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英語の学び方Q & A (4)

Author: 土屋澄男

Q: 日本人にとって英語は学びにくい言語だと聞いています。本当にそうなのですか。そうだとすればその理由は何ですか。

A: 多くの日本人は英語が不得意だと言います。中学から高校または大学までそれなりに一所懸命に勉強したのに、殆どまたは全く使えるようにはならなかった、と言います。その理由はいろいろ挙げられますが、上の質問者のように、そもそも英語は日本人には学びにくい言語だという説があります。もしそうだとすれば、なぜそうなのかを知りたいと思うのは自然なことです。

ある言語の話者が他の言語を学ぶとき、2つの言語間の言語学的特徴を比較し、それらに共通点が多い場合には習得が容易であり、そうでない場合には習得が難しくなるということは以前から言われていました。たとえば私たち日本人にとって、韓国・朝鮮語は日本語と構造が似ているので比較的に習得が容易だと言われています。また中国語は、韓国・朝鮮語よりは難しいけれども、共通の漢字圏にあるので英語などのヨーロッパ言語よりは易しい、というようなことです。

ヨーロッパの多くの言語はインド・ヨーロッパ語族(Indo-European Family)に属しているので類似性が高いことが分かっています。ですから英語の母語話者がドイツ語やフランス語を学ぶことは比較的に容易だと言われています。筆者はかつてオランダを訪問したことがありますが、オランダ人には複数言語を自由に使える人が珍しくありません。英語で話しかけるとたいていのオランダ人が流暢な英語で応じてきました。それは、オランダ語と英語、ドイツ語、フランスなどは同じインド・ヨーロッパ語族に属しており、しかもオランダではそれらの言語が日常的に周囲で使われているからです。このようなことは日本では考えられません。

さて、日本と英語の間の言語間の距離(language distance)はどのくらい大きいのでしょうか。このことに関する研究はいくつかあります。白井恭弘著『外国語学習の科学』(岩波新書2008)は、アメリカ国防総省の外国語学校で採用している、英語の母語話者にとっての言語別難易レベルを紹介しています(同書p. 5)。それによると、日本語はアメリカ英語の母語話者にとって最も難しい「カテゴリー4」に属する言語の一つであり、上級レベルに達するのに週30時間の集中コースで44週を必要とするとしています。逆に、アメリカ人にとって比較的に習得が容易なのは「カテゴリー1」のロマンス語系言語で、これらの習得には「カテゴリー4」の半分以下(20週)の学習時間が割り当てられています。

カテゴリー4:アラビア語、中国語(北京語)、日本語、韓国語

カテゴリー3:ギリシャ語、ヘブライ語、ペルシャ語、ポーランド語、ロシア語、セルビア語とクロアチア語、タガログ語、タイ語、トルコ語、ウクライナ語、ベトナム語

カテゴリー2:ドイツ語、ルーマニア語

カテゴリー1:フランス語、イタリア語、ポルトガル語、スペイン語

さらに、英語から最も遠い距離にある言語として、とくに日本語と韓国・朝鮮語を挙げているものもあります。たとえばElder and Davies(1998)は(注)、日本語と韓国・朝鮮語が他のどの言語よりも英語からの言語距離が大きいとしています。逆に、日本人学習者が韓国・朝鮮語や中国語を学ぶ場合には、英語よりもずっと習得が容易であることが知られていますが、それがどの程度の違いかについてはまだ明確な結論を出すには至っていません。

以上のデータから現時点で言えることをまとめます。日本語を母語とする日本人が英語などのヨーロッパ言語を学ぶのは、中国語や韓国・朝鮮語を学ぶのとは大きく違います。それは言語距離という観点から事実として認めなければなりません。結論を下すのにはデータが不足していますが、アメリカ国防総省の集中コース・プログラムから推測すると、おそらく2倍以上の時間とエネルギーを必要とします。アメリカの集中コースと違って、日本の学校では週4時間くらいの学習がダラダラと何年も続きます。そういう学習環境では、普通に学んで上級レベルに達するのは非常に困難だと考えられます。日本人の多くが高校または大学まで英語を学び続けても充分に使えるようにならないのは、むしろ当然のことです。英語を本当に身につけたいと思う学習者は、学校教育だけに頼るのではなく、もっと自律的に学習に取り組む必要があり、そのための工夫を自分でしなければならないのです。次回にはそういう質問を取り上げます。(To be continued.)

(脚注)Elder, C. and Davies, A. (1998) Performance on ESL examinations: Is there a language distance effect? Language and Education, 12, 1, pp. 1-17.