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<訂正> 前回の「音と綴りのずれ」の中に挙げた英単語の一つに綴りの誤りがありましたので、お詫びして訂正します。“magaphilanthropist” は “megaphilanthropist”の誤りでした。Bill Gates のような大富豪で、アフリカのエイズ患者のような、困難な状況に陥っている人々に対して援助の手を差し伸べる人のことです。

さて本題に戻って、綴りの規則から外れている単語は個別に記憶するほかありません。しかしその数は規則的なものほど多くはないので、ふだんから注意して記憶のリストの中に加えるようにします。特に、先に挙げたような綴りの変則な基礎語(beautiful, friend, people など)は非常に頻度の高いものですから、一つずつしっかりと記憶する必要があります。これに対して使用頻度の比較的に低い特殊な語(Euroskepticism, megaphilanthropist など)については、いちいち頑張って記憶する必要はないでしょう。しかし奇妙なことに、こういう語がいつまでも記憶に残ることがあります。

そこで単語の発音と綴りについての学習の中心は、音と綴りの規則を理解することにあります。しかしこれは一般に考えられているほど簡単なことではありません。英語母語話者の言語習得においては、そのような規則は多くの言語経験によって自然に気づかれ、身につくと考えられがちですが、実際はそうではありません。母語の基本的な音韻規則や文法規則に関しては、子どもは特別な教育を受けなくても、自然な言語習得環境が与えられれば自然に獲得できることが分かっています。ですから子どもは3年ほどで自分の言いたいことが言えるようになるのです。しかし、書き言葉はそうではありません。その証拠に、世界には文字を持っていない言語が多数あり、文字があっても教育を受けられないために、読んだり書いたりすることのできない人々が多数います。このことから、言語の書記システムを獲得するには、そのための特別な教育環境を必要としていることが分かります。

以前から、米国の多くの小学校ではフォニックス(phonics)を意図的に導入する方法が取られています。それは、英語を母語とする子どもたちも、文字や綴りの学習は自然に学ぶことが難しいからです。私たち日本人も、アルファベットの文字は覚えることはできても、英単語の綴りを自然に覚えることはできません。それには学校の授業で適切な指導がなされる必要があります。しかしそれは、指導の仕方によって易しくもなり、難しくもなります。英語の綴りの多くは一定の規則に基づいているので、学習者がその規則を学ぶことができればずっと易しくなります。英語の綴りには不規則なものが多いという理由で、一つひとつ別個に記憶するしかないと指導されると難しくなります。

そういうわけで、英語の綴り字に関する学習指導の要諦は、学習者がいかにしてその規則に気づき、それを有意味な綴り字学習に結びつけることができるかにあります。そのためにはどうしたらよいでしょうか。まず考えられるのは、教師が音と綴りに関する規則(フォニックスの規則)を学習者に気づかせるという方法です。これを実践している指導者は最近しだいに増えています。たとえば、既習の語彙から音と綴りが共通している次のような例を挙げ、綴りの規則を理解させるやり方です。

(1) /ai/ drive, fine, like, mile, nine, pile, ride, slice, wife, etc. (cf. give, live)

(2) /ei/ gain, mail, nail, pain, rain, sail, tail, wait, etc. (cf. again, said)

このような資料によって、生徒たちは提示された語の綴りと発音に共通性のあることに気づき、未知語に出合ったときにそれをどう発音するか、あるいは、発音された語を聴いてそれをどう綴るかの予測が可能になります。同時に、その規則がすべてのケースに当てはまらないことにも気づくでしょう。上記の(1)では、giveやliveがその規則に合わないこと、(2)ではagainとsaidが規則から外れていることを知ります。

しかし教師がすべての資料を提供するやり方は、時間の節約にはなりますが深い理解には達しません。それよりも、教師は一つか二つの規則的な例を挙げ、あとは生徒たちに既習語彙のリストの中から引き出させるほうがよいでしょう。50年以上も前のことになりますが、筆者が中学校教師をしていたある学期の終わりの授業で、既習の語彙リストを資料として用い、語の綴りと音の繋がりをまとめる作業をしたことがあります。あの時の生徒たちの生き生きとした表情を今も忘れることができません。このような活動は一人でやるよりも、クラスやグループでわいわい言いながらやると楽しい活動になります。(To be continued.)