Print This Post Print This Post

(216) < 人権大国への道 最終章 >   

6.50年後の人権大国を目指して 

② 公正な社会への道筋

 近代社会の幕開けとなったフランス革命の旗印は「自由・平等・博愛」であった。しかし、自由と平等は両立しえないといわれる。確かに、資本主義経済の自由競争の行きつく先の勝者は、論理的には1人となるから、結果の平等はありえないし、現実にも買収・合併などによる寡占、独占が世界規模で進んでいる。競争原理主義者はさらに、結果の平等を求めることは悪平等であり、求められるのはスタートの平等なのだという。では、今の日本の社会で、スタートの平等は確保されているのか。答えは完全に“No ! “ だ。スタート地点の50メートル先から、或いは50mメートル後ろから走りだしたりする人がいては、公正な競争は成り立たない。だが、それがこの国の現実ではないか。

 前者の典型的な例が、政治の世界における世襲議員の跋扈である。今回の選挙の結果はまだ整理されていないので、2009年発行の「世襲議員」と2011年発行の「世襲だらけの政治家マップ」のデータを借りたい。「世襲議員」によると、「父母または祖父母が同じ県内の選挙区で当選し、国会議員、知事または政令指定都市の市長を務めていた議員」は、2009年には、衆参合わせて720人の議員中133人で18%だったという。また、「世襲だらけの政治家マップ」は範囲を県議などにも広げて都道府県別に衆参両院議員の地盤継承状況を挙げているが、読むのもうんざりするような数である。親族に政治関係者がいて地盤を共有しているという世襲議員の定義によると自民党議員の4割が世襲議員であるという。

 さらに問題なのは、世襲議員でなければ総理大臣になることはほぼ不可能であるという事実だ。第80代の羽田孜から96代の安倍晋三まで11人の総理大臣のうち8人が世襲議員で、自民党出身の総理大臣は全員が世襲議員である。若いうちに父親等の親族が死ぬなどして、跡目を継いで当選回数を重ねなければ総理大臣にはなれないし、若くして当選するには世襲が絶対的に有利だからだ。安倍晋三が世襲議員でなければ、52歳という戦後最年少で総理大臣になることはありえなかった。閣僚についても同様で次安倍内閣では、17人の閣僚のうち、世襲議員が麻生副総理をはじめ9人と半数を超えており、総理大臣以下内閣の構成員18人中10人が世襲議員である。異常というほかはないと私は思う。

 この現象は小選挙区制が続く限りなくならないだろう。選挙区が狭ければ、”地盤、カバン、看板 ”が最も有効に機能するからだ。一度でも選挙運動に参画してみればよくわかる。私は、参議院全国区、衆議院東京1区、東京都議選、江東区議選、それに茅ヶ崎市長選挙に運動員あるいは選挙参謀として参加して、岩盤のような“3バン”の固さをいやというほど味わった。

 政治家の近親者は政治家になるなと言っているわけではない。政治家になりたければ、税金もかけられずに引き継ぐ親の資金管理団体のカネにたよらず、父祖伝来の地盤からではなく、別の選挙区から立候補しなければ不公正だと言っているのである。それでも、看板つまり親の七光りの分だけは有利になるのだ。さすがに、自民党や民主党も世襲議員の不公正さには正面から反論する余地がなく、一応は「立候補制限」などを考えたようだが、いつの間にかうやむやになった。これについて聞かれた自らも世襲議員である自民党派閥の領袖が、「世襲制限なんて」とせせら笑う姿がTVに映し出された。世襲議員の本音だろう。安倍首相の親族は「よく、政治家の世襲について批判的におっしゃる方もありますが、子供が本当に国政の場で働くつもいでいますなら、全く関係のない方よりも、親を見て育っているのですから、ふさわしいと私は思います。”後継者“というのではなく、国会議員としてふさわしいかどうかは、有権者の方に決めていただくのですから、世襲というだけで単純に批判は出来ないのではないかと思います。」(安倍晋三:その人脈と金脈)」と述べているが、このような理屈が通るなら、国会議員を家業とする家族が増えるほど日本の政治がよくなるということになる。

 世襲議員の弊害について、ジャーナリストである「世襲議員」の著者は、「公の国会議員の職を家業と考えている世襲議員」が政界にのさばり、「優秀な人材を政界に集めていないことが日本の社会の行き詰まりをもたらし、社会の停滞感につながっている」と指摘し、元エリート官僚である「世襲だらけの政治家マップ」の著者は「日本ほど2世政治家がおり、しかもその政治家達が枢要な地位を占めている国はない。いわゆる地盤が私有財産のような存在になり、個人の後援会組織が利権獲得のマシーンと化して、世襲による円滑な相続を要求する」と述べ、その結果「バカ殿政治がまかり通る」と批判している。世襲議員がバカ殿であるかどうかは一概には言えないと思うが、一般論として〝おんば日傘”で育った人間は、世間知らずで、自己中心的、常に上から目線で物事を見るということは言えるだろうし、有権者はこれまでしばしばその実例に接しているが、最近では、女性初の総理大臣候補だったという小渕優子・元経済産業相の例はその典型だろう。共同通信社の世論調査(2009)によると「国会議員の世襲には問題がある」が61.2%で「問題はない」32.6%の倍近くに達している。
 
 これらの著者は、政治家としての世襲議員の資質だけでなく、世襲議員が跋扈することによる  社会的弊害にも目を向けているが、私もそれが最大の問題だと思う。不公正に選ばれた国会議員達とそれを支える地方政界、これに取り入ろうとする財界や利益団体さらにはこれを擁護するいわゆる有識者らによって構成される既得権益集団が社会に覆いかぶさり、事実上この国を動かしているのである。だから、私は、まず、選挙によって世襲議員の跋扈という不公正・不明朗な現状を打破していかなければ、公正を規範とする本当の民主主義社会は生まれないと思う。

 次に後者の例は、貧困の世襲である。UNICEFによると、日本の子供の貧困率は16.3%で、先進20か国の悪い方から4番目、OECD35か国ではワースト8に入っており、しかも年々悪化している。貧困とは、世帯の所得が、社会全体の真ん中の所得の半分以下であることを言うのだが、厚労省の2012年の調査によると、この中央値は244万円であるから、貧困値は122万円つまり月額10万円ということになる。こういう世帯で暮らす子供が16.3%、つまり6人に1人いるわけで、出願だけで10万円以上かかる大学へ進学できるはずはない。今や日本の大学は就職予備門と化しているから、大学を出なければまともな就職口はない。こうして貧困が世襲されていく。
 
 私もカネがないから高等師範しか入るところがなかった。在学中、新制大学が発足し、編入できることになったが、国からの給費と授業料相当額を返済することが条件であった。この制度を利用して何人かの同期生が新制大学に編入し、中学の同期生で高等師範の社会科に在籍していた友人は東大へ転校して弁護士になった。校門の近くで転校手続きに来た彼とばったり会い、私が「よかったね」と声をかけると、彼はなんだか照れくさそうに、「じゃー」と一言だけ言って去って行った。私は特に弁護士になりたいと考えていたわけではないが、弁護士の方が教師より自由に生きられそうだと思っていたので、彼の後姿を見送りながら、何となくうらやましかった。これは私の恨み節であるが、カネが無くて進学できない若者の気持ちは痛いほどにわかる。 あれから60年たった今も、状況は変わっていないどころか、悪化しており、社会へのスタートラインで差別される若者が増え、憲法26条にいう、「能力に応じて、等しく教育を受ける権利」は完全に死文化している。私は重大な人権侵害だと考えている。

 このような状況を変えるには社会のあり方を抜本的に変えるしかないと思うが、人生のスタートラインでの差別を何とか早く緩和するには、当面は公的な支援つまり学費の無償化や返還不要の奨学資金制度を考えなければならないだろう。しかし、この国の政府は教育に口は出すがカネは出さない。OECD諸国の中で、日本は教育機関への公的支出が最下位であり、先日閣議決定された来年度予算の政府案でも、教育関係費は前年比1.3%減少となっている。こういう政府の下で、卒業後の進路に義務を負わせない給費生の大幅な増員や、返還不要の奨学金制度の新設は無理だと思わざるを得ない。それに、勉強する意欲のない学生に税金をつぎ込むことには納税者の反発もあるだろう。 

 そこで私が提案したいのは、大学卒業に当たって国家試験を課し、その成績と奨学金の返済率を連動させることだ。今や大学進学率は51%に達し、カネさえあれば誰でも大学へ入れる状態になった半面、分数の掛け算さえできない大学生を生んでいるという。私は、今の共通一次試験をやめて、各大学の卒業基準とは別に、任意で受けられる大学卒業の国家認定試験を導入すべきだと思う。この試験の成績と、奨学金を連動させ、成績上位者から一定の割合で奨学金返済率を逓減するような制度を作ってはどうかと考えている。

 社会をよりよく変えていくものは、短期的には政治、長期的には教育であると先に書いた。この車の両輪がいずれも正常に機能していないのであれば、よりよい社会は生まれない。だから、ベクトルを変える必要があると私は思う。(M)

< 参考書籍等 >

世襲議員 構造と問題点 : 稲井川茂  講談社
世襲だらけの政治家マップ : 八幡和郎 他  廣済堂新書
安倍晋三 その人脈と金脈 : 別冊宝島2240  宝島社
格差社会 : 橘木俊詔  岩波書店
貧困の連鎖を断ち切るために: 大沢真理 NHK「視点・論点」(2014−9−29)

* 次回は 1月31日(土)に <6−(3)ベクトルを変えるには> を投稿する予定です。