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(127)英語との付き合い−43

英語を学ぶ日本人の考え(5)

5.文法学習

● アンケート回答者の選択(末尾の数字は後掲書の番号)

* 文法教育を非難、否定する愚者がいるが、外国語教育において、文法教育をなおざりにしてはいけない。文法偏重主義は難詰されるべきだが、偏軽は慎むべきである。文法は言葉のルールである。(9)
* 日本人は「読むこと」の訓練は受けている。学校英語と受験勉強で訓練されているからかなりの程度はできる。しかし、「書くこと」の訓練はほとんど受けていない。ところが英語を書くのはきわめて難しいのだ。...文章英語には「語学」が必要になるのである。しかもその言葉は正しいものでなければならない。口頭のコミュニケーションでは、内容があれば評価される。文法や用語は多少間違っていてもよい。しかし文章では、内容だけが高度であってもダメで、文章そのものが正確でなければならない。(3)
* 音韻や語彙や統語に関する言語形式を操作する能力を「文法的能力」とすれば、それはコミュニケーション能力の基礎をなす能力であると言える。常識的にも、実際に言語を用いてコミュニケーションを行うためには、まず、その言語の音声システムと基礎的語彙、統語の知識を獲得しなければならないからである。(4)
* わが国では5文型というのが有名で、現在でも英文法の基本は5文型と信じて疑わない人がいるようである。文型というのは結局は動詞のパタンである。5文型は簡潔で便利ではあるが、全ての動詞のパタンをわずか5種類に分類するのは無理がある。OALDはホーンビーの考案した「動詞パタン」(verb pattern)に基づいて、すべての動詞の項目に、それぞれの動詞がどのパターンに使われるかを示している。そのパターンの数はOALD第6版(2000)では22である。それらは英語学習者がじっくりと研究すべき文法項目である。なぜなら、動詞のパターンを知らずにセンテンスを組み立てることは不可能だからである。動詞はまさにセンテンスの心臓と言うべきものである。(4)
* 日本語と英語でものの見方や考え方がどう違うか、それを最も抽象的なレベルで捉えたものが文法であってみれば、文法は、義務教育における外国語学習の目的そのものであるというべきである。目的であるだけでなく、文法はまた手段でもある。文法という抽象的な手段によらなければ,あらゆる言語現象は、その現象の数だけの個別の事象として教えなければならなくなる。(2)
* 文法は常に全体としてしか教えられないもので、学年ごとに文法事項を割り当て、それを教えるのは難しい。中学校で初めて五文型を教わったときの驚きは今でも忘れられない。世界がこれだけの形で記述できるということではないか。どんな複雑な重文だろうと複文だろうと、要するに、五文型の構造が繰り返されているだけなのだ。文型を発見するには、主語と述語動詞をみつければよい。主語や動詞を見つけるには品詞の知識が欠かせない。...八品詞というが、基本は名詞。(2)
* 中学や高校の文法では説明できない、そういうものもある。そういう場合は、疑問は疑問として大事にしておくことと教えればよい。・・・今学習しているそれよりさらに高度な文法の領域があること、そういう壁の存在を示唆しておくことが重要なのだ。(2)

● 私の見解

 サイレント・ウェイの翻訳書を読んだ時に、はじめて、CHUNKINGという言葉を知り、外国語はCHUNKINGによって理解するという考え方に共鳴しました。その後、初めての教本「時事英語教本基礎編」を書いた時、ガテーニョ博士が行った実験の結果に基づいて、用例の語数を7を中心に組み立てるよう苦心しました。博士の実験では、チャンクの中の語数は、5,7といった奇数のほうが、偶数より記憶に残りやすいとなっていたからです。考えてみると、これが、教本作りにあたって、私が自分に課した最初の“縛り”でしたが、1年間という出版までの期限の中では、なかなか理想どおりには行かず、心残りな結果となりました。ただ、英語の文章を、きちんとチャンクに分けられるかどうか、そして、チャンクの中に文法があり、さらにチャンクとチャンクを結ぶ文法がある、それを理解することが、文法の学習であるという考え方は、その後の教本つくりの中にずっと生かしてきたつもりです。チャンクの中で前置詞は重要な役割を担います。しかし、日本語にはそれに相当するものがありません。そこで、BOOK−1の10項目の文法事項のうち、前置詞を初めに置いたわけです。また、チャンクとチャンクを結ぶ接続語の中で、関係詞が重要な役割を果たしますが、これも日本語にはありません。それで関係詞に関するUNITを8つ設けました。(CHUNKINGについては、日本におけるサイレント・ウェイ研究の先駆者のひとりである土屋澄男氏の「音読指導」研究社に平易に説明されている)
私は、外国語学習には文法学習が不可欠だと考えていますが、学習の時期には慎重な配慮が必要だと思います。文法を演繹的に学んで、それを実際の言語活動に活用するのは相当に難しいことで、方法と時期を誤れば挫折の原因になります。かといって、外国語の最低限の基礎力を付けるための学習に当てられる時間は、母語の習得に使われる時間とは比較にならないほどに少なく、(ある計算では300対1といわれる。筑波大学名誉教授 浅野博著 教育・英語・LL—考え方と実践 リーベル出版)帰納的な方法だけでは習得にものすごい年月がかかってしまいます。従って、両方を併用する以外にはないと思うのですが、教える時期は、帰納的な学習で、ある程度英語の運用能力がついてからがよいと考えています。私は前述のように、旧制中学校では学徒動員と戦後の混乱でほとんど授業を受けておらず、日本語の文法も習った記憶がないのですが、教科書だけは支給されていましたので、秋田でぶらぶらしていた頃、読んでみて、それまで、日本語の使い方について疑問に思っていたことが、次々に氷解していくのに興奮したことを覚えています。
「茅ヶ崎方式英語学習法」では、BOOK−1が、統語法に関する(つまりCHUNKINGに関係する)10項目の文法事項で構成されていますが、「教本の使い方」のなかで、文法については「なんとなくわかればよい」という断り書きが入れてあります。文法の学習は重要であることを初めに自覚してもらわないと、0にはいくつを掛けても0だと思うからです。BOOK−1,BOOK−2で用例の中で実際にこれらの文法事項に触れながら,帰納的になんとなく理解してもらって、BOOK−3とBOOK−4では、演繹的な学習(巻末の文法事項、慣用語法用例一覧表)も加えて、SYNTAXの基本を身につけてもらう仕組みになっています。
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1.日本語力と英語力 斉藤孝・斉藤兆史 中公新書 2.英語は日本人教師 上西俊雄 洋泉社 3.超英語学習法 野口悠起雄 講談社  4.英語の音読指導 土屋澄男 研究社
5.世界の英語を歩く 本名信行 集英社新書  6.あえて英語公用語論 船橋洋一 7.英語を子供に教えるな 市川力 中公新書  8.日本人は何故英語が出来ないのか 鈴木孝行  岩波新書  9.誰がこの国の英語をダメにしたのか  澤井繁男  NHK出版10.英語屋さんの虎の巻 浦出善文 集英社新書 (M)