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<英語との付き合い ⑳ >

NHK(3) SPEAKING自己訓練−1

 LISTENINGの特訓によって、英語を仕事で使う、つまりこれで食っていくのは生易しいことではないと悟った私は、自分の英語を鍛え直さなければならないと思った。先ずは、listeningと同様苦手のspeaking を何とかしなければと思い、NHKの近くにあったtotal emersion 方式の英語学校へ通うことにした。入校テストを受けてみると、最後の30 lessonでよいということになり、45分間のman-to-manのlessonを30回予約した。feeは、一回800円、合計2万4千円だったと思う。入会金を合わせると、薄給協会の月給2ヶ月分を超えた。そのカネはNHK共済会から借りることにしたが、共済会からの一定以上の借金には部長のハンコがいるので、借用証を持っていくと、報道部長は「おや、勉強する気になったのか」と言って笑った。その時私は、LISTENING特訓が、部長、副部長、デスクが一体となって、ド素人の私のために考えてくれたものだということに気づき、「オレを追い出すためのいじめか」と疑ったことを恥じ、なんとか一人前の英文記者になってみせると心に誓った。

 最初のlessonに行くと、アメリカ人講師がtextを持って現れ、subjunctive moodの用例を使う訓練から始めると言う。10分ほどやってみたが、こんな退屈なlessonをやっても何にもならんと思ったので、やり方を変えないかと提案した。私がやりたいのはdialogue対話なので、こちらでtopicsを出すから、それについて話し合いたいというと、例えばどんなことかと訊ねられ、“日本における差別の問題”などはどうかと答えると「日本にも人種差別があるのか?」と乗ってきた。

 講師は、イギリス人、フィリピン人と変ったが、この方式で押し通し、「天皇制」「性差別」「春闘」「年功序列賃金制度」「観光地」 など、彼らが知らない事柄をtopicにした。そうなると、大部分は自分で発言することになるから、下調べも必要だし、自分の国についての知識の不正確さにも気づいた。しかし、listening 特訓のおかげで、相手の言うことはほぼ理解できたので、対話は十分に成立したのである。月給2ヶ月分の借金は痛かったが、モトは取れたと思うし、対話のためには先ず十分なlisteningの力をつけるのが前提だということを身を持って体験したことは、将来、大いに役立つことになった。

 しかし、30時間弱の自己訓練では、準備なしで外国人と五分五分で話すことなどは出来るはずもなく、考えた末、タダでpeakingの練習をする方法として、休日にガイドをすることを思いついた。それで運輸省の通訳案内業試験を受けたところ、30時間の対話訓練が功を奏して合格した。ところが、通訳の仕事自体が少なかったこと、ニュースの職場では公休日がしょっちゅう変り、休日出勤も多いことから実際にガイドの仕事をもらっても、日取りが折り合わず、この思いつきは実を結ばなかった。

 だだ、ガイドの研修旅行に参加してよかったと思うことがあった。研修のあと何日かして、その時講師をつとめた緑川さんというベテランガイドから、観光通訳業は将来有望だと思うので、2人で通訳の会社を起こさないかと誘いを受けた。研修の一環として行なわれた3分間スピーチで、私が発表した「観光立国論」が痛く気に入ったようだった。その時はお断りしたが、自分の中に眠っている何かがうずいた。その時私に護るべき家族がなかったら、誘いに乗って今とはまったく別の人生を歩いていたことだろう。(M)