくなっていくのではないか。朝日新聞が伝えるところによると、この5年間、雇用不安による”心の病“で医療機関を受診したサラリーマンが大幅に増えていると言う。

 ところで、ここまで書いてきた時、冒頭に述べたNHKドラマを地で行くような事件が起きた。漫画などを出版している東京の秋田書店の事件である。懸賞商品の当選者数を組織ぐるみで誤魔化していたこの会社は、内部告発した景品担当の女性社員を解雇していた。この社員は、不正を上司に訴えたが「会社にいたかったら、「つまり、路頭に迷いたくなかったら」黙って仕事をしろ」と言われ、病気休職中に解雇されたという。これに対し、会社側は、景品を詐取したのはこの社員だとして提訴する。これはまさに「人権裁判」であるから、双方妥協せず、和解ではなく、法廷で決着をつけてもらいたい。(M)

* 雇用者 本来はemployer のことだと思うが、日本の役所はemployeeの意味に使っている。

「“安倍首相との仮想インタビュー」
(1)安倍首相の言動が気になると思って眠ったら、自分が新聞記者になって安倍首相と独占インタビューをしている夢を見ましたので、それを補足、拡大して今回のブログにします。『 』が首相の発言です。

(2)「総理、消費税の実施は秋になって判断するということですが、腹の中ではどうするか決まっているのでしょう?」『そうだな。景気回復をしてからと言ってきたが、実施をしないと景気が回復していないことを認めたことになるからね。最近はデパートでも高級品が売れ出しているようだし。』

(3)「でも、景気が回復したとは実感できないという国民の声も大きいようですが」『時間的なずれが生じるのは止むを得ない。もう少し我慢してもらえば、必ず実感できるようになるよ。アメリカなんかとても元気になってきているし。』「でも株価は3月22日の時点ではかなり下がりました。」『株価は投機的なものだからね。投機筋の思惑に一喜一憂してもしょうがないよ』

(4)「麻生副総理は辞めさせないのですか?」『そんな必要は全くない。失言は取り消したし、今では“麻生副総理を守る会”までできている。』「しかし、世界中のユダヤ人たちは強く批判していますが」『ナチスを例に出したのはまずかったが、発言は取り消しているし、彼の本意は、憲法改正などは静かにやるべきだということで、私もその点では同感だ。』

(5)「静かにこっそり変えてしまうことで良いのでしょうか?大いに国民の間で議論すべきではないでしょうか?」『議論はいいよ。しかし、一定の時間内に結論が出るものだろうか?いつまでも無駄な議論をしている余裕などないですよ。』「憲法は政治家の行き過ぎを抑える力があるものです。権力のある政治家が好き勝手に変更すべきものではないのではありませんか?」『今までも十分時間をかけたと思う。これ以上ぐずぐずしていると、周囲の情勢に遅れを取ってしまう。』

(6)元ニュース・キャスターの桜井 よしこ氏も、憲法を改正すべきという意見で、しかも、自衛隊を国防軍にして、北朝鮮や中国の脅威に対抗すべきだと主張していますが、どうお考えですか?」『彼女とは全く同意見です。力の脅威には力で応じるべきです。』「それでは第2次大戦の前の日本軍部と同じ考え方ではないですか。戦争に巻き込まれる可能性が非常に大きいと思いますが。」『こちらから仕掛けるべきだとは言っていません。しかし、相手が攻めてきたら、攻め返すべきです。』

(7)ところで、福島の原発の後始末はまだついていません。それどころか、大量の汚染水が海へ流出していて、大変な問題になっています。いつまでも東京電力に任せないで、政府がしかるべき方針を示して、解決に乗り出すべきだという意見が強いのですが。しかも、庶民は電気代の高騰におびえています。」
『民間に任せる方がいいのだが、手に負えないのなら、何らかの方法を取るべきだとは思う。』「こんな状況でも、首相は原発の海外売り込みを続けるつもりでしょうか?」『日本の技術は優秀です。その技術の輸出と後始末のことは次元の違う話です』

(8)仮想の話にしても、私には首相の言い分はどうもよく分かりません。また今晩も悪い夢を見そうです。(この回終り)

英語の学び方Q & A (3)

Author: 土屋澄男

Q: 私は今中3ですが、NHKテレビの語学番組でスペイン語を学んで、スペインの歴史や文化に興味を持ちました。高校に入ったらスペイン語を本格的に勉強したいと思っています。しかし私の住んでいる地域にはスペイン語を教えてくれる高校は見当たりません。どうしたらよいですか。

A: この質問者がどういう経緯でNHKのスペイン語講座を受講することになったのかは分かりませんが、こういうケースは珍しいことではないと思われます。たとえばNHKの語学番組は、ラジオとテレビで現在九つの外国語(英語、中国語、ハングル、アラビア語、ロシア語、イタリア語、フランス語、スペイン語、ドイツ語)の講座を提供しています。中学生がスペイン語を受講しても何も不思議はありませんし、若い人たちが世界のいろいろな言語に興味を持つことは、これからのグローバルな世界で活躍する人材を産むという観点からすると、たいへん好ましいことです。

しかし日本の学校教育は、そのような観点からすると、非常に遅れています。とくに高校段階でその遅れが顕著です。ここで日本の外国語教育の現状を概観してみます。大部分の大学は複数の外国語の講座を開設していますが、高校段階では英語一辺倒の学校が大多数(約85%)を占めています。文部科学省の2012年5月の調査によると、全国の高校約5,000校のうち、英語以外の外国語を開設しているのは713校だけです。高校で教えている外国語でいちばん多いのは中国語542校で、ついで韓国・朝鮮語318校、フランス語222校、ドイツ語106校と続きます。スペイン語を開設している高校は100校しかありません。文部科学省は外国語の多様化を図っていると言いますが、そのための環境整備を積極的に行っている様子はうかがえません。事実、英語以外の外国語開設校は2010年をピークに最近は減少しています。現状では高校でスペイン語を学びたいという生徒がいても、その希望に添うことはできません。そういう生徒はNHKの講座などで個人的に学習を継続し、大学に進学するときにスペイン語の講座を開設している大学を選択してもらうしかありません。

中学校は英語一辺倒です。その主な理由は、中学校は義務教育であり、まず日本人として知っておくべき外国語は英語であるということです。『中学校学習指導要領(外国語第3章)』には、「外国語科においては、英語を履修させることを原則とする」と明記されています。その解説書を見ると、「英語が世界で広くコミュニケーションの手段として用いられている実態や、これまでほとんどの学校で英語を履修してきたことなどを踏まえて、英語を履修させることが原則であることを示した」と書かれています。もちろん「原則とする」というのですから、それ以外の外国語を履修させることができないわけではありません。しかし実際には英語以外の外国語を履修させる中学校は非常に少数で、私立学校の一部にフランス語やドイツ語や中国語を選択科目として置いているところがあるだけです。

中学校が英語一辺倒であるのに、昨年度から始まった小学校の英語教育が「外国語活動」となっているのは不思議です。しかし小学校学習指導要領には「英語を取り扱うことを原則とする」となっていますから、実質的には「英語」です。おそらく、小学校における従来の「国際理解教育」の実践の経緯から、ただちに英語を教科として認めることはできないという事情があったのでしょう。また小学校で英語を教える教員養成が間に合わないという問題もあって、文科省はこのような中途半端な形での実施に踏み切ったものと考えられます。ですから「外国語活動」の説明は極めて歯切れの悪いものになっています。このような学習指導要領で小学校の英語教育が始まったことは非常に残念なことです。

そういうわけで、わが国の外国語教育の現状は多くの問題を抱えています。いちばん大きな問題は、世界には日本人の学ぶべき言語が英語以外にも数多く存在するにも関わらず、英語一辺倒になっていることです。小学校と中学校で英語が外国語の中心になるということは、国民の多くが納得していると思われます。しかしいつまでも英語だけというのではいけません。少なくとも高校からは、誰もが他の言語を学ぶ機会があってよいのではないでしょうか。否、ぜひそうあるべきです。それを第二外国語として選択する場合だけでなく、英語に代わる第一外国語として学ぶこともできるようにすべきです。いつまでも英語だけにしがみついている必要はないからです。これからの国際社会で日本人が活躍するためには、多様な外国語の使い手を必要とします。今後は今回の質問者である中学生の希望が手軽にかなえられるような外国語教育を目指すべきです。(To be continued.)

(157)「終戦の日」に思う ③

  猛暑の夏が続いている。団地の窓から見上げると地上の湿気で空が薄青い。68年前のあの日もこんな空だったかなあと思う。「戦争が終わった」と告げられ、動員先の工場の地下にあった作業場から出てきた目に陽光がまぶしく、機密書類に石油をかけて焼く炎の輻射熱と熱風が一層暑さを増幅させていた。そう言えば、ラジオで何を言っているのかよくわからない「終戦の詔勅」を聞いた後,いつもの海草入りお粥の給食を受けないまま帰宅を命ぜられ、出てきてしまったことに気がついて、熱風と空腹と精神的混乱で、へたへたと座り込みそうになったことを思い出す。

  戦争が終わった。だから確かに「終戦」だ。しかし、戦争は自然に終わったのではない。日本の無条件降伏によって終ったのである。だから、私にとっては「敗戦」であり、この日は「敗戦の日」なのである。自然に終ったのなら、ああそうか、ですまされるだろう。しかし、敗戦であれば、当然のことながら、その原因と責任を明らかにしなければならない。そうしなければ、この戦争で亡くなった人達は浮かばれないし、学校へも行けず、食うや食わず、薄暗い地下工場で兵器作りに過ごした二度と来ない青春の日々に、どんな意味があったのかもわからず、再び同じ道を歩む可能性さえある。あれから70年近く、私は、ずっとそう思って生きてきた。当然のことがなされない限り、この国には存在の基盤がなく、本当の再生もない、とも考えてきた。

  政府主催の「全国戦没者追悼式」が初めて日本武道館で行なわれた日に、参列した遺族にHNKのアナウンサーが、「御主人(息子さん)は犬死だったとは思われませんか」と問いかけて物議をかもしたことがあった。たしかに、「犬死」という言葉は配慮を欠いていたが、質問の趣旨は真っ当だったと私は思う。茅ケ崎出版が九段下にあるので、私も戦後何回か靖国神社へ行ったことがある。しかし、それは政府が言うように、単に国のために尊い命を捧げた戦没者の霊よ安かれと祈るためではない。戦没者の無念の思いを共有し、再び、国が起こした愚かな戦争で、国民が死ぬような事態を招かぬよう自分が出来ることはしますと誓うためであった。

  私は、戦後70年の節目に向けて、8月15日を「飢餓を体験する日」にしたらどうかと思う。ニューギニアやレイテ戦線、インパール作戦などでは多くの日本兵が餓えて死んだ。
〔2012−9−15 イラワジ川の光る石〕 太平洋戦争の戦死者の半分以上が餓死であったとする説もある。飽食の時代には想像もつかないだろうが、飢餓の時代をすごした我々世代の人間には飢餓の辛さが痛いほどよくわかる。 飢餓によって人間は鬼になる。cannibalismさえ伝えられているのである(大岡昇平 レイテ戦記 筑摩書房)。

 敗戦直後、戦災孤児となり、餓えによって幼い妹をなくし、その体験を「火垂の墓」に書いた野坂昭如は“飢え”について次のように述べている。「飢えを表現するのは難しい。腹が減るイコール飢えだと思っている向きがあるが、それは少し違う。人が本当に飢えに直面した時、人は人でなくなる。早い話、殺人でも強盗でも何でもしてしまう。」(「終末の思想」NHK出版新書)。飢えとはそういうものだ。

  敗戦前後、食糧の配給は一日一人240グラム、小さな茶わん一杯分だった。それも、コメではなく、雑穀や水っぽいさつま芋が多かった。それを、目玉が写るような水ばかりのうすい粥にして啜ったのである。別に強制しなくともよいが、8月15日には、心ある国民はこの量で一日を過ごしてみることにしたらどうか。
 
子供達の中には空腹に耐えかねて、暴れたり、泣き出す子もいるだろう。それを見る若い両親や祖父母達はどんな気持ちになるか。しかも、本物の飢餓は一日で終るのではない。何時終るか,いやもっと悪くなるかもしれないのだ。それを想像してみよ。想像できなければ「火垂の墓」を、「レイテ戦記」を読め。自ら苦しむことによって人の苦しみがわかるようになる。想像力を働かせることによって、未来のために今、何をしなければならないかがわかるようになるだろう。

 飽食の時代がいつまで続くかわからない。飢餓世代の一人で元NHKプロデューサーの農政ジャーナリスト中村靖彦は、「日本の食は砂上の楼閣である」と警告を発している。
(日本の食糧が危ない 岩波新書)(M)

* 終戦の日に思う ① アーカイブ 2011−8−13 ② 2011−8−20

英語の学び方Q & A(2)

Author: 土屋澄男

Q : 英語はどう勉強したらよいのですか。

A : これはよくある質問です。ただし、この中の「勉強」ということばは良くありません。なぜなら、「勉強」とは「つとめはげむこと」と辞書にあるように、一人で机に向かって克己奮励するという暗いイメージがあるからです。英語の学習にはそういう面もあることは否定できませんが、そこには、未知の言葉を自分のものとして自由に使えるようになるという、明るい展望があるはずで、もっと明るく楽しいイメージです。

さて、この質問の真意が「最も効率的な英語の学習法」というのであれば、その答えはほとんどすべての学習者の知りたいところです。『英語教育』(大修館書店)の2011年6月号は、この質問に対して2人の先生に回答してもらっています。回答者の一方は中学校の先生、他方は受験生を対象とする予備校の先生です。それらを読んで、筆者はとくに前者(北原延晃氏)の中学校での実践に興味を持ちました。それをはじめに紹介します。

幼い子どもが歌詞の意味がわからなくても、聞こえてくるままに同じように歌おうとします。それにならって、北原氏は中学生も歌から入るのがよいと言います。北原氏が教えたその年の卒業生は、3年間で46曲もの英語の歌をうたいました。それらの歌詞を合計すると、その量は中学校3年間の教科書の倍以上にもなるそうです。「これだけの英語を楽しく覚えたら頭の中に英語の世界ができあがる」という北原氏のことば決して誇張ではないでしょう。英語を音声言語として身につけるためには、英語のリズムとメロディーを身につけることが大切なことは、いくら強調しても強調しすぎることはありません。

北原氏が次に生徒に取り組ませるのが音読です。生徒のほぼ全員が、教科書本文を毎ページ40回以上音読しているそうです。それだけ音読すれば、頭の中に英語の世界が出来上がるので、初見の英語を見ても正しいイントネーションで読むことができるようになるといいます。絵本などの易しい英語を読み聞かせ、それを暗唱することもできるようになります。暗唱した文をノートに書かせることによって、「音声言語をきちんと正しい形で脳の中に落とし込んでやる」のだそうです。このような指導を受けることのできる中学生は幸いです。英語を聞き、読み、話し、書くという技能を学ぶ基礎がしっかりと捉えられているからです。

しかし上に紹介した中学校での実践はほんの一例で、これがすべてではありません。当然のことながら、英語の学び方は学習段階によって違ってきます。同じ質問でも、どの段階の生徒からの質問かによって答えは違ってくるでしょう。中学1年生と3年生では違うでしょうし、高校生の学習法は中学生とは違ってくるはずです。また、学習の目的の違いも重要です。生徒がどんな目的で英語を学んでいるかによって、その生徒へのアドバイスは違ってくるでしょう。たとえば、英語を聞いたり読んだり、話したり書いたりする技能のどれを中心にするかで学び方は違ってきます。また、聞く・話す・読む・書くという4技能を組み合わせていろいろな活動ができます。どんな活動が出来るかについては、いずれ改めて考えることにします。

ここで、今回の質問「英語はどう勉強(学習)したらよいのですか?」に対する答えとして、どんな学習段階の学習者にも、またどんな学習目的を持った学習者にも、等しく通用すると思われる共通の学習原理を5項目にまとめて提示します。

(1)将来国際人として活躍する自己をイメージしながら学習する:これが出来ない人は英語を学んでも無駄です。国際人とまではいかなくても、自分が日本人以外の人々と交わる可能性については、少し想像力をはたらかせればいろいろ考えられるはずです。

(2)自分の持っている知識や知的能力を最大限に活用する:英語学習の土台になるのは、私たちの母語である日本語です。英語を学ぶことは日本語を忘れることではありません。それは日本語の能力をいっそう発展させることに役立ちます。英語学習ではこれまで学んだすべての知識を利用しましょう。

(3)できるだけ多くの英語に触れる:学校のテキストだけで満足せずに、ラジオやテレビの英語講座を視聴したり、英語のマンガ・雑誌を読んだりして、英語のインプット量を拡大することが必要です。

(4)英語を口にする機会を積極的に求める:学校での音読や暗唱やスピーチなどの活動に積極的に参加するだけでなく、外国人講師などにも自ら話しかけてできるだけ多くの英語を経験するようにする。

(5)英語の練習は実際のコミュニケーション活動の場面を想定して行う:自分独りで行う練習は、ともすると練習のための練習になりがちです。英語を口にするときには、いつもそれが話される場面を想定して言うようにします。辞書の例文なども、ただ機械的に言うのと、それがどういう場面で使われるかを考えながら言うのとでは、大きな違いがあります。(To be continued.)

「“民意”とはどういうものか」という問題
(1)“民意”については、国語辞典では、「国民や人民の意思」ということになっていますが、政治家は立場によって都合のよいように使うようです。例えば、選挙で当選さえすれば、「私は民意を代表している」というように。今回の参議院選挙のように投票率が低いと、果たして住民の意向がどこまで実現したのか疑問に思われます。

(2)3年ほど前の総選挙で、民主党に政権交代をさせようとした多くの国民の判断は正しかったと思います。ただし、“圧勝”ではなく、かろうじて過半数を得る程度でしたら、民主党ももっと慎重に行動したことでしょう。その意味では、今の自民党の圧勝も同じように自信を与え過ぎてしまいました。自信過剰は必ず取り返しのつかない過ちになりがちであることを私は心配します。

(3)“民意”の1つの大きな問題点は、「自由にコントロールがきくものではない」ということです。独裁国家では、一部の権力者が国民の意思を自由にコントロールしますが、民主主義国家ではそれは許されません。したがって、為政者が常に反省しながら国民の意向を確かめる姿勢が要求されるのです。残念ながら、現在の安倍政権にはそういう姿勢が見られません。日銀の人事を初めとして、すべて安倍政権の言うことに従う人物ばかりを任命しています。

(4)安倍首相は10日間の夏休みを取って、ゴルフをしながら楽しんでいるようです。日頃は猛烈に多忙でしょうから、夏休みを取ることまでは反対しませんが、自宅にこもってゆっくり想を練るくらいのことをすべきです。東北では死者まで出るようなゲリラ豪雨の被害が出ています。野党は批判の声をあげましたが、首相の耳にはどこ吹く風でしょう。困ったものです。

(5)安倍政権は対中国外交では根回しはしているようですが、フィリッピン、インドネシア、マレーシアなど、周辺国と話し合って“中国包囲網”を形成しようとしています。これは極めて危険だと私は思います。第2次大戦前に、欧米は日本のアジア進出を嫌って、“ABCD 包囲陣”を形成しました。それは、日本軍部には、「日本の植民地化をねらって、欧米諸国は日本包囲網を作っている。これを突破しなければならない」と旧満州進出への口実を与えてしまいました。

(6)最近はアメリカにも、日本政府の右傾化を心配する論調が現れたりしています。オバマ政権も最終段階ですから、日本の同盟国としての位置づけを否定はしませんが、「余計なトラブルを起こしてくれるな」というのが本音だという説が有力です。どこの国も、自国の国益を優先させますから、安倍首相のような単純な発想では、纏るものもうまく纏らないでしょう。前途多難です。(この回終り) 

(156)参院選管見 松山薫

Author: 松山 薫

(156)参院選管見 松山 薫

④ これからどうなる‐ミクロの視点

④−(3) 日本経済再生の仮説と不安材料

 安倍政権の経済政策(いわゆるアベノミックス)は、1980年代にアメリカで共和党のレーガン大統領が実施したレガノミックスと同じサプライサイド経済政策で、供給側つまり企業の収益を増加させ、その“ 滴り(trickle)”で全体を潤そうという考え方(trickle-down theory)に立つ。方法はリフレーション(リフレ)つまり金融緩和と財政出動によって、年率数%の緩やかなインフレーションを起こしてデフレーション不況から脱却し、経済を活性化させようとするものである。安倍政権はこれによって15年以上続いたデフレから脱却し、再び”世界一の強い経済”を目指すとしており、具体的には年間2%のレフレーションを10年間続けて達成することを目標にしている。* trickle には数・量的に少ないというnuanceがある。

 アベノミックスには経済専門家の間でも賛否があり、日本経済再生への特効薬なのか、はたまた死にいたる劇薬になるのか、世界もこの”実験”に注目している。後述のような不安材料もあるので、成功の確率についての*仮説*は50:50とする。                

 アベノミックスは、第1の矢−金融緩和、第2の矢−財政出動、第3の矢−成長戦略 の3本の矢で構成される。安倍首相の本籍地近くで栄えた戦国大名毛利元就の3本の矢の喩えからとったものと思われる。なおアベノミックスという用語は第1次安倍内閣の時から使われているが、安倍首相自身は使っていないという。

< 第1の矢 大胆な金融緩和 >
 
安倍政権はインフレ抑制を旨としてきた日銀の白川総裁を事実上更迭し,新任の黒田総裁は自ら”異次元”と称する金融緩和に乗り出した。いわばアメリカの連邦準備制度理事会バーナンキ議長の後追いである。日銀は、資金供給量を2年間で2倍(270兆円)に増やし、企業の設備投資を促して供給を増やすとしている。

● 批判
* 金融緩和で長期金利が下がれば、国債の価格が暴落し、財政が破綻する。
* 無制限な金融緩和は、制御できないインフレを呼ぶ恐れがある。
* 人為的な円安誘導は、通貨安競争を招く恐れがある。
* 円安によって潤うのは一部大企業だけで、輸入原材料高で中小製造業は苦しむ。
* 金融緩和によって潤うのは一部の既得権益層だけで、経済格差がますます拡がる。
* 株高を主導したのは外国のヘッジファンドで、ピークで売り抜けて巨額の利益を得ている。日本の富を濡れ手に粟のごとく奪い取っているのだ。
* アメリカFRBの金融緩和策の終了
* 中央銀行の任務は、物価の安定つまりインフレの抑制である。
* FRBの真似をして異次元の金融緩和をしても、アメリカと日本では条件が大きく異なるから成功はおぼつかない。( ドルは基軸通貨、労働力増加中、シェールガス革命など)。イギリスでも量的緩和を行なっているが成功していない。
* 株価を重視すれば債権の金利が上がり、債権の金利を下げると株価も下がる。両立は困難。
* 異次元の金融緩和→国債の暴落→銀行危機→貸ししぶり、貸しはがし→不況というのが普通の循環だ。
* 日銀がいくら資金を供給しても、民間企業に有望な投資先がなければ、資金需要は増えない。それが金融緩和だけで不況から脱出は出来ないという過去の教訓だ。
* お手本のバーナンキ議長はかって「ヘリコプターから札をばら撒け」というほどの金融緩和論者だったが、最近は金融政策万能から軌道修正している。

< 第2の矢 機動的な財政出動 > 

「緊急経済対策」でとりあえず景気を下支えする。その財政的裏づけとして10兆円の公共投資を含む22兆円強の大型補正予算を組んだ。重点配分項目は「復興・防災対策費」「成長による富の創造」「暮らしの安全・地域活性化」とする。年末に決まる来年度本予算では、同時に、中長期の財政健全化へ向けて「プライマリーバランス(基礎的財政収支)」の黒字化を目指し、2020年度に赤字を0にする。中期財政計画では国債の発行額を現状以下とすることを目標とする。国の借金(国債など)の総額は今年の6月末で1008兆6281億円で、国民一人当たり800万円弱、GDP比では先進国中最悪である。

● 批判
*プライマリーバランスの回復は、自民党一党支配の時代から、何回も計画倒れに終っている。      
* 閣議決定された「中期財政計画」は具体策に乏しく、計画というに値しない。
* 「国土強靭化」の名の下に、公共事業へのバラ撒きが復活しつつある。強靭化政策集には、「高速道路の未開通区間の解消、4車線化」「北陸新幹線の大阪延伸」など大型公共事業がならぶ。かつて自民党は10兆円規模の財政出動を繰り返し、今日の財政危機を招いた。
* 内閣府の資産では、プライマリーバランスは、高めの成長が続いても10年後10兆年の赤字が残る。結局増税による歳入増しかないということになる。

< 第3の矢 民間主導の成長戦略 > 

「女性の活躍」「世界に勝つ」「民間活力の爆発」の3項目を骨太の方針に、十数項目を具体的目標と達成時期を添えて提示した。
* 一人当たりGNI(gross national income)を10年後までに150万円増やす。
25歳から44歳までの女性の就業率を5年後までに現在の68%から73%に増やす。
 * 6ヶ月以上の失業者を5年後までに20%減らす。
 * 農林水産物・食品の輸出を5年後までに2倍以上の1兆円に増やす。
 * 来日外国人旅行者の数を現在の870万人から3千万人に増やす。
 * 設備投資をリーマンショック前の7兆 円に戻す。
などなどである。しかし、新味のない寄せ集めで、実現の道筋も不明として市場はほとんど反応しなかった。

● 批判
* 給与や雇用を増やす企業を税制面で優遇しても、企業が人件費を増やす環境になけれ
ば、税金の無駄使いになる。
* 経済成長の根本である労働力が急激に減少していく中で、この程度の政策で成長をうながすのは不可能である。
* 企業の設備投資計画は多くが海外向けで、国内の景気回復にはつながらない。
* 第3の矢の実現には業界団体(経団連、医師会、農協 etc.)などの既得権に切り込まなければならず、党内対立が激化して中途半端に終る公算大。
* 第3の矢の目玉であるGNIは、個人所得とは異なり、実質は半分程度。
 
< アベノミックスの不安材料 >

* アベノミックスは、フリードマンの新自由主義の「小さな政府」とケインズの「大きな政府」が入り混じっており、論理的に整合性がない。要するにかき集めのごたまぜ。  国民に対する目くらましではないか。
* 経済的な規制と社会的な規制を混同して緩和すると小泉改革と同じ轍を踏む。
* 3本の矢の喩えは、3本が一体にならないと力を発揮できないという教えだが、アベノミックスの3本の矢は、整合性がないため一体的な力を発揮できない。
* 貿易収支の赤字の拡大による経常収支の黒字の縮小で日本はも早貿易立国ノ立場にはない。一方、資本収支は拡大しているがこれをどう使うかについて方向性が見えない。
* 中国経済の成長鈍化と構造的不安。
* EUの財政危機再燃と信用不安の拡大。
* 中東の政情不安による原油価格の高騰。
* 日本の景気は安倍政権発足以前の昨年11月に底入れし、すでに回復基調に入っていたので、アベノミクスはそれに乗ったに過ぎない。
* かつては企業が儲かれば労働者も潤った。しかしいまは、ITやロボットの活用や不採算部門の海外移転で企業が生産性を挙げれば、雇用が失われる。
* アベノミクスとは、金融や財政のバラまきで「将来需要」を先食いし、ひたすら目先の成長を目指すものではないか。
* 企業が儲かっても、内部留保に積み上げるだけで、賃金にはまわさない。これまでそうだったし、これからもそうだろう。
* 円安や株高で利益を売るのは一部の人達で、経済格差はますます開くだろう。

                  以上

● 前回のブログで、社民党の党首を、福原瑞穂と書きましたが、福島瑞穂の誤りでした。
 

英語の学び方Q & A(1)

Author: 土屋澄男

Q : 英語を勉強すると、将来どんな風に役立つのですか。

A : 大修館書店発行の『英語教育』2011年6月号は、「生徒からの質問にどう答えていますか」というテーマの特集の中で、上記の質問を中学と高校の2人の先生に答えてもらっています。中学の先生は、自分がかつて参加したベトナム難民への援助活動で英語が役立った経験を述べていました。「英語がわかってよかった、英語のおかげでかけがえのない友人ができた」という先生の思いは、生徒たちの心になんらかの波紋を投げかけたことだろうと想像します。

もう一人の高校の先生は、就職活動を目前に控えている高校3年生に対して、どんな職業に就いてもそこでプロを目指してほしいと言い、「何かを深めようとしたとき、日本語で書かれている文献は、実はほんの一部だし、日本語で発信して読んでくれるのも世界のほんの一部にすぎない。英語ができれば、さらに深めたり、広げたりすることができる」と説いて、英語の必要性を強調しています。この答えも、自分の将来を考え始めた高校生にとって、英語が自分とどんな関わりを持つかを考えるきっかけになったと思います。

これら2人の先生の話は、一部の学習者にとっては参考になります。しかしこれがすべてではありません。さまざまな学習段階にあるさまざまな種類の学習者への回答は無数にあり、雑誌の特集をすべてこの疑問の回答に当てても間に合わないくらいでしょう。私が編集者であったなら、最初の企画の段階でそのような多様な学習者を想定し、彼らをいくつかの典型的なタイプに分類し、それぞれのタイプの学習者に対応できる回答者を見つけ出すという方法を考案したかもしれません。しかし、そもそもこの質問を発する学習者はなぜこのような質問をしたのでしょうか。彼または彼女は何を知りたいのでしょうか。

まず考えられるのは、これから英語を学ぼうとする人たち、とくに小学校や中学校で英語を学び始めようとする子どもたちです。これらの子どもたちには、英語を知っていることでどんな利益が考えられるかを話すことは難しくないでしょう。上記の2人の先生の話は、小学生にも分かるように砕いて話すことができます。しかし多くの子どもたちは、学習を始める前に「なぜ英語を学ぶのか」という疑問を持つことはないように思われます。彼らはむしろ、学校で英語を学べることを楽しみにしているのではないでしょうか。

しかし英語を学んでいるうちに、今自分の学んでいる英語が将来どんな風に役立つのかについて真剣に悩む人は多いと思われます。その悩みはどこかでしっかりと受け止めてあげる必要があります。英語を学ぶ目的はいろいろありますから、人によって学校のカリキュラムが自分に合わないと感じる生徒が出てきくるのは不思議ではありません。学校では受験勉強ばかりで、生きた英語を学ぶことができないと感じる生徒がいます。一方では、しっかり英語が読めるようになりたいのに、授業では自分に興味のない口頭練習ばかりすると不満を持つ生徒もいます。学習者の学習目的の違いにもかかわらず、全員が同じやり方で学ぶことから生じる問題点に、私たちはもっと目を向ける必要があるように思われます。

また、いったん英語学習を始めると、学習者の中にいろいろな心の葛藤が起こります。まず多くの生徒はなんとか授業についていきたいと思うはずです。そのとき授業に楽々と付いていくことのできる生徒はよいのですが、そうでない生徒には次々に課題が押し寄せます。多くの生徒が感じるのは、英語の学習は予想した以上に難しいということです。発音がよく分からない、単語の意味が記憶できない、試験に良い点が取れないなどの、具体的な問題が中心です。最初はなんとかついていこうとしますが、そのうち自分が取り残されていくのを感じるようになります。そうなると英語の授業はだんだん苦痛になってきます。生徒は途方にくれ、あげくの果てに「なんで英語なの?」「英語をやって将来なんの役に立つの?」という疑問に到達するというわけです。

学習の段階が進むにつれ、そういう生徒の数が増してきます。学校の先生方は、その生徒たちの疑問に真剣に答えてあげる必要があります。そうでないと、生徒の不満が増大するだけでなく、その果てには学校の授業が成立しなくなる恐れもあります。このような問題について、これからQ & Aの形式で順次考えていきたいと考えています。(To be continued.)