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(122)総選挙の結果に思う 松山薫

第64回衆議院選挙は、自民党の圧勝と民主党の壊滅的惨敗そして第3極としての日本維新の会の登場という結果になった。 前回、憲法問題が隠された最大の争点であると述べたので、この点に絞って選挙結果を考えてみたい。

今度の選挙では憲法問題はほとんどまともに論議されなかった。朝日新聞の調査によると、投票した有権者がもっとも関心を持った政策を4択でたずねたところ、一位は「景気・雇用」の35%、「憲法改正や安全保障・外交」は12%で最下位であった。

これは多分、改憲を政権公約には掲げるが、あえて争点にはしないという自民党の思惑通りであったろう。自民党がこのような戦術を採ったのは、小選挙区で勝つために、公明党との選挙協力が不可欠であったからだ。公明党は改憲には慎重で、加憲という立場をとっているし、選挙母体である創価学会の池田会長は主著「人間革命」で反戦平和の立場を明らかにしている。
そこで、今度の選挙では、改正戦略の第一歩として、第96条の改定に目標をおいた。第96条には「国会が衆参両院で3分の2の賛成を得て改正を発議、国民投票に付して過半数の賛成を必要とする」とある。国民投票の手続きを決めた法律は先の安倍内閣の時にすでに成立しているから、自民党としては、その時頓挫した手続き問題の審議を再開し、改正の発議を2分の1に引き下げようとはかるものである。これには、維新の会やみんなの党も賛成しているから、成立の見通しが立てやすい。それに、選挙直前の北朝鮮の〝ミサイル”打ち上げや、尖閣、竹島問題で国民感情は、国防軍、集団自衛権行使に有利に動いているという判断から、あえて、9条を争点にして票を逃がすのは得策でないと判断したものと思われえる。ただ、本丸の9条改定についても、選挙公約には掲げて、マニフェストになかった消費税の増税を強行して袋叩きにあった民主党の前轍をふむことをさけた。

今回の選挙結果で、憲法改正の可能性が蓋然性に変わったかに受け取られそうだが、このような選挙結果をもたらした背景を考えると、必ずしも、そうではないように思う。それは、今回の選挙結果と憲法改正に対する民意には乖離があると思える、つまり、議席数に憲法問題についての民意はあまり反映されていないと考えられるからである。その理由は以下の通り。

* 改憲が今度の選挙では争点にならなっかので、今後の選挙で、改憲が最大の争点になり対立軸がはっきりすれば、民意は違った形で現れる可能性がある。

* 自民党圧倒的勝利の選挙区選挙では、白票がこれまで最高の240万票に上った。このことは、自民党、日本維新の会の圧倒的有利のメディア予想のなかで、他党への投票が死に票になること嫌って、棄権したり、白票を投じた人がかなりいると推測させる。その中には、改憲政党への反撥を持つ人が多いのではないか。

* 選挙制度への疑問に加えて、多党化の中で政策の対立軸が不分明になり、誰に投票すべきかいわば意中の人が見つからずに棄権した人が多く、投票率は、60%を切って戦後最低となったが、対立軸がハッキリすれば、投票率は上がる「郵政民営化選挙(67.5%)」。そうすると全く異なった民意が示されるかもしれない。

* 違憲状態のまま実施された一票の格差は、最低2万7000票で当選、最高9万3千票で落選(つまり死に票)という信じられないような数字となって現れた。全体では、格差が2倍以上の選挙区が70を超え、自民党が43%の得票で237議席、民主党が22.8%で27議席、死に票が53%という異常な事態がおきた。都会の無党派層の票は徹底的に軽視されたが、この層には9条の改憲に否定的な人が多いのではないか。

こうしたことから、憲法改正、特に第9条が選挙の対立軸となった時には、今度の選挙とは異なった結果がでる可能性が高いと私は考えるのである。

その点は、自民党も十分承知しているから、改正の第一歩を96条に絞り、真の目的である9条改正をぼかしながら、8月の参院選挙で改憲政党が3分の2を獲得できるようあらゆる手段を動員してくるだろう。まずは、10兆円規模の大型補正予算、公共投資優先の来年度予算で、かつてと同じ土建業者を最大の集票マシンとする地盤固めに乗り出すだろう。

日本国憲法は、明治憲法が忠君愛国を基本理念とし、日本人としてのアイデンティティを強調するあまり、国威発揚の戦争を引き起こし、日本人が人間としてのアイデンティティを失ていった過去へ決別する道しるべであった。改憲勢力が言うように、この憲法がアメリカによって主導されたことは間違いないが、大事なのは内容である。日本国憲法は、民主、平和、人権を基本理念としているが、これは20世紀に二度の大戦を体験した世界人類の痛切な      反省の上に立って合意された国連憲章の言う普遍的原理に基づいている。

自民党が今年の4月に発表した憲法改正草案は、国防軍(草案では自衛軍)の創設を盛り込む一方、現行憲法11条にある基本的人権の条文をはずしており、国家を優先し個人の自由を制限する匂いがするなど、基本理念を根本的に変えようとしているように見える。

私は、日本人としてのアイデンティティを否定しているのではない。日本人としてのアイデンティティと人間としてのアイデンティティが両立できる社会であることを望んでいる。そして憲法はそれを保障するものでなくてはならないと考えるのである。

勿論制定後65年を超え、社会の変化によって実情に合わなくなった点があることもたしかである。国民的合意があれば、それらの点を変えることは、必要だろう。しかし、民主、平和、人権の基本理念を変えることは、国の形をかえ、現在の国民のみでなく、将来の世代にも影響する重大な事案である。これを隠された争点のままにして、いつの間にか改憲ということにしてはならない。

ところで、小選挙区・比例代表並立制の今の選挙制度は、前回政権交代という歴史的な結果をもたらしたが、今回は絶対得票率で3割台の政党が議席の6割を占めるという、民意を反映しない結果をもたらし、一票の格差是正とならんで選挙制度の抜本的改革が必要である事を強く印象づけることになった。自・公・民3党合意で是正はきまっているものの、政治家に任せれば、ゲリマンダー的な操作が行なわれる恐れが強いから、公正な第3者委員会で、民主主義の基盤である選挙が公正に機能するような制度をチエを集めて作ってもらい、国民的議論を経た上で、決めてもらいたいと思う。(M)