Print This Post Print This Post

前回は音読から朗読への道筋を述べました。次に朗読から発表活動(プレゼンテーション)への発展を考えてみましょう。朗読はそれ自体りっぱなパフォーマンスであり、発表活動の一つの形式と言えますが、その用途は限られています。それは書かれた文章を声高らかに読み上げることによって、その文章の伝えようとするメッセージを聞き手と共有しようとするものです。人間の音声は音色・音調・強弱やリズム・間の取り方などによって、微妙な意味の違いや感情の起伏を表現することが可能ですので、一般に書き言葉よりも強い説得力を持ちます。ですから、朗読によって音声言語の面白さを悟った英語学習者たちは、その後の発展的な発表活動においても、その興味を持続するはずです。そして彼らが次になすべきことは、必然的に、口頭によるプレゼンテーションへの挑戦です。

 それは通常テキストの暗誦から始まります。暗誦と言ってもいわゆる「丸暗記」ではありません。熟練した朗読者は、テキストを読み込むことによって、ほとんど暗誦できるくらいになります。彼らは朗読のときテキストを手にしますが、視線はテキストの文字を追ってはいません。テキストへの一瞥によって、次に読むべきセンテンスのすべてが瞬時にワーキング・メモリーの中に引き出されます。彼らの意識は、それを自分のイメージした通りの音声連鎖に仕上げることに集中します。ですから決して間違えることはありません。彼らはテキストを丸暗記しようとはしないでしょうが、幾度も繰り返しリハーサルするうちに、自然にそのテキストに含まれるさまざまな情報(内容に関する情報だけでなく、語彙・音韻・文法・言語表現に関するあらゆる情報)が細部まで脳にインプットされます。暗誦というのは、その結果よりも、むしろ暗誦に至るそういうプロセスが重要なのです。

 朗読から暗誦に至る練習方法としていろいろなテクニックが開発されています。よく知られているものを二三挙げますと、まずread and look-up というのがあります。これは音読しようとするテキストの一部(フレーズまたはセンテンス)を黙読し、次に顔を上げ、それを声に出して言う練習です。俳優が台詞を覚えるときのやり方に似ています。繰り返し実行すると黙読の時間はしだいに短縮され、瞬時に1行くらいが視野に入るようになります。そして一度に読み取って言うことのできる語数が増していきます。また、最近知られるようになったシャドーイング(shadowing)という技法があります。これは教師やCDによって提供される音声を聴きながら、テキストを見ずに、すぐあとについて言っていく練習です。モデルの音声に影のようについていくのでこのように呼ばれます。少し間をおいて反復する方法もあり、それをリピーティング(repeating)と呼びます。このようないくつかの方法を組み合わせることで、練習の単調さを排除することができます。単調さは精神を退屈させ、頭脳の働きを鈍くします。大切なことは、さまざまな工夫をしてこの音声活動をチャレンジングなタスクにしていくことです。

 ここまで行ったならば、テキストの内容に関する英語による問答(questions and answers)は容易になります。生徒はテキストの内容を充分に理解しており、そこに現れる語彙や文法や慣用表現はすべて脳にインプットされて、いつでも取り出せるようになっています。ですから教師から発せられる質問の意味はすぐに理解できますし、その答えも瞬時にワーキング・メモリーに用意されます。何よりの強みは、いつも声を出して練習しているので、ワーキング・メモリーの中に組み立てられた英語がすぐに音声に変換できることです。これは耳と目だけを使って学習している人には容易にできることではありません。

 昔から、良い文章をたくさん暗記することが外国語学習では大切だと言われてきました。しかし最近は丸暗記があまり奨励されなくなりました。その理由はいろいろと考えられますが、一つには、情報技術の進化により人間による暗記の必要度が低下したということがあります。そもそも人間はコンピュータと違って丸暗記を得意とはしていないので、学校教育で暗記を強調するのは得策ではないというのです。確かに、辞書を丸暗記するなどは労力のわりに効果は少ないでしょう。しかし、しっかりと音読できるようになったテキストを、そのままにして終わる手はありません。丸暗記は必要ありませんが、徹底した音読練習によって頭の中に入ったテキストの内容を、同時にインプットされた語彙や表現を使って語るという活動は、さまざまな形のプレゼンテーションに発展できるものです。そのような活動を視野に入れて、生徒をもう一段高いプレゼンテーション活動へと導きたいものです。(To be continued.)