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(207) < 人権大国への道 終章 >    

3.人口減少は人権大国へのチャンス

 前回のブログで「原発廃止は人権大国への入り口」であると述べたが、所与の条件からして、この入口はそんなに狭くないと私は考える。ここで言う所与の条件とは ① 人口の減少 と ② 産業構造の変化 である。
 
 日本の人口(現在:1億2千7百万人)は、50年後には3分の2程度まで急速に減っていくと推計されている。当然、家庭用や社会的な電力の需要は大幅に減るだろう。また、原材料を輸入し加工して輸出するという貿易立国は、空洞化などによって、すでに過去のものとなりつつある<製造業が日本を滅ぼす 野口悠紀雄>から、電力を大量に消費する産業構造も変わっていくだろう。そうなれば、壊滅的なリスクをともなう50基もの原発を存在させる必要はまったくないから、常識的に考えれば、自然淘汰がすすむ。

 このようなトレンドに歯止めをかけるべく、安倍政権は「50年後に人口1億を維持する総合計画」を立てるという。この狭い国土に、なぜ1億人を超える人口が必要なのか。言うまでもなく、〝経済成長至上主義”にとりつかれているからである。

 日本の国土面積は世界61位、人口は世界10位、人口密度は21位で、しかも、いわゆる平場の土地は国土の2割程度しかない。明らかにovercrowdedな状態なのである。所与の条件<2014−1−25>で詳述したように、このようになったのは、国力つまり軍事力増強のために兵力を増やそうとした明治以来の富国強兵政策と、経済成長つまりGDP拡大のために産業戦士を必要とした戦後の経済政策いわば第二の富国強兵策の故であった。

 経済成長の行き詰まりとともに、人口が減少に転じているのは工業先進諸国に共通の現象で、日本だけの問題ではない。OECDの加盟国と旧東欧諸国で、一人の女性が一生に産む子供の数が、持続的に二人を超える国はない。だからどの先進国でも人口の減少に直面しているのであるが、人口の減少自体を問題にしている国はあまりないという。社会がきちんと運営さえできれば、子供の出生数は個人の問題と考えているからである。<人口減少社会の設計 藤正巌 他> 無理に出生率を引き上げようとすれば、先頃、晩婚、晩産問題を取り上げた女性都議にたいして「あなたが生まないのが悪い」と言わんばかりの野次を飛ばした都議会のような雰囲気が蔓延し、社会構造の問題を個人の責任にすりかえるという人権無視がまかり通ることとなる。お国のために8人の子供を産み、お上からは軍国の母とたたえられながら、それがもとで早逝した自分の母を思う時、このような人権侵害を断じて許してはならないと思う。

 ところで、人が減るとどういうことが起きるのか。安倍政権の人口政策にも影響を与えたという「人口問題研究会」(増田寛也・元岩手県知事・元総務相ら)の報告によると、都市圏への人口集中によって、日本は今、全国が”限界自治体化“する危機を迎えており、全国自治体の半数にあたる約900の市町村が遠からず壊死するとしている。 今年1月の人口調査では、東京、名古屋、関西の3大都市圏に住む人は、過去最高の51%に達し、特に東京への一極集中が加速している。この研究会は、このような事態の解決策として、① 人口の維持・反転 ② 人口の再配置 ③ 人材の養成・獲得 を挙げているが具体策は示していない。

 では、都市への集中がどうして起きるのか。農漁村の衰退によって、地方では仕事が見つからないからである。そこで若い人たちが都会へ流出するのだが、都会へ行けば仕事が見つけられ、結婚して満足な生活が送れるのか。内閣府の調査では、未婚男性の55%、未婚女性の37%が、未婚や晩婚の理由は経済的に余裕がないからだとしている。

 経済的に余裕がない原因は何なのか。先日ポストに入っていた不動産の広告を見る。東海道線の辻堂駅からバス10分、下車して徒歩7分のところにある戸建て住宅の広告では、36坪の土地に30坪足らずの箱のような四角い家が建っており、カーポートがあるだけで庭はない。この住宅の値段が4000万円であるから、35年元利均等返済すると月12万円くらい払わなければならない。この家を30歳で買うとすると、平均の手取り月収は25万円程度だから、毎月半分近くをローンの返済に充てなければならない。その結果どういうことになるのか。
① 結婚して妻子を養うことは不可能である。よって共働きの相手をさがすことになる。
② 運よく相手が見つかっても、女性の賃金は男性の約6割であるから、二人の賃金を合わせても二人以上の子供を育てることは容易ではない。
③ 辻堂から東京までは湘南電車で約1時間かかる。私自身辻堂から渋谷まで通ったが、通勤電車は文字どおり地獄の混みようだから、ただ立ってゆられているだけで本を読むこともできなかった。会社までドアto ドアだと2時間近くかかるから、年間約1か月分は無駄に過ごすことになり、35年のローンを完済するまでには、丸々3年間はただ息をしているだけの時間になる計算だ。
④ 客観的にみれば、格子なき牢獄に入っているようなものだが、ローンに縛られて、何が何でも職場にしがみついていなければならないことになる。労働者をfrontierにしたい側にとっては、こんな好都合なことはないだろう。だから、ブラック企業がなくならない。

 しかも、ローンを払い終えるころには安普請の家はガタがきて、退職金をはたいてリフォームしなければならなくなっている。あとは、やっと食えるかどうかの年金で細々と暮らすことになる。そこで襲ってくるのが老後不安である。今月発表された内閣府の国民生活世論調査では、6割近くの人が老後の生活設計に不安を感じている。認知症やうつ病になる高齢者が増えても不思議はない。

 それでも、ローンを組んで住宅を買える人は、よい方だ。私がスーパーへ買い物に行く途中にあった木造のアパートが先頃取り壊された。跡地に建てられたのは、カーポートがあるだけで庭の全くない四角い箱のような家だった。アパートが建っていた時には、この敷地に8世帯が暮らしていたのである。

 かく言う私は、日夜米軍機の騒音に悩まされながら、すでに35年にわたり、現在の集合住宅に住んで死期を迎えようとしている。たまに、土曜日の夕方6時のNHKTVニュースを見ることがあるが、少し早めにonにすると、直前のアニメ漫画「団地ともお」のエンディングシーンで団地の一棟が写っていることがある。この羊羹を横に立てたようなコンクリートの箱に、数十世帯が住み、その多くが一生をここで過ごすのかと思うと、人間が鶏舎のブロイラーのように思えてくる。

 多くの国民が、まさに兎小屋や鶏小屋のような住宅のために、人生の最も大切な時期をローンの奴隷となって過ごすことになるわけだが、このこと自体は、住居というものがそれだけ、人間の生活にとって重要な要素であることを示している。最近、福島地裁は、原発事故で自宅から避難を強制された高齢の女性が、一時帰宅して自殺した事案について、原発事故との因果関係を認め、東電に賠償支払いを命じた。人間にとって住宅、住居の持つ重要性を改めて思い知らされる。

 貧弱な住居の最大の原因は地価である。司馬遼太郎は「諸悪の根源は土地問題である」として次のように述べている。「日本は土地を公有にしなきゃどうしょうもないと思う。農業もなにも解決不能だと思うね。地面そのものに途方もない値段がついていて、地面を転がすことによって金がもうかる。自他ともに加害者・被害者の一人二役を演じていて電子レンジの中にいるみたいです。こんな社会はどこの国にもないことでしょう。」<司馬遼太郎対談集 野坂昭如との対談> 名目的な所得は増えても、幸福感は減少するという、いわゆる「イースタンパラドックス」の原因は、日本の場合、間違いなく土地にある。

 人口の減少は、この「諸悪の根源」を取り除く絶好のチャンスだと私は思う。そのためには松下幸之助が言ったように「土地を金もうけの手段として使うことをやめねばならない。」つまり、土地をfrontierとしてはならないということだ。これが新たなパラダイムへ向かう重要なベクトルの変更となる。国土交通省の試算では、人口減少によって,2050年には国土の60%が無人になるという。人口減少は、土地を公共のものとして取り戻すための絶好のチャンスなのである。

 戦後の農地改革に当たって、農地を取り上げられた地主たちから「私有財産の保護をうたう憲法に違反する」という訴訟が起こされた。これに対して最高裁は、農地は食糧の生産という公共のために存在するのであって、所有者の利益を優先的にかんがえるものではないという改革の意図を踏まえ、改革による農地の買収、売り渡しは、憲法第29条3項にある「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」として、地主の訴えを退けている。

 日本と同じように、国土が狭く、人口が多い韓国では、「経済正義実践市民連合」という運動が広がり、盧泰愚大統領は、「土地は公のものである」と宣言して、「土地公原則」に基づく法律を成立させた。また、住宅政策発祥の地として知られるイギリスでは、サッチャリズムの下で、住宅政策の市場化が進み、イングランドの住宅平均価格は日本円で5000万円に高騰して、日本と同じような状態になり、ブレア政権は、その是正の追われたのである。住宅政策を市場化すれば、多くの国民がaffordable(手ごろな)住宅を取得することは不可能になる実例だと言えるだろう。

 人口減少を人権大国へベクトルを変える重要な手がかりとして、私は居住環境の抜本的改革を提案したい。(M)
 
参考書籍等

* 製造業が日本を滅ぼす: 野口悠紀雄  ダイヤモンド社
* 土地と日本人: 対談集 司馬遼太郎   中公文庫
* 人口減少社会の設計: 藤正巌 松谷明彦   中公新書
* 人口減少社会という希望: 広井良典   朝日新聞出版
* 壊死する地方都市: 中央公論 2013年12月号特集
* 次回の投稿は9月27日(土)に <4.人権大国の基盤を創る ① 居住環境の抜本改革と国土の保全>を予定しています。