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Q1 : <大学生>いつも思うのですが、学校で習う英語と母語話者の使う英語はかなり違うのではないかと。そうだとすると、教科書の英語が分かるようになっても、母語話者の英語は分からならないのではないか。実際のところはどうなのでしょうか。(前回のQ2)

Q2 : <会社員>学校を出て10年になります。TOEICは720点までいきましたが、いまだに英語に苦労しています。ネイティブ・スピーカーの言うことがしばしば聴き取れません。公式の場のスピーチなど、きちんとした英語はだいたい聴き取れるのですが、非公式な場の雑談のようなものが苦手です。

A : 上記のQ1は前回に掲載したQ2ですが、この問いに関する答えをまだ充分に尽くしていませんので、今回もう一度取り上げることにします。まず前回の最後に書いたことをまとめておきます。およそ次のようなことでした。

私たちが学校で教えられる外国語としての英語は、概してフォーマルなスタイルの英語である。それに対して英語の母語話者が日常生活で使う話し言葉は、インフォーマルなスタイルの言語が大部分を占める。したがって、私たちが知っている英語と、母語話者が実際生活で使う英語とはかなり違っている。

話し言葉においてフォーマルな英語とインフォーマルな英語とが実際にどれくらい違うかを記述するのは容易ではありません。その違いは使用される言語のあらゆる面(音声、語彙、イディオム、文法など)にわたっているからです。前回に例として挙げた挨拶の英語も、フォーマルなものとインフォーマルなものとではかなり違っていました。しかもインフォーマルな言い方にはさまざまなバライエティ(変種)があります。ここでは、よく使われる英語の挨拶の例を「フォーマル」、「インフォーマル」および「ニュートラル」(neutral:フォーマルとインフォーマルの中間)の3つの範疇に分けて列挙してみます(注1)

フォーマル:Good morning (afternoon, evening), Mr. Green.

ニュートラル:Hello, Mr. Green. / How are you?

インフォーマル:Hi, John. / How’re you doing? / How’ve you been? / How’s it going? / How’s everything going? / How are things? / What’s up? / What’s happening? / What’s going on?

これで全部ではありません。もっとくだけたHeyなどというのもありますが、そこまで挙げるとキリがありません。というわけで、学校の授業でそれらすべてを扱うことは不可能ですから、生徒が学ぶものがごく限られたものだけになることは止むを得ないことです。そこで、学校でもっとインフォーマルな表現も扱うようにしてはどうかという提案が出てきます。その通りです。教科書の英語はフォーマルなものに限るというのは極端です。インフォーマルなものも、頻度の高いものは授業で扱ってよいはずです。実際に、近年の中学・高校の検定教科書はかなりのスペースが会話文や対話文で占められるようになっており、必然的にインフォーマルな表現も多数扱うようになっています。上記に掲げた挨拶の中では、Hello, Mr. Green. / Hi, John. / How are you doing? などの表現を検定教科書で見つけ出すことは難しくありません。

しかし一種類の教科書で扱う挨拶の種類は限られていますので、学習者が網羅的な知識を得るためには、他の教科書や参考書で研究するほかありません。それよりも問題としたいのは、学習者が話し言葉のバライエティに関する知識をどの段階で、どのように学ぶのがよいかということです。常識的に言って、小学校や中学校の初級の学習段階で多様な英語表現を学ぶことは、学習者の負担が増えますし、望ましいことではありません。先ほどの挨拶で言えば、「フォーマル」または「ニュートラル」の表現を1つか2つ使えるようになればよいでしょう。実際に多くの英語指導者はそのようにしていると思います。

しかし中級以上の段階で会話に関心のある学習者は、頻度の高いインフォーマルな表現を記憶しておき、実際のコミュニケーション場面で困惑することのないように準備する必要があります(注2)。英語母語話者とのコミュニケーションをスムーズに行うためには、英語表現のバライエティについての知識がある程度必要だからです。しかし一般には、それは相手の発言を理解するためであって、英語母語話者と同じようにインフォーマルな英語の使い手になるためではありません。そのような使い手になるためには、果てしのない努力が要求されることを覚悟しなければなりません。実際の使用場面を数多く経験して、自分自身も少しずつそのような表現が使えるようになっていくのが理想的です。

(注1)出典:高橋朋子、田中茂範、鈴木佑治、安部 一『英会話 機能表現スタイルブック』(アルク1994)。この本は日常会話で使用される頻度の高い表現を状況別に収録しています。類書は多数ありますが、これは信頼できる英会話の入門書としてお薦めできます。

(注2)2013年度から高校で実施されることになった新カリキュラムでは、「外国語」の中に「英語会話」(標準2単位)という科目が新設されました。この科目は、中学程度の初級段階を修了した学習者で、英語による日常的会話に特に関心のある者を対象として作られた科目です。今年スタートしたばかりなので、どれくらいの高校生がどのようにこの科目を履修しているのかは不明です。