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蟷螂の斧 ⑩ <メディアのいつか来た道>

4.メディアと広告収入

 自民党の若手議員(当選回数の少ない議員)が立ち上げた党内のいわゆる勉強会でメディアを恫喝するような発言をしたことが大きな反響を呼んでいる。発言の内容は次の通り。

○ 大西英男 (衆議院東京16区当選2回 68歳)「マスコミを懲らしめるためには、広告収入がなくなるのが一番。安倍晋三首相も言えないと思うが、不買運動じゃないが、日本を過つ企業に広告料を払うなってとんでもないと経団連などに働きかけてほしい。」
○ 井上貴博 (衆議院福岡1区当選2回 53歳)「福岡の青年会議所理事長の時、マスコミをたたいたことがある。広告のスポンサーにならないということが一番こたえる。」
○ 長尾敬 (衆議院近畿比例区当選2回 52歳)「沖縄のゆがんだ世論を正しい方向へもっていくためには、どのようなアクションを起こすか。左翼勢力に完全に乗っ取られている。」
○ これより先、講師として招聘された作家の百田尚樹は「本当に沖縄の二つの新聞社は絶対につぶさなあかん。」と発言している。

 わざわざここに再録したのは、これらの発言は長く記憶にとどめておく必要があると思うからである。これから先日本が、このような発言を何となく許容するような国になっていくのか、それとも、断固として糾弾する社会になるのかをはかるバロメーターとして役立つのである。

 これらの議員は、国会議員にも言論の自由があると主張している。権力をもつ者の発言が相手を委縮させることがあるにしても、彼らにも「○○新聞はけしからん」とか「あなたの発言はおかしいよ」という権利はあるだろう。ただし、そう思う根拠を挙げなければ、批判された方は反論のしようがない。批判には根拠を示し、それをめぐって論争する。それが言論の自由だ。根拠を示さない一方的な批判は、誹謗、抽象の類だ。

 だが、「広告の出稿に圧力をかける」となると、もはやこれは言論の自由ではなく、恫喝である。暴
力団が暴力を背景に無防備な市民を脅すのと同じレベルの恫喝であり、影響するところを考えれは、更に罪が深い。民主主義の基盤が言論の自由によって保たれていることを思えば、これらの発言は民主主義の敵と言っても過言ではない。東京の外国人特派員が「辞職すべきだ」と言うのも当然だ。自民党はこれらの議員を除名処分にしなければ、言論機関への恫喝や介入を許容する政党だとみなされても仕方ない。民主主義社会の政権政党として当然失格だ。

 私は前回のブログで、「権力が言論の自由に介入する仕組み」のひとつとして、「財界・企業を通じてメディアへの広告の出稿を減らす」という手段を挙げたが、井上議員によれば、それが実際に行われているのである。福岡は麻生副総理兼財務相を当主とする麻生財閥の本拠地で、いち早く再稼働を申請した川内原発を擁する九州電力が地方財界を支配するところである、財界の一部である青年会議所が何のために「広告を規制してマスコミをたたいた」のか言わずとも明らかだろう。

 「広告のスポンサーにならないことが(メディア)には一番こたえる」とこの議員は言っているが、
どの程度真実なのだろうか。

 電通によると、昨年度の日本の広告料は全体で6兆円余り、そのうち、新聞、TV,ラジオ、雑誌などメディア広告は約60%の3兆6千億円だった。内訳は、TV2兆円、新聞6千億円、雑誌2千億円、ラジオ1千2百億円などとなっている。民放TV局の収入は大半をスポンサーに依存しているし、日本新聞協会によると、昨年度の大手紙、ブロック紙、地方紙を含めた、全収入に対する広告収入の割合は四分のⅠちかい。その上、この10年ほどは、インターネット広告の進出によって、新聞広告が全広告量に占める割合は50%近く減少している。メディアの財政にとって広告料はは命綱だ。

 このような事情を見ると、この議員が言っていることは真実に近いと言えるだろう。言論の自由を語る時、必ず出てくる戦争中の信濃毎日新聞主筆桐生悠々は、軍部の戦争政策に反対する論説を書き、在郷軍人達の不買運動に屈したこの新聞社を辞めざるをえなくなった。メディアに対する兵糧攻めという点で不買運動と広告出稿の取りやめは性質が一致する。

 問題の発言があった勉強会(文化芸術懇話会)は安倍首相に近い議員の集まりで、加藤勝信官房副長官も出席している。加藤副長官は安倍内閣の“最高意思決定機関 ”である正副官房長官会議のメンバーで、ほぼ毎日開かれる安倍首相を交えたこの会合で、事実上日本の針路が決まるという(時事通信解説委員 田崎史郎)そのような人物が、”私的な会合(安倍首相)”に何故参加していたのか。当初からこの会の設立にかかわってきたからだ。当然安倍首相の意向を忖度してのことだろう。  

 ところで、在京TV局の広告のおよそ40%が電通の扱いであり、これは世界的にみても例のない寡占状態で、電通の売り上げの半分はTV広告である。このため電通は、スポンサー企業、TV局の双方に大きな影響力を持っている。電通は、“コネ通”とあだ名されるくらいコネ入社が多く、スポンサーである大手企業や広告媒体であるメディアの幹部の子弟が多数入社しているという。こういうもたれ合いの仕組みの中で、恫喝が有効に機能する。冒頭の発言者達は、そのような事情を十分承知したうえで、恫喝しているのだということを知っておかねばならない。  M)

< 参考書籍等 >

* 安倍官邸の正体: 田崎史郎  講談社現代新書
* 平成日本タブー大全: 高橋明良 電通王国のメディア支配  宝島社

* 次回は <メディアのいつか来た道 > 5.いつか来た道へ戻らぬために 7月18日(土)