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(178)年末所感

Author: 松山 薫

(178)年末所感 < 教育はどうなる >

 今年は私にとって随分長い一年だった。夏の酷暑で夫婦ともども体調不良となり、病院通いが続いた上、ねじれ解消で国会がまともに機能せず、巨大与党のやりたい放題となって、精神衛生上も極めて悪い年だったからだ。あまり振り返りたくないが、歴史に学ぶことを信条としている以上、そうもいかない。

 体調が悪くなって天井を見て寝ていると、どうしても若い元気な頃のことを思い出す。30台から40台にかけて随分選挙の応援演説に駆け回った。選挙演説はどうしても絶叫お願い調になりがちなのだが、あまり効果はなさそうなので、別の方法を考えてみた。まず「皆さん!今皆さんが一番関心のある問題はなんですか? 私は占い師じゃないから、恋愛など個人的な問題はだめですよ。政治、経済、社会といった分野でどうでしょうか。ハイ、そこの方。」といった具合で、問題を挙げてもらい、持っていった模造紙の四隅にひとつずつ問題を四つ大書する。模造紙の真ん中には大きな丸を書き入れ、4隅の問題と直線で結ぶ。「さて皆さん、この真ん中にある丸の中に、私が4隅の問題に通底する核心の言葉を書き入れます。その前に、貴方だったらどんな言葉になりますか?どうぞ。」大抵誰も発言しないから、私が記入して、見回すと聴衆の目は間違いなくこちらを注視している。そんな大見得を切って大丈夫かと心配してくれた友人がいたが、勿論これにはタネも仕掛けもある。ただ、それはそれとして、社会的に広がりのある問題が必ず直接、間接あるいは間々接につながっていることは間違いない。

 前置きが長くなったが、この一年について、この方法論を適用してみたい。先日の朝日新聞に「読者の皆さんが選んだ2013年の重大ニュース」というのが載っていたので、これを拝借する。全部で20項目なので、1位「楽天田中投手開幕24連勝」5位「アルジエリアで人質テロ」15位「参院選自公圧勝」20位「カネボウの美白化粧品でマダラ」の4項目を選ぶ。さて、真ん中の丸に入れる言葉は?

 私が選ぶその言葉は「不満」だ。英語ではfrustration。心理的要求が外部の条件によって妨げられる状態つまり欲求不満。聴衆の反応は多分、「ウーン、なるほどなあ。フーンそうかなあ。よくわからん。」に3分される。「通底」つまり、「底」の部分が重要だから、表面的な現象だけを見ていては理解できないだろう。聴衆の顔を眺めていると、今日集まった人達の社会意識のレベルがわかる。そこで、レベルに合わせ、4つの問題のどれかと候補者の主張を結び付けて、演説の本題に入るのである。

 ところで、この方式を続けている中で、聴衆の関心と私の視点の間にはいつもかなりづれがあることがわかった。前にも述べたようにニュース選択の基準は ① どれだけ多くの人に、どれだけ大きな影響を及ぼすか ② どれだけ多くの人が、どれだけ強い関心をもつか であるが、私の視点が ① を重視するのに対して、聴衆の関心は ② に傾くことが多かった。前述の「読者が選んだ2013年重大ニュース」でもそれを感じた。全部で20項目もあるのに、私が極めて重大だと考える「安倍内閣の教育改革」が抜けているのである。私の基準なら少なくても3番以内には入る。社会を変えるものは短期的には政治、長期的には教育だと思うからである。

 そこで、安倍政権が国民の無関心をよいことに、この一年に次々と打ち出し、ほとんど国民的議論もないままに決めようとしている「教育改革政策」を列挙し、これらが何とどう「通底」しているのかを考えてみたい。私が真ん中の丸に入れる言葉は、多分、カタカナで7文字になるだろう。

1. 教育委員会制度

中央教育審議会は12月13日、現在は合議制教育委員会にある地方教育行政の最終的権限を地方自治体の長へ移す改正案を文科相に答申した。中教審は当初、首長に権限を移す案に一本化して答申する予定だったが、委員の間に、「首長が今まで以上に学校現場に介入しやすくなる」という意見が強く、現行どおり教委に最終権限を残す案もあったことを併記した。政府与党との協議を経て、通常国会に法案を提出する予定。
* ”口元監視“の大阪府教育基本条例・学校活性化条例が全国に蔓延か

2. 教科書検定制度 

文科省は11月15日、小中学校の教科書の検定基準を来年度の検定前に改定する方針を明らかにした。新しい基準では、〇 教育基本法の目標に照らして重大な欠陥があれば不合格〇 申請図書の作成に当たり、教育基本法の目標をどう具体化したか明示させる 〇 共同採択について構成市町村の協議ルールを具体化。この方針は、自民党の「教科書検定のあり方特別部会の「教科書法」制定の議論を下敷きにしており、その中間報告は「検定基準の
近隣諸国条項」の見直しなどを提言している。また、採択については、沖縄県竹富町の例に見られるように、構成市町村や自治体が学校に押し付ける傾向が強まっている。
* 気がつけば国定教科書

3.大学入試制度

政府の教育再生実行会議は11月31日、次のような大学入試改革に関する提言を安倍首相に提出した。大學の入学試験は「達成度テスト」とし、結果は点数ではなくランクで表示する。大學入試センタ−試験をベースに、思考力なども考慮し、複数回実施も考える。TOEFLなどの活用を推奨。面接・論文・高校時代の活動記録なども合わせて入学者を選抜する。あわせて高校在学中に基礎的な学力を測る試験を実施することも提言。文科省は中教審の審議を経て、5~6年かけて実施することを検討する。文科相は、「企業の入社試験がモデル」と述べた。
* 企業至上主義の平成版 “富国強兵”制度のための尖兵養成

4.全国学力テストの公開

文科相は11月29日、来年4月の全国学力調査(小学校6年生、中学校3年生全員について数学、国語、理科の3教科)の学校別結果を教育委員会の判断で公表できるようにする実施要領を発表した。2007年の第1回からの公表禁止を転換する。実施要領では 〇 平均正答率のみの公表は禁止 〇 分析結果や課題の解決法も併記する 〇 学校別平均正答率の一覧や順位付けは禁止 〇 学校との事前相談が必要 〇 個人情報保護や地域事情に配慮 などを定めている。テスト結果の公表には学校の序列化を招くとして批判が強く、文科省が7月に行なった調査では全教委の70%が公表に反対している。
* 「国連子供の権利条約」の日本の競走教育への警告を無視した国際的非常識

5.道徳教育の教科化

文科省の有識者会議「道徳教育の充実に関する懇談会」は、12月26日、現在は正式な教科ではなく、副読本を用いて年間35コマ程度実施されている小中学校の道徳の時間を、「特別な教科」とし、検定教科書を用い、評価は数値ではなく記述式で行なう、家庭への働きかけを強めるなどを骨子とした最終報告書を文科相に提出した。文科省は2015年度からの一部実施を検討する。 
*“ コントロールしてると嘘をつくシンゾウ“ (朝日川柳) 修身教科書に、”嘘つきは泥棒の始まり“とあった。国民の口と耳をふさぎ、次に奪うのは心か命か

6.英語教育 

5年後から段階的に実施するという文科省の「英語教育改革実施計画」によると、現在小学校5年生から週1コマ教えられている「外国語活動」を3年生からに早め、5年生からは正式教科として週3回程度の増やす。中学校からの英語の授業は原則英語で行ない、目標は「英検準2級程度。高校卒業時の達成目標を「英検準1級」程度に引き上げる。文科相は「文法や読解中心の受験英語からグローバル社会で活躍できる人材の育成に変わる必要がある」と述べた。
* 小・中・高・大‐総英会話学校化。出来損ないのspeaking-robot が大量生産されるだけ
        
 では皆さんよいお年をと言いたいところだが、恐るべき事態が進行していると思うので、では皆さん来年も安倍政権の強権的暴走に気をつけましょうと言わざるをえない。 (M)    

(参考) < アーカイブ 教育問題私見シリーズ >
(2013−4−20 教育問題私見 ① はじめに )
(2013−4−27 ② 安倍教育改革への根本疑問 )
(2013−5−2  ③ 安倍教育改革の段取り )
(2013−5−9  ④ 教科書検定 )
(2013−5−17 ⑤ 道徳教育考 1 )
(2013−5−25 ⑥ 道徳教育考 2 )
(2013−6−1  ⑦ 子供の学びの力 1 石切り山の人々 )
(2013−6−8  ⑧ 子供の学びの力 2 )
(2013−6−15 ⑨ 不幸な予感
(2013−6−22 ⑩ 教育は誰のために )
(2013−6−29 ⑪ 教師像あれこれ)
  
                  以上