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(154)<参議院選挙管見>

④ 選挙結果の検証 

第23回参議院議員選挙の結果について、(1)① 参院選概観にそって (2)これ
からどうなる‐ミクロの視点 (3)これからどうする‐マクロの展望 の3回にわたって、私なりの検証を行いたい。これは、次の国政選挙(多分3年後の衆参同日選挙)を考える際のガイドラインとなる。現在を理解しなければ、将来を見通すことはできないのである。

④‐(1)  ① 参議院議員選挙概観にそっての検証−民意は反映されたか?

  7月21日(日)投票日。朝の天気概況では、全国的に曇りか晴れで、西日本では猛暑が続くが、東日本では30度以下で比較的過ごしやすいという。午前10時前、家内と投票所へ向かった。大抵近所の知人に会ったり、三々五々とまではいかなくても、投票所付近では、行き帰りの人達に出会うのだが、今日は道路に殆ど人影がない。投票所はがらんとしていて先客は誰もいなかった。帰りに100メートルほど離れたスーパーに立ち寄ったところ、こちらのほうは、いつもどおり賑わっていた。今度の選挙の本当の焦点である投票率が気になった。
  概観では、これまで数回の各級選挙での投票率から推測して、投票率は50%台前半と予測したが、結果は予測どおり52.6%という過去3番目の低率だった。推測の根拠には、自分自身の予感もあった。NHKにいた頃、多分20回以上選挙報道にかかわり、自分でも各級選挙の運動員や選対要員をしているうちに、投票日よりかなり前に、選挙の結果が大体予測できるようになったのである。

管見 ① では、投票率を左右する要因として5項目を挙げた。

1.接戦だと投票率は上がる:今回はメディアの事前調査などで自民党の独り勝ちが予測されていた。そのアナウンスメント効果もあって投票率は下がった。
2.争点が明確だと投票率が上がる:自民党の争点隠しによって、原発も憲法もかすんでしまった。景気回復がメインテーマでは反対の仕様がない。また、メディアが「衆参のねじれ解消」が焦点とはやし立てたので、他の争点がボケた。各党の政策の違いが理解できない有権者も多かったようだ。したがって、投票率は下がった。自民党の作戦勝ち。
3.期日外投票の期間が長いと投票率が上がる:期日前投票の期間は、選挙公示(国政選挙以外は告示)の翌日から投票日の前日までだが、事実上全国一区の比例代表制がある参議院選挙が、選挙区の大きさの関係で一番長い。今回は17日間で、地区別比例代表制の昨年末の衆議院選挙より5日間長かった。10年前に設けられたこの制度がなければ、投票率は、平成4年の50.7%を下回り、過去2番目の低さになったろう。
4.雨が降ると投票率は下がる:天候は投票には比較的よい条件であった。それでも投票率が下がったのは天気がよすぎたために、遊びに行った有権者も含めて、有権者の関心の低さによる。
5. 今回初めて利用が認められたインターネットによる選挙運動に接触した有権者は約20%だということだが、いまだ試行錯誤の段階で、高齢者の半分程度で推移してきた若者の投票率を上げるまでには至らなかった。

管見 ① では、議席獲得に影響する要素として8項目をあげた。

1.風: 追い風はどこにも吹かなかった。風は、主として無党派層によって巻き起こされるが、無党派層の多くは棄権に回ったようだ。それが、結果的に民主党への逆風になった。また、投票した無党派層の支持の内訳は自民党が25%前後、民主等が15%、共産党、みんな、維新がそれぞれ12%前後とばらけており、風が起きようがなかった。
2.選挙期間中の突発重大事件: (例えば、大平首相の急死による自民党への同情票のような)大事件はなかった。福島第一原発の汚染水が海へ漏れるという原発推進派にはかなり不利なニュースは、10日も遅れて投票日の翌日に発表された。茶番劇。
3.政策: 「ねじれ解消」という、政策以前の問題が焦点になって、これを前面に押し立てた与党側を大きく利した。「ねじれ」というconnotationの悪い語によって、「参議院で野党が与党を上回る勢力を持つこと」があたかも絶対悪のような雰囲気が出来上がった。選挙直前に、参議院民主党の抵抗で「電気事業法改正案」や「生活保護法改正案」のような生活に密着する重要法案が廃案になったことも、この流れを決定づけた。 朝日新聞は社説で「ねじれは悪いことか」と疑問を投げかけたが手遅れのマッチ・ポンプ。かくて「ねじれ」は解消されたが、参議院が再び衆議院のカーボンコピーとなり、”スピード感をもって決める政治”というスローガンの下で、巨大与党の暴走を許す結果になるおそれが強くなった。2院制のメリットとデメリットをもう一度真剣に考える必要がある。アメリカ下院は野党共和党が多数を占める。
4. 組織: 国政選挙は、市町村議員、県会議員の築いた地方組織の基盤の上に戦われる。 自民党が一党支配の50年にわたって築き上げた地方組織は新興政党の追随を許さない。また日本医師会、歯科医師会、農協など支援団体の加盟率は20%前後に落ち、35%程度あった全盛期ほどではないにせよ、他党を寄せ付けない。参議院東京選挙区で社会党上田哲陣営の運動員として医師会を担当し、その壁の厚さが身に沁みた。一方、労組に頼る民主党候補は、電気労連に遠慮して原発反対を打ち出せない同盟の動きが不活発で、選挙区で大敗したうえ、比例区に立候補した同盟の組織内候補も3人が落選した。労組
の組織力の弱体化を物語る。
5.候補者の経歴・知名度: 比例区では知名度の高い候補者の集票力がものを言う。かつては、市川房枝や石原慎太郎、田英夫、青島幸男、上田哲らが100万票をこえる得票で、党の比例区候補の当選に大きく貢献したが、今回は維新の会のアントニオ猪木の8位35万票余りが目立った程度で、自民党から立候補した外食チェーンの創業者渡邊美樹は、傘下の企業がブラック企業として週刊誌などでたたかれ、35位10万票余りでやっと当選という有様だった。
6.選挙協力: 自民党が、極めて固い票を持つ公明党・創価学会との協力で、選挙の帰趨を占う1人区で着実に議席を獲得(31選挙区中29議席)した。このあたりが、自民党が憲法問題などで水と油の公明党を切れない泣き所だ。一方野党は、維新とみんなの協力が選挙直前に御破算になり、完全にバラバラで、足をひっぱりあった。
7.失言、スキャンダル: 維新の会は、橋下共同代表の”慰安婦問題”での失言や石原慎太郎共同代表の乱暴な発言で失速し、当初の第二党を狙う勢いを失った。民主党は鳩山元首相の「尖閣は日本が盗んだと思われても仕方ない」という発言がマイナスになったほか、菅元首相が東京選挙区で公認もれの候補者を応援するという政党としての体をなしていない姿をさらけだし、壊滅的敗北に一役買った。これに対して自民党は「原発事故で死んだ人はいない」という趣旨の発言をして反撥を買った政調会長を一切表に立てず、失点を最小限に防いだ。
8.インターネット活用の巧拙: 候補者の9割以上がSNSやfacebookを利用したが、これらを見た有権者は20%前後で、試行錯誤の段階にとどまった。ただ、ネットを活用した東京選挙区の無所属の俳優山本太郎が66万票で4位に入ったことや緑の党のミュージシャン三宅洋平が、ライブのネット中継などで比例区落選候補最高の18万票をあつめたことから、有効性は確認されたといえる。またインターネットで、相手候補を貶めるネガティブキャンペーンを行なった候補者がいたが、今回はまだ、影響はなかったと本人が認めている。今回は政党と候補者のみに情報発信が解禁されたが、有権者が直接選挙運動に参加できるようになれば、目を覆いたくなるような中傷合戦が繰り広げられて、かえって有権者を選挙から遠ざける結果になりかねない。また,市場操作の手法などが導入されて有権者が巧妙に操作される怖れもあるから、慎重な取り扱いが必要だろう。

 それにしても、有権者の半数近くが棄権する選挙とはなんだろう。これで代議制民主主義は機能するのか。戦後最低の投票率だった昨年末の衆議院議員選挙の総括でも述べたが、今回もまた、自民党は絶対得票率(有権者全体に対する得票率)は25%つまり4分の1で、改選議席数の54%を獲得した。さらに、一票の格差は最高4.77倍、たとえば、東京では55万表で落選し、鳥取では16万票で当選という異常さで、選挙の価値を根本的にそこなうものだった。最高裁が言うように、都道府県を一選挙区として区割りをする限りこの格差はなくならない。このような状況の中で、昨年の衆議院総選挙に続き、今回も投票日直後に弁護士グループによって選挙無効の提訴が全国の高裁・支部で行なわれた。民主主義は手続きだと言われるが、違憲状態の手続きによって選ばれた両院議員によって国が統治されることを何時まで許すつもりなのか。

 これほどまでに異常な低投票率が続くのは、”日本をぶっ壊す“と吠えた小泉劇場や“戦後初の2大政党による政権交代”で風を巻き起こした民主党政権によっても、この国は全然変らなかったことへの失望感が、政治や政治家に対する無気力、無関心を増幅させているからだと思う。さらにその底には、普通の人が普通に働いて普通に生活できる社会の実現が、もはや現在の政治や政治家では不可能であることを多くの人達が実感しつつあるからだと私は考えている。(M)