Print This Post Print This Post

話し言葉の学習において強勢とならんで大切なのが抑揚(intonation)です。抑揚とは、人が言葉を話すときのピッチ(pitch 声の高さ)の上がり下がりのことです。それは強勢とも関係があります。ピッチが上がるところでは自然に強く発音されます。しかし強く発音されるところで必ずしもピッチが上がるわけではないので、言語研究者は抑揚と強勢とを区別して記述します。

英語の基本的な抑揚パタンはわりに簡単です。学校の英語の授業で習うのは次の3つのパタンです。

(1)下降調(falling intonation):普通の叙述文(平叙文ともいう)

(2)上昇調(rising intonation):yes-noの疑問文

(3)平坦調(level intonation):文の途中の切れ目

最初の下降調というのは、何かを言いきるときの抑揚パタンです。それは第1強勢が置かれる音節でピッチが上がり、そのあと徐々に(または急激に)下降して終わります。これが叙述文の原則です。たとえば、I called you yesterday(昨日きみに電話した) の場合を考えてみましょう。一般に発話の最後の強勢部分で抑揚が変化しますので、この場合にはyesterdayのyesに第1強勢が置かれ、そこでピッチが上がり、そのあと下降して終わります。

しかし、抑揚は話し手の意図や態度によって変わってきます。学習者にとってはそこが非常に難しいところです。もし話し手が何かの理由で(注)calledをとくに強調しようとすると、そこに第1強勢が置かれてピッチが上がり、そのあと最後までなだらかな下降調になります。yesterdayのyesは第2強勢となります。また、話し手がcalledとyesterdayの両方を強調したいためにその両方に第1強勢を置くときには、その両方でピッチが上がりますので、この発話はyouのあとでちょっと切れる感じになります。

次にI called you yesterday, but nobody answered(昨日きみに電話したが、誰も出なかった)という場合の抑揚を考えてみましょう。この発話は二つの部分から成っています。書かれた文ではコンマで切られています。その切れ目で先に挙げた(3)の平坦調になります。この発話を再現するとき最も普通と思われる抑揚の変化は、前半部分ではcalledで、後半部分ではnoで起こると考えられます。つまり、そこに第1強勢が置かれてピッチが上がります。ピッチが上がったあとは徐々に下降しますが、前半のyesterdayのところでは完全には下がらず、平らに(またはやや上昇ぎみに)区切ります。answeredの最後は完全に下がります。

では疑問文の抑揚パタンはどうなるでしょうか。たとえばDid you call me yesterday? ではどうでしょうか。これはyes-no questionですから上昇調です。ピッチが最初から最後までしだいに上がっていきます。叙述文と違って急激なピッチの変化はありません。もちろんcalledとyesterdayには強勢があります。What’s your name? のような wh-questionではどうでしょうか。学校ではこの形の疑問文は下降調を用いると教えられるかもしれません。しかし場面によって、同じ疑問文が上昇調で言われることも多いことを知っておくべきです。What’s your name? を下降調で、相手を見下した感じで言ってみてください。すると、いたずらをしている少年に対する警官か先生の詰問みたいになるでしょう。もっとやさしく丁寧にいうときには、What’s your name, please? やMay I have your name, please? またはYour name, please? などを上昇調で言います。このように、wh-questionsはすべて、質問する相手との関係で上昇調になったり下降調になったりします。

最初に挙げた抑揚の基本パタンでは、叙述文は下降調、yes-noの疑問文は上昇調となっていましたが、それはあくまでも原則であって、実際にはそうでない場合が他にもいろいろとあります。Did you call me yesterday? は上昇調ですが、You called me yesterdayを上昇調で言えば、疑問文と同じになります。その場合にはYou called me yesterday? と疑問符を付けて書きます。日常会話ではそういう疑問形はごく普通に使われます。また、You called me yesterday, didn’t you? という付加疑問(tag question)も、上昇調で言えば確認を求める疑問形となり、下降調で言えば念を押すだけの助詞みたいなものになります。英語学習者は抑揚の上昇調や下降調の原則にあまりとらわれず、実際の言語使用でどんな抑揚が使われているかを各自で研究することが必要です。そのための方法として映画の台詞の研究をお薦めします。

(脚注)I called you yesterdayの発話は、「昨日きみに電話した」という事実だけを伝えるとは限りません。相手に対する非難の気持ちを表わすこともできます。「昨日きみに電話したのに!」というような感じです。また相手に「昨日どうして来なかったの?」と詰問されて、その言い訳としてこのように言うこともできます。いずれの場合にもcalledに強勢が置かれ、そこでピッチの大きな変化が現れます。非難や言い訳に伴う感情は、当然、声の調子やその大きさにも反映します。