Archive for 10月 25th, 2014

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4.人権大国への基盤を創る 

③ ブラウン経済からグリーン経済へ

 「札束で人間は生きていけない」という野坂昭如の言葉は単なる戯言ではない。日本の農民が、敗戦前後の飢餓時代に、コメや野菜をカネでは売ってくれなかったことを我々世代の人間は痛切に思い出す。国と国との間でも同じことが起こりうると経済学者の金子勝慶応大学教授は警告している。だから、食糧安全保障の根幹は、自国の食糧は自国でまかなうことにある。

 日本の今年のコメの収穫量は、平年作で790万トンが見込まれている。これは減反政策や耕作放棄地の増大などで、コメの生産が抑えられているからで、日本には年間1000万トンのコメを生産できる耕作可能地(arable land)があり、ゆうに1億人以上を養うことができる。遠くない将来、深刻な食糧危機が予見されているのだから、この潜在能力を温存し、いざとなれば生かせるような方策を今から考えておる必要がある。

 2018年を目途とする減反政策廃止後の方針として、政府は、耕地面積を1単位あたり20~30ヘクタールに拡大し、企業の参入を促すとしているが、それでも、耕地面積はアメリカやオーストラリアに比べると文字どおり桁違いに狭小で輸入農産物には価格面で太刀打ち出来ないから利潤をあげられないし、中山間地には農地の大規模化が不可能なところも多い。国土の70%が中山間地というこの国の条件を考えれば、結局日本のコメつくり農業は家族経営によってしか維持出来ないことになるだろう。

 そして、家族農業こそが日本の食糧安全保障と国土の保全につながると私は考える。その際参考になるのが、前回挙げた、国連国際家族農業年の次のような4つの目標である。

1. 家族農業の持続的発展を可能にする政府の環境整備の促進
2. 知識、交流、人々の認識の向上、拡大
3. 家族農業のニーズ、可能性、および制約についての理解と技術的支援の確保
4. 持続可能性のための協働を創出

 これらの目標へ向かって政策的努力を傾注することは、同時に国連環境計画(the United Nations Environment Programme =UNEP)が提唱する持続可能な経済、いわゆるグリーン経済へ踏み出すことを意味する。UNEPは、遠からず訪れる地球資源の枯渇を前に、20世紀の資源濫費型のいわゆるブラウン経済から、21世紀のグリーン経済へ転換する際に投資すべき対象として、次のような分野を挙げている。

1. 小規模農家の育成
2. 再生可能エネルギーの開発
3. 海洋資源管理の強化
4. 森林保護
5. 廃棄物利用技術の開発
6. 水資源の確保
7. エコツーリズムの振興

 日本における家族経営農業の発展は、上記項目すべての推進に役立つものと私は考えている。
例えば、中山間地の渓流や農業用水を小規模水力発電に活用する。間伐材を木質チップとして発電や燃料に活用すれば、間伐による森林の保護にもつながる。マグロやクジラなど海洋資源の保護のための管理強化は、日本をターゲットに今や世界の趨勢になっているが、これによって減少する水産資源を補完するためには、近年著しい発展を遂げている養殖漁業を農地で実現することも可能だろう。それによって生ずる魚のフンは、堆肥として廃物利用できる。酪農による動物のフンとあわせて、有機農業を進める上で助けとなり、農薬による水資源の汚染を減らすことに役立つ。さまざまな創造的工夫が必要だから、競争原理から創造原理への転換のきっかけになる。また、これらを総合的に実現するための協働が、やがて地域コミュニティーの基盤となり、農業の6次産業化を成功させることにつながるだろう。

 金子教授らは、このような活動が成功した例として、北海道十勝平野の士幌農協や山間地の大分県大山町の例を挙げており、特に再生エネルギーと農業のコラボレーションによる経営を推奨し、これを市民出資によるファンドで支えることを提唱している。
* 6次産業化:農業、林業、水産業などの1次産業が、加工(2次産業)や流通(3次産業)にも業務を展開する総合的な経営を行うこと。1次+2次+3次=6次 

 グリーン経済への転換に当たって、私が最も期待しているのは 7.エコツーリズムの振興である。2008年に施行された「エコツーリズム推進法」によると、エコツーリズム( ecotourism ← ecology+tourism )とは、「地域ぐるみで自然環境や歴史・文化など地域固有の魅力を伝えことにより、それらの価値を理解してもらい、保全につなげること」をめざしている。

 前回、前々回のブログで強調した、家族経営農家の居住環境の抜本的改善は、そのための布石である。家族3世代のために、8~10部屋の住居をつくる。そのうちの一室あるいは離れ等を内外観光客の宿泊用として活用する。3世代のための100年住宅を建てるには、30年はかかるだろう。まずは、最初の世代のための家をつくり、次の世代で完成させる。最初の家をつくるには、今問題になっている空家の建材や内装を活用する。私は中学2年生の時に、都内の疎開工事に動員されたことがあるが、木造住宅の解体には専門家はいらないし、丁寧に解体すれば屋根瓦や建材、内装は十分に再利用できる。また、住宅建設には、白川郷の大屋根の葺き替えなどで長年おこなわれている地域の協力体制が必要だ。このような地域協力がやがて、そして協働、さらに6次産業化の土台になるだろう。

 農業の6次産業化と、観光による現金収入が、家族農業を支え、地域コミュニティーの発展さらには食糧安全保障と国土の保全を可能にする道であると私は思う。

< 参考書籍等 >

* 国連環境計画 : 環境省 HP
* エコツーリズム推進法 観光庁 HP
* グリーン経済最前線 : 末吉竹二郎他   岩波新書
* 食料問題の基本 : 及川忠   秀和システム
* 希望の日本農業 : 大泉一貫  NHKブックス
* 儲かる農業論 : 金子勝 他  集英社新書
* 水が世界を支配する : スティーブン・ソロモン  集英社
* 森林の国富論 :  雁金敏彦  諷詠社
 
次回の投稿は11月8日(土)に「貿易立国から観光立国へ」を予定しています。(M)