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文科省の意図する高校の英語教育と実践現場とのずれは、教師を二つのタイプに分けます。一つは学習指導要領の趣旨に賛同しそれを推進しようとする教師たちです。かつてSELHi(Super English Language High School)の実験校がそうであったように、文科省の意図に沿った指導を推進する地域のパイオニア的存在を目指す高校では、校長や教育委員会が動いてそれに賛同する教師たちを集めます。その人たちの多くは英語のコミュニケーション能力が他の教師たちよりも優れており、指導実績を持っている教師たちです。一般の高校にも、たいてい、そういう教師が一人か二人はいます。しかし多くの場合、彼らは学校内では少数派で、他の教師たちを動かすだけの影響力を持ちません。

 英語教師のもう一つのタイプは、おそらく高校で圧倒的多数を占めると思われる伝統的指導法に固執する教師たちです。彼らはそれぞれ自分が教わったように生徒を教えようとします。自分は学校で「文法訳読法」によって英語を教えられ、それで英語が好きになって教師になったのだから、そのやり方で英語を教えて何が悪いのか、という気持ちがあります。そういう人たちが怠け者だというわけではありません。それぞれ自分なりに教え方の工夫をします。しかしその教え方を客観的に検証するということはしません。今までずっとそうしてきて、それで教師としての職分を果たすことができたのだから、いまさらそれを根本的に変える必要がどこにあるか、というわけです。

 そういう保守的な教師たちは学習指導要領にあまり関心を持ちません。実際には完全に無関心な人から相当に関心のある人までいろいろでしょうが、その人たちはおしなべて「コミュニケーション能力」という概念を信用していません。それは彼らにとって完全に抽象的な概念です。なぜなら、高校教師をしていて英語を実際に使うのは、英語の授業を除いてほとんどないからです。たまに学校にやって来るALTなどの外人教師に対しては、顔を合わせたときに挨拶するくらいですみます。もちろん、これからのグローバルな世界を生きる生徒たちは英語による「コミュニケーション能力」も必要だろうとは考えます。しかしそれを高校教育の限られた授業で身につけさせることができるとは思いません。中には、学習指導要領で教育を縛ろうとする文科省の姿勢に反発を感じている人もいるようです。そういう人たちも、学習指導要領に表向き反対しないかぎり、自分自身の職務に忠実であれば解雇にはなりません。高校教師の本文は生徒や父母の望む就職や進学に奉仕することにあると、彼らは信じて疑いません。

 高校の教育を変えるには、そういう保守的な教師たちに新しい教育技法を理解してもらい、それらを少しずつ取り入れてもらうほかありません。しかし一般に、教師が自分の教え方を変えるというのは容易なことではありません。いきなりスピーチやディベートを授業でやれと言われてもどうしてよいかわかりません。教師がそういう活動を授業に取り入れるためには、そういう活動を自分で経験してみなければなりません。文科省や教育委員会はそういう機会を増やそうとはしてはいますが、それらに参加する教員の数は限られているので、その効果は部分的で、大きな革新的な変化は今のところ起きていません。

 しかし、どんな保守的な教師であっても、現在の英語教育の現状に満足している人は少ないでしょう。今のやり方をちょっとだけなら変えてもよい、という人は多いのではないでしょうか。現在行っている訳読法の授業を完全に否定するのではなく、少し工夫をして、文部省を含めて世論が強く希望している「コミュニケーション能力の育成」に力を貸してもらうのです。一般に、これまでの高校の授業は生徒に難しいテキストを与え、それを理解させることに時間とエネルギーの大部分を費やしていました。生徒は英文をあるていど理解する力はついても、英語を実際に使うことはほとんどできないというのが普通の状態でした。そこで、授業における理解のための時間をできるだけ短縮し、残った時間を実際の言語使用につなげる活動に当てるようにするわけです。

 この考え方は高校の英語授業をかなり変える力を持ちます。これならば自分にもできそうだということで、これまで伝統的指導法を固守してきた教師たちも乗ってくる可能性があります。現在行われているような、「コミュニケーション」を強調するあまり教師を悪者にするようなやり方では成功しません。こんど改訂された高校学習指導要領の「授業は英語で行うことを原則とする」というような、指導法の根幹にかかわることを法令でもって高圧的に押しつけようとする態度では、現場教師が反発を感じるのは当然です。文科省はもっと現場の教師たちの言い分を聞くだけの度量も必要です。(To be continued.)