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では英語以外に、世界の数千の言語の中からどの外国語を選んだらよいでしょうか。やはり世界で広く通用する言語がよいでしょうか。母語と英語は自分の意志では選べませんが、次の言語は自分で選べるようにしたいものです。先週末(1月18日、19日)に行われた大学入試センター試験の問題を見ていて、英語第2問のCに目がとまりました。その問題文は、アメリカのある高校での、外国語教育についての教師たちの議論でした。その高校では現在フランス語とスペイン語が教えられていますが、今後もそれでよいのかどうかという議論です。そこには次の4種類の意見が出されています。

(1)英語はもはや世界語(global language)になっているのだから、英語母語話者が外国語を学ぶ必要はなくなっている。

(2)外国語学習によって他の地域の人々の習慣や価値観を知ることができ、その知識はビジネスに役立つ。現在は中国経済の成長が著しく、中国語の母語話者は他のどの言語よりも多いので、中国語を外国語科目に加えるべきだ。

(3)これまで通りフランス語とスペイン語がよい。これらは英語と同じ語系の言語なので、学ぶのが比較的に容易だ。中国語は漢字の学習が難しく、その学習に何年もかかる。

(4)外国語を学ぶことによって自分の母語やその文化を意識するようになる。そうでないと私たちは言葉の使用を深く考えることがない。外国語を学ぶことを通して、多面的に物事を見ることができるようになる。

読者の皆さんはどの意見に賛成なさいますか。(1)の意見はおそらく多くの英語母語話者が持っているもので、私たち非英語母語話者からすると尊大な考え方です。英語だけが言語ではない!と直ちに反撃したくなります。これはいわゆる「英語帝国主義」(English imperialism)に通じる考え方です。これに対して(2)は、ビジネスなど現代社会のさまざまな仕事を有利に遂行するために外国語の知識が不可欠だという実用主義の考えです。そしてこれが現代の多くの人々の英語学習の目的になっています。実用を優先して考えることになりますから、アメリカ人にとっては中国語がいちばん有用だということになります。日本人にとっても英語の次は中国語ということになるでしょう。

これに対して実用だけで外国語科目を選択することの危険性が(3)で指摘されます。いわゆる「言語距離」(language distance)の問題です。英語、フランス語、スペイン語などは同じ「印欧語族」(Indo-European family)に属する言語なのでアメリカ人には学びやすい、しかし中国語は違う、というわけです。特に文字の学習が難しい。中国語を読めるようになるためには漢字を覚える必要があるからです。少なくとも3,000から4,000の漢字を覚えなくてはならない。これは非漢字圏の学習者にとっては非常に難しいことです。日本語は中国語とは違う系統の言語ですが、同じ漢字圏に属しているので、中国語の漢字学習は比較的に容易です。ですから日本人にとっては、英語よりも中国語のほうがずっと学びやすいと言われています。このようにアメリカ人にとって中国語や日本語が学びにくい言語であるように、私たち日本人にとっては英語が最高に難しい言語の一つであることは間違いありません。

では学習の難しい言語は避けるべきでしょうか。そんなことはありません。ただ難しい言語(言語距離が大きい言語)に挑戦するときには、それ相当の情熱と根気が必要であることを覚悟しなければなりません。これまで多くの日本人が何年も英語を教えられたにもかかわらず修得に至らなかったことは、それに必要なだけの情熱と根気に欠けていたことを裏づけています。では中途半端な言語学習はまったく意味がないのでしょうか。言語がコミュニケーションの道具に過ぎないと考えている人たちにとっては、それは無意味な学習だと言うでしょう。しかしほんとうに無意味でしょうか。次の意見がその回答を示唆しています(このセンター試験問題の議論はなかなか良くできています)。

(4)の意見は外国語学習の目的として非常に説得力のある意見です。それはこの議論に加わっていた教師たち全員の賛同を得ているように思われます。つまり、外国語を学ぶことによって、物事を違った面からいろいろと考えることができるようになるというのです。筆者もこの考え方に賛同します。他の言語を学ぶことは、すなわち物事の新しい見方を学ぶことなのです。見方を変えれば、物事の違った側面が見えてくるのです。自分の母語とは異なる言語に取り組むことによって、自分が無自覚的に使っている自国の言語や文化の異なる面に気づき、よりよい言語の使用が可能になります。「他の言語を知らない人は自分の言語を知らない」というのはこのことです。(To be continued.)