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英語学習初級レベル(中学生レベル)では、基本語と呼ばれる2000語くらいの語彙を一つひとつ丁寧に覚えていくことが大切です。前回に述べたように、動詞のtakeは「とる」や「連れて(持って)いく」と覚えても、それで覚えたことにはなりません。それはtakeの学習の始まりに過ぎません。英々辞典OALDを見ると、この語はなんと42項目に分けて説明されています。それはtakeの意味が42通りあるというのではなく、この語の使用されるコンテクスト(主語や目的語にどんな語が来るかなど)によって、それがどのような意味になるかを示したものです。他の多くの学習辞書もだいたいそれくらいの数に分類して説明しています。この桐英会ブログの投稿者の一人である浅野博さんらの編集したAdvanced Favoriteの英和辞典では、takeを32(他動詞29、自動詞3)の項目に分けて解説しています。

さらに辞書をよく見ると、takeの項目はそれだけでは終わりません。どの辞書もtakeを中心として作られる成句(熟語・慣用句)を取り上げて説明をしています。Advanced Favoriteが動詞takeで取り上げているものを列挙すると次のようです。(意味と用法は辞書を引いて確かめてください。)

be taken ill [sick] / have what it takes / I take it (that)… / take after a person / take against… / take a lot out of a person / take apart / take away / take away from… / take back / take down / take…for~ / take in / take it from me / take it or leave it / take it out of a person / take it out on a person / take it upon oneself to do… / take off / take on / take oneself off / take out / take a person out of oneself / take…out on a person / take over / take that! / take to… / take up / take a person up on… / take…upon [on] oneself / take up with a person / What do you take me for?

わあ!こんなにあったら覚えきれないと思われるかもしれません。単語は一つひとつ覚えるものだと思っている人は、きっと絶望的な気持ちになるでしょう。しかしちょっと待ってください。こういう成句は覚えるものではないのです。英語の専門家でも、これだけの成句を丸暗記している人はいないと思います。文章の中で使われていればその意味を推測することはできるでしょうが、上のリストを見ただけではお手上げです。これらの語句はコンテクストが与えられて初めて意味をなすものなのです。

そういうわけで、学習者はtakeを「とる、連れていく、持っていく」と覚えて安心してはいけません。次々に新しい用法のtakeに出逢います。そのときには労をいとわずに辞書を引いて確かめてください。そういう学習は面倒くさいと初めは思うかもしれませんが、やっているうちに何とも言えない楽しみを感じるようになります。それは「新しい自己を発見する楽しみ」とも言えます。卓球やテニスをやったことのある人は誰でも経験しますが、初めのうちは球が自分の意図する方向に飛んでいきません。幾度も失敗を重ね、その都度反省し、素振りで自分のフォームをチェックし、球を打つ強さや方向をコントロールすることを学びます。やがて自分の意図する球の打ち方ができるようになり、練習試合をして自分の進歩が確認できると、実に愉快な気分になります。単語の習熟もそれに似ています。時間はかかりますが、その途上で味わうことのできるこの自己充足の楽しみを、途中で投げ出すのは賢いことではありません。

ところで語彙を増やす方法として、以前から2つの方法があると考えられてきました。一つは単語帳や単語カードを使って、語形と意味を結びつける暗記学習です。これはあらゆるテストの対策に欠かすことのできない学習法であり、それなりに効果はあります。しかしこの方法はすでに見たように限界があります。まず意味の複雑な語にはこの方法は使えません。また、この方法は忘却の法則を免れません。せっかく覚えたものの多くが短期間に失われます。そうならないようにするには、常に多くの英語に触れるようにすることが必要です。

一方、多義的な意味を持つ語に関しては、学習者自身による長期にわたる語彙研究と言語使用経験(特に多量の英文を読む経験)を必要とします。英文を読んでいる間にたまたま出逢った単語を無意識的に記憶するという効果を重視する研究者もいますが(注)、筆者の経験では、そのようにして覚える数は実際にはさほど多くはないように思います。むしろ、英文を読んでいて、それまで漠然としていた単語の意味が明確にイメージされるケースが多く、そういう経験を積むことが語彙を増やすために大きな効果があると考えています。(To be continued.)

(注)「意図的学習」(intentional learning)と「偶発的学習」(incidental learning)に関する専門家の議論をまとめると次のようです。前者を重視する人たちは、語彙の大部分は意図的に覚えようとして獲得されるものであって、コミュニケーション活動(読書を含む)を行っている最中に意図せずに(つまり無意識のうちに)記憶されるとは考えていません。ある実験によると、読書によって偶発的に覚える語は予想以上に少なく、たとえ覚えたとしても、それは理解のための語彙(受容語彙passive vocabulary)であって、自分で使える語彙(使用語彙active vocabulary)とはならないことが示されています。語彙習得における偶発的学習を重視する人もいますが、それに意識がどう関係しているかが明らかではなく、最近は記憶にかかわる意識の働きが重視されるようになり、この立場の研究者の旗色は良くないようです。読書をする場合に記憶される単語というのは、動詞takeの学習プロセスに見たように、すでに出逢ったことのある単語の知識が明確化または拡張化される場合に起こるように思われます。