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(156)参院選管見 松山薫

Author: 松山 薫

(156)参院選管見 松山 薫

④ これからどうなる‐ミクロの視点

④−(3) 日本経済再生の仮説と不安材料

 安倍政権の経済政策(いわゆるアベノミックス)は、1980年代にアメリカで共和党のレーガン大統領が実施したレガノミックスと同じサプライサイド経済政策で、供給側つまり企業の収益を増加させ、その“ 滴り(trickle)”で全体を潤そうという考え方(trickle-down theory)に立つ。方法はリフレーション(リフレ)つまり金融緩和と財政出動によって、年率数%の緩やかなインフレーションを起こしてデフレーション不況から脱却し、経済を活性化させようとするものである。安倍政権はこれによって15年以上続いたデフレから脱却し、再び”世界一の強い経済”を目指すとしており、具体的には年間2%のレフレーションを10年間続けて達成することを目標にしている。* trickle には数・量的に少ないというnuanceがある。

 アベノミックスには経済専門家の間でも賛否があり、日本経済再生への特効薬なのか、はたまた死にいたる劇薬になるのか、世界もこの”実験”に注目している。後述のような不安材料もあるので、成功の確率についての*仮説*は50:50とする。                

 アベノミックスは、第1の矢−金融緩和、第2の矢−財政出動、第3の矢−成長戦略 の3本の矢で構成される。安倍首相の本籍地近くで栄えた戦国大名毛利元就の3本の矢の喩えからとったものと思われる。なおアベノミックスという用語は第1次安倍内閣の時から使われているが、安倍首相自身は使っていないという。

< 第1の矢 大胆な金融緩和 >
 
安倍政権はインフレ抑制を旨としてきた日銀の白川総裁を事実上更迭し,新任の黒田総裁は自ら”異次元”と称する金融緩和に乗り出した。いわばアメリカの連邦準備制度理事会バーナンキ議長の後追いである。日銀は、資金供給量を2年間で2倍(270兆円)に増やし、企業の設備投資を促して供給を増やすとしている。

● 批判
* 金融緩和で長期金利が下がれば、国債の価格が暴落し、財政が破綻する。
* 無制限な金融緩和は、制御できないインフレを呼ぶ恐れがある。
* 人為的な円安誘導は、通貨安競争を招く恐れがある。
* 円安によって潤うのは一部大企業だけで、輸入原材料高で中小製造業は苦しむ。
* 金融緩和によって潤うのは一部の既得権益層だけで、経済格差がますます拡がる。
* 株高を主導したのは外国のヘッジファンドで、ピークで売り抜けて巨額の利益を得ている。日本の富を濡れ手に粟のごとく奪い取っているのだ。
* アメリカFRBの金融緩和策の終了
* 中央銀行の任務は、物価の安定つまりインフレの抑制である。
* FRBの真似をして異次元の金融緩和をしても、アメリカと日本では条件が大きく異なるから成功はおぼつかない。( ドルは基軸通貨、労働力増加中、シェールガス革命など)。イギリスでも量的緩和を行なっているが成功していない。
* 株価を重視すれば債権の金利が上がり、債権の金利を下げると株価も下がる。両立は困難。
* 異次元の金融緩和→国債の暴落→銀行危機→貸ししぶり、貸しはがし→不況というのが普通の循環だ。
* 日銀がいくら資金を供給しても、民間企業に有望な投資先がなければ、資金需要は増えない。それが金融緩和だけで不況から脱出は出来ないという過去の教訓だ。
* お手本のバーナンキ議長はかって「ヘリコプターから札をばら撒け」というほどの金融緩和論者だったが、最近は金融政策万能から軌道修正している。

< 第2の矢 機動的な財政出動 > 

「緊急経済対策」でとりあえず景気を下支えする。その財政的裏づけとして10兆円の公共投資を含む22兆円強の大型補正予算を組んだ。重点配分項目は「復興・防災対策費」「成長による富の創造」「暮らしの安全・地域活性化」とする。年末に決まる来年度本予算では、同時に、中長期の財政健全化へ向けて「プライマリーバランス(基礎的財政収支)」の黒字化を目指し、2020年度に赤字を0にする。中期財政計画では国債の発行額を現状以下とすることを目標とする。国の借金(国債など)の総額は今年の6月末で1008兆6281億円で、国民一人当たり800万円弱、GDP比では先進国中最悪である。

● 批判
*プライマリーバランスの回復は、自民党一党支配の時代から、何回も計画倒れに終っている。      
* 閣議決定された「中期財政計画」は具体策に乏しく、計画というに値しない。
* 「国土強靭化」の名の下に、公共事業へのバラ撒きが復活しつつある。強靭化政策集には、「高速道路の未開通区間の解消、4車線化」「北陸新幹線の大阪延伸」など大型公共事業がならぶ。かつて自民党は10兆円規模の財政出動を繰り返し、今日の財政危機を招いた。
* 内閣府の資産では、プライマリーバランスは、高めの成長が続いても10年後10兆年の赤字が残る。結局増税による歳入増しかないということになる。

< 第3の矢 民間主導の成長戦略 > 

「女性の活躍」「世界に勝つ」「民間活力の爆発」の3項目を骨太の方針に、十数項目を具体的目標と達成時期を添えて提示した。
* 一人当たりGNI(gross national income)を10年後までに150万円増やす。
25歳から44歳までの女性の就業率を5年後までに現在の68%から73%に増やす。
 * 6ヶ月以上の失業者を5年後までに20%減らす。
 * 農林水産物・食品の輸出を5年後までに2倍以上の1兆円に増やす。
 * 来日外国人旅行者の数を現在の870万人から3千万人に増やす。
 * 設備投資をリーマンショック前の7兆 円に戻す。
などなどである。しかし、新味のない寄せ集めで、実現の道筋も不明として市場はほとんど反応しなかった。

● 批判
* 給与や雇用を増やす企業を税制面で優遇しても、企業が人件費を増やす環境になけれ
ば、税金の無駄使いになる。
* 経済成長の根本である労働力が急激に減少していく中で、この程度の政策で成長をうながすのは不可能である。
* 企業の設備投資計画は多くが海外向けで、国内の景気回復にはつながらない。
* 第3の矢の実現には業界団体(経団連、医師会、農協 etc.)などの既得権に切り込まなければならず、党内対立が激化して中途半端に終る公算大。
* 第3の矢の目玉であるGNIは、個人所得とは異なり、実質は半分程度。
 
< アベノミックスの不安材料 >

* アベノミックスは、フリードマンの新自由主義の「小さな政府」とケインズの「大きな政府」が入り混じっており、論理的に整合性がない。要するにかき集めのごたまぜ。  国民に対する目くらましではないか。
* 経済的な規制と社会的な規制を混同して緩和すると小泉改革と同じ轍を踏む。
* 3本の矢の喩えは、3本が一体にならないと力を発揮できないという教えだが、アベノミックスの3本の矢は、整合性がないため一体的な力を発揮できない。
* 貿易収支の赤字の拡大による経常収支の黒字の縮小で日本はも早貿易立国ノ立場にはない。一方、資本収支は拡大しているがこれをどう使うかについて方向性が見えない。
* 中国経済の成長鈍化と構造的不安。
* EUの財政危機再燃と信用不安の拡大。
* 中東の政情不安による原油価格の高騰。
* 日本の景気は安倍政権発足以前の昨年11月に底入れし、すでに回復基調に入っていたので、アベノミクスはそれに乗ったに過ぎない。
* かつては企業が儲かれば労働者も潤った。しかしいまは、ITやロボットの活用や不採算部門の海外移転で企業が生産性を挙げれば、雇用が失われる。
* アベノミクスとは、金融や財政のバラまきで「将来需要」を先食いし、ひたすら目先の成長を目指すものではないか。
* 企業が儲かっても、内部留保に積み上げるだけで、賃金にはまわさない。これまでそうだったし、これからもそうだろう。
* 円安や株高で利益を売るのは一部の人達で、経済格差はますます開くだろう。

                  以上

● 前回のブログで、社民党の党首を、福原瑞穂と書きましたが、福島瑞穂の誤りでした。