Archive for 8月 25th, 2011

今回は英語話者についての誤解を取り上げます。英語話者というと、一般には、英語の母語話者のことを指します。つまり英語のネイティブ・スピーカーのことです。たしかに、かつてはそうでした。日本が戦争に負け、マッカーサーの率いる連合軍によって占領されたときには、英語のネイティブ・スピーカーと言えばアメリカ人のことでした。しかし21世紀の今日、英語話者とはアメリカ人のことであり、英語とはアメリカ人の話す言語のことだと考える人はいないでしょう。もしそう考えている人がいるとしたら、とんでもない誤解です。英語は今やアメリカ人やイギリス人の言語であるにとどまらず、世界中の多くの人々に用いられるリンガフランカ(共通語)のようなものになっているからです。しかし英語がどんな国や地域で話されていて、全体でどのくらいの使用人口があるのかを正確に知ることはかなり難しいことです。

 世界における英語の使用地域とそのおよその人口を知るもっとも手っ取り早い方法はインターネットで調べることです。たとえばWikipedia.orgで検索すればすぐに出てきます。しかしこの情報は非常におおざっぱで、正確さからは程遠いものです。もうすこし信用度の高いと思われる調査で見てみましょう。言語学者クリスタル(David Crystal 2003)の調査によると、英語を第1言語として使用している地域と人口はおよそ次のようです。

United States 215,424,000 / United Kingdom 58,190,000 / Canada 20,000,000 / Australia 14,987,000 / Ireland 3,750,000 / South Africa 3,700,000 / New Zealand 3,700,000 / Jamaica 2,600,000

これら8つの地域が英語母語話者数の図抜けて多い地域です。そして世界全体の英語母語話者数は、クリスタルの推計によると3億2千万から3億8千万です。では英語を第2言語として習得し使用している人の数はどれくらいでしょうか。これもいろいろなデータから推計するよりほかありませんが、同じくクリスタルによると、3億から5億くらいと推定されています。それらの地域は、上記の8つの地域における第2言語使用者に加えて、その多くはインド、ナイジェリア、フィリピンなど、かつて英国または米国の植民地であった国または地域です。

 では英語を外国語として習得した人はどれくらいいるでしょうか。この数を正確に知ることはほとんど不可能です。なぜなら、どの程度まで習得したら英語話者あるいは英語使用者と言えるかの判断が困難だからです。このブログの読者は英語を習得した人としてカウントされる自信があるでしょうか。事実その数は学者によって5億から10億まで大きな幅があります。言語情報科学を専門とする寺澤盾氏によると(『英語の歴史』中公新書)、その数は7億5千万くらいが妥当であるとしています。すると、このことから確実に言えることは、英語の話者はネイティブ・スピーカーよりもそれを第2言語または外国語として用いる人のほうがはるかに多いということです。英語のネイティブ・スピーカーの数倍にのぼる人々が英語を実際に使用することができる——この意味するところは重大です。

 つまり、英語はかつてのように、それを母語とする人々だけの言語ではなくなったということです。母語話者以上に多くの人々が英語を使うことができ、実際に使用しているということです。しかも英語の使用者とその学習者の数はますます増大していることが知られています。日本人が英語で話す相手は、もはや英米人をはじめとする英語のネイティブ・スピーカーであるとは限りません。私たちの相手は英語を第2言語または外国語として習得し、それを一種のリンガフランカとしていろいろな目的に使用している人たちです。私たちは韓国人や中国人をはじめとし、東南アジアやアフリカやヨーロッパの人々とも英語を使ってコミュニケーションをすることができます。もちろん、英語を知っていれば世界中の人々と話ができるわけではありません。少なくとも世界人口の4分の3は英語を知らないのですから、英語さえ知っていれば世界で通用するというような言い方は間違っています。現存する世界のすべての言語は英語と同様に尊重されなければなりません。日本語もその一つです。日本語も英語のようにもっと広く世界で使われるようになるとよいのですが、それはそう簡単ではありません。私たちが世界の多くの人々と交流しようとすると、現在のところ、まず英語を習得することから始めるのが実際的です。日本の教育行政もそのように考えています。そこで次に考えるべきことは、私たちはどのような英語をどの程度まで習得したらよいのかということです。(To be continued.)