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(番外) < 集団的自衛権集中審議を聞いて > ① かみ合わない論戦

 国のあり方を変えるような安全保障政策の大転換となる集団的自衛権容認の閣議決定につて、7月14・15日の両日、衆参両院の予算委員会で集中審議が行われた。安全保障問題は私の関心分野でもあるので、プールでの運動療法を休んで、二日間合計14時間の審議のラジオ中継を全部聞いてみた。

 なぜ今、民主主義の手続き上問題のある形で、急いでこのような重大決定をしなければならないのか、納得できないし、具体的に何を目的に何をしようとしているのかさっぱりわからなかったからである。

 この集中審議の直前に行われたNHKの世論調査では、「安倍内閣が、憲法上許されないというこれまでの政府の憲法解釈を変えて、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定をしたことを評価するかどうか」という質問に対して、大いに評価、ある程度評価が38%、あまり評価しない、全く評価しないが56%となっていた。ところが、「この問題について十分な説明があったと思うか」という質問には、「十分説明があった」が9%であるのにたいして、No.が59%、どちらともいえないが26%となっている。評価すると答えた人に問いたい。十分な説明がないのに、どうして評価ができるのか。

 安全保障問題は一般の国民にとっては取っ付きにくく、したがって関心が高いとは言えない分野で、この調査でも、6つの政策課題への関心度では、外交・安全保障は11%で下から2番目になっている。だからこそ、十分な説明が必要なのであり、それなくして重要決定をするのであれば、江戸時代の「知らしむべからず、よらしむべし」となんら変わらない非民主主義的な政治だと言われても仕方ないだろう。何回も繰り返してきたが、民主主義とは手続きなのである。

 集中審議の中で、日本維新の会の片山虎之助委員が、これは憲法問題である。憲法改正の国民投票法ができたのだから国民投票にかけるべき問題だと主張したが、私も同感である。しかし、国民投票となればいやでも関心が高まり、上記の世論調査の結果通り否決される公算が強い。安倍首相自身が認めているように、審議前日に開票が行われた滋賀県知事選挙で当初優勢が伝えられた与党候補が敗れたのも、この問題が影響したとみられるのである。

 審議の中で明らかになったのは、今急いで決定しなければならないのは、年末に予想されている「日米防衛協力の指針」いわゆる”ガイドライン“の改訂に間に合わせるためだということである。

 ”ガイドライン“というのは、冷戦さなかの1978年に作成され、冷戦後の1097年に周辺事態法の成立に基づき”新ガイドライン“に改定された。”新ガイドライン”は日本周辺で起きる有事(武力衝突など)に際しての米軍と自衛隊の役割分担を定めたもので自衛隊の役割は、日本本土への攻撃の場合を除き、後方支援に限定されているが。ところが今年末をめどに改定が予定されている改定に当たっては、自衛隊が米軍と共同で武力対応をすることが前提になっており、そのために集団的自衛権の行使の容認が必要なわけである。

 このことを政府側がはっきり言わないから、議論がかみ合わないのである。安倍首相が、”ガイドライン改定に間に合わせるためだ“と明言したのは、二日目の参議院予算委員会審議が終わりにチ被いた時だった。

 ガイドラインというのは法律ではない。これに合わせるために、法律を改正し、憲法解釈までも変えるというのは本末転倒ではないのか。全ての問題は、ここから始まるのではないかと私は思う。再度強調するが、民主主義とは手続きなのである。

 政府は秋の臨時国会では、補正予算案を中心に経済問題を優先審議すると言う。その間に「集団的自衛権の行使」に必要な「自衛隊法」の改正など、関連法案の作成を急ぎ、これを”ガイドライン“の改訂に反映させた後、来年初めの通常国会に一括提案する方針である。そこで十分な討議が可能であるから、政府が憲法65条「行政権は内閣に属する」に基づいて閣議決定することは憲法違反ではないというのが、集中審議で繰り返された政府の理屈である。通常国会の審議は来年度予算案の審議が先議だから、「集団的自衛権の行使容認」についての実質審議は4月以降になる。4月の統一地方選挙でこの問題が焦点にならないようにさらに引きのばされるだろう。民主主義に基づくならは、順序、手続きが全く逆ではないかと私は思う。

 議論がかみあわないのは、一強多弱の国会構成の故でもある。予算委員会での質問時間は各党の勢力によって決まるから、自民・公明の与党議員の質問が何時間にも及ぶのに、野党側の割り当て時間は極端に短い。与党議員の質問は、政府に対するおべんちゃら発言が多く、中には議案とは直接関係のない「慰安婦問題の河野書簡問題」に持ち時間の全部を費やしたり、11月の沖縄選挙二ついての自党の前宣伝のような聞くに堪えないものもあった。また、野党側は協力、分担して政府に迫ることもなく、全くの細切れ質問だったから、14時間の審議はまったく政府、とくに安倍首相の独壇場であった。

(次回 具体的な問題点 に続く)(M)

* この問題を考える上で知っておいた方が理解しやすいと思われる知識は次の通り。

① 国連憲章における個別的自衛権、集団的自    衛権、集団安全保障の定義
② 日米安保条約と地位協定
③ 周辺事態法、防衛計画の大綱、中期防衛力    整備計画、日米防衛協力のための指針(ガ    イドライン)
④ 日本国憲法前文と第9条および関連条項     (人権条項など)
⑤ 個別的自衛権、集団的自衛権についての歴    代内閣、法制局の見解(特に1972年の政    府見解)
⑥ 安倍内閣の閣議決定の内容(特に”武力行    使の3要件“)(集団的自衛権行使の8事      例)
⑦ (PKO関連法と自衛隊法およびそれらによる    活動実績)

* ただし、私は、国民一般が安全保障問題について判断する時、これらの知識を必ず身につけていなければならないとは考えていない。国民の生命、財産と国土を守るには、何がベストあるいはべターであり、何がワーストなのかを常識的に判断すればよいと考えている。政府、政党それにいわゆる専門家も些末主義に陥ることなく、国民が常識で判断できる説明をしなければならないだろう。