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学校の生徒には「英文法は嫌い」と言う人が多いようです。もちろん好きな人もいるのでしょうが、いろいろな調査は、文法は嫌いだと言う生徒が圧倒的に多いことを示しています。「なぜ嫌いなのですか?」と訊くと、その答えは「文法は難しいから」や「英語が嫌いだから」などいろいろですが、その根底にあるのは、文法学習の必要性が理解できていないからではないかと思います。そもそも文法とは何かが分かっていないのです。生徒が文法を分からないと言うのは、一部分は学校に責任があるかもしれません。

文法とは、簡単に言うと、有意味な文を作るときにどんな語句をどんな順序に並べるかに関する規則のことです。規則は山ほどあります。その規則にも単純なものから複雑なものまでいろいろあります。しかし単純な規則でも言葉を使って論理的に説明しようとするとややこしくなります。たとえばここにa, the, boy, girl, loveという5つの語があり、これらを1回だけ使って有意味な文を作るとします。さて何通りの英文ができるでしょうか(注)。この課題は英語を少しでも知っている人には簡単なことですが、なぜそうなるのか、なぜこれら以外の配列が許されないのかをきちんと説明するのは容易ではありません。たとえば学校の先生は次のように説明します。

「aとtheは冠詞といい、名詞の前に置く語です。ですからa boy, a girl およびthe boy, the girlという配列が可能です。もうひとつのlove(愛する)は他動詞で、その前に主語(愛する主体)が置かれ、その後に目的語(愛する対象)が置かれます。loveに-sが付くのは、『三単現』の規則により、主語が三人称単数でloveが現在形だからです。」

この説明は英語を知っている人にはよく理解できるでしょうが、中学1年生や2年生ではチンプンカンプンかもしれません。学校の先生がたは往々にしてこのような説明をして、まだ文法学習の準備ができていない生徒たちを途方にくれさせます。たぶん初心者にとっていちばん躓づくのは、説明に出てくる文法用語(冠詞、名詞、他動詞、主語、目的語、三単現など)でしょう。文法用語を使わなくても説明は可能でしょうが、もっと長くなって一層ややこしくなるかもしれません。

しかし文法を知るとは、必ずしもこのような文法用語を駆使した説明ができる(または説明を理解できる)ようになることではありません。このような説明ができるようになる前に、文の組立て方の文法を知ることは可能です。私たちが母語である日本語を子どものときに学びましたが、誰も文法などというものは正式には教わらなかったと思います(間違った言い方をして親などに直されたことはあったでしょう)。それでも私たちはみな日本語の文法をいつの間にか身につけました。成長して学校に行って国語の授業で文法を教わりましたが、文法用語は知らなかったとしても、その文法の基本的知識は子どもの頃にいつの間にか身につけたものでした。母語の習得では、子どもはみな知らぬ間に文法を身につけるのです。ですから「文法を知る」とは、文の構造を説明したりそれを理解したりすることができることではなくて、実際に文を作ることができることなのです。つまり、文法を知るとは文の組立て方のノウハウを知ることなのです。

ただし、英語は私たちにとって外国語ですから、母語の習得のようにはいきません。英文を作るときには、母語の習得で身につけた文法のノウハウが邪魔をします。「彼女はその男の子を愛している」を英語にするとき、日本語の語順のまま ‘She the boy love.’ では英語になりません。愛する主体(主語)はlove(動詞)のすぐ前に置かれることを知らなければなりません。そして愛する対象(目的語)はloveの直後に置かれることも知らなければなりません。「三単現」という用語は知らなくても、どういう場合にloveに-sが付くかは、およその見当がつくようになる必要があります。そのようなノウハウは、動詞のloveを用いた文例に幾度か出逢えば、自然に頭に入るのではないでしょうか。それはまだ正確な文法知識とは言えませんが、そのような文の組立て方に気づいたあとで先生の文法説明を聞いたなら、誰もがなるほどと理解できるはずなのです。

大切なのは、子どもが母語の習得で見事に発揮するような、英語の文の仕組みについての気づき(つまり文法感覚)を発達させることです。それができるようになってはじめて、文法規則についての先生や文法書の説明が理解できるようになります。理解できるようになると、それは楽しい学びに変わります。嫌いだったものも好きになります。次回にはそのような視点で、語彙の文法から始めようと考えています。(To be continued.)

(脚注)答えは次の4通りです。(1) A boy loves the girl. (2) A girl loves the boy. (3) The boy loves a girl. (4) The girl loves a boy.(これらの文は文法的に正しい文ですが、それぞれの文がどのような状況で使われるかは、考えると難しい問題です。そのような文の使い方については、文のレベルを超えた「談話文法」で扱います。)