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統計数字の裏にみえるもの  ① 犬・猫

 調査とか統計の数字は、前提条件に問題があることも多いから、そのまま信ずるわけにはいかないが、社会の動きを知る上で、やはり欠かせないもののひとつではある。今回は、国内の犬・猫をめぐる統計数字をとり上げたい。

1.犬と猫の飼育数: ペットフード業界によると、ペットの飼育数は、去年の段階で犬、猫それぞれ1000万匹前後、合計2000万匹と推計されている。世帯数は5450万、一世帯で2匹以上飼っているところもあるから、およそ3軒に1軒が飼育世帯ということになろうか。
2.犬と猫の販売数:2014年度総販売数 75万匹 (犬 61万7千匹  猫 13万3千匹)
3.犬と猫の殺処分数: 2014年度自治体が引き取った犬・猫の総数 10万匹
            内殺処分 2万1395匹  (犬の40% 猫の73%)

 三つの統計数字に共通するのは、ここ数年の減少傾向である。特に犬の減少が目立ち、今年あたり猫の数が犬を上回るらしい。その原因の一つは、どうやら人間の高齢化のようだ。散歩に連れていかれなくなって飼うのをやめるという。たしかに私の住む団地でも、数年前までは夕方になると、犬に散歩をさせる人達が目立った。しかし、世帯主の平均年齢が70歳ともなると、自分や連れ合いのことだけでせいいっぱいになって、犬までは手が回らないのだろう。

 犬は散歩させないと狼に先祖返りして狂暴になることがあるようで*、私は20代の初めに橇を曳かせるという自分勝手な目的で大型犬を飼い、ほとんど一日中つなぎっぱなしで、たまに解き放つとあっという間にどこかへ消えてしまい、ついには近所の子どもの尻に噛みついて大騒ぎになった(2010-9-25 桐英会ブログ 犬の話)。家内などは大泊(サハリン州コルサコフ)に住んでいた幼い頃に樺太犬に噛みつかれた恐怖心から今でも犬が怖いらしい。樺太犬はいわゆる「特定犬*」ではないが、大型の犬なので、かまれた痕が腕に残っている。
* 犬と狼の祖先は異なるという説もある。* 犬は一日4回散歩させるのが理想だという説がある・・ドイツ動物愛護連盟 * 土佐犬、秋田犬、紀州犬、ジャーマン・シェパード、ドーベルマンなど体高 60センチで体長70センチ以上の犬

 犬の散歩人がゾロソロ歩いていた頃の団地では、糞害が大きな問題であった。たしかに私も何回か、踏んづけたことがあった。夕方の散歩の折などは、玄関まで来て気付くので後始末が大変だ。猫の方は大体家の中で飼っているのだが、ベランダの仕切り板の下をくぐって隣家へ忍び込み、干してある布団の上で昼寝して小便をたれたりする。統計数字からもわかるようにタダでもらうことが多い猫は、犬に比べて捨てやすいらしく、団地の裏にある市立の公園に猫を捨てる人が後を絶たない。そういう猫が住み着いて、さかりがつく頃には、すごい鳴きごえを上げて一晩中暴れまわる。

 減少傾向のもう一つの原因は集合住宅の増加だろう。私が今の団地に移り住んだ35年前には集合住宅は全戸数の2割強程度だったが、今は4割を超えている。集合住宅での犬、猫の飼育にはたしかにいろいろ問題がある。旧住宅公団や住宅公社が建てた集合住宅では、小鳥を除くペットの飼育は原則禁止となっており、我が団地でもこの規約をめぐって住民同士の対立が続いていた。対立がピークに達し、ついに臨時総会が開かれて、住民の間にささくれ立った空気が漂う中で、私は管理組合の副理事長になった。副理事長には決まった担務が無いから、こういう問題を担当することになる。臨時総会では、原則禁止を守れという意見が強かったと聞き、私は別の原則を立てた。「人間の勝手な都合で、犬や猫の命を奪うようなことをしてはならない」という原則である。

 団地の“犬奉行”としての私に新しい「原則」を思いつかせたのは、遠い昔の思い出だった。一つは、前記の「犬の話」に書いた自分の飼い犬の「殺処分」である。別れ際の恐怖に満ちた目の色と遠くから聞こえてきた長く尾を引く鳴き声が私の記憶から消えることはなかった。もう一つは、東京の芝浦屠殺場へ取材に行った時の体験だ。アメリカで黒人差別が顕在化してきたころ、ロサンゼルスタイムズの記者に「君はアメリカが差別社会だと言うが、日本には差別はないと言えるのか」と問い詰められ、日本における差別について調べたことがあった。その一環として行った屠殺場では、屠殺人の親方らしき人物が出てきて「これから牛を殺るが、打ち損じると暴れるから、脚に綱をつける。その一本を持ってみろ。頭から糞尿を浴びるぞ。朝日の記者はやったが、NHKはどうする。やれば取材に応ずる」と言った。私は取材の目的とは関係ないと考えたので断ったが、その時我が〝愛犬”の目の色を思い出していたのは確かだった。

 役員が交代する団地の定期総会を前に、私は理論武装をするために、近隣の団地やペット飼育で先進的な取り組みをしているという多磨団地の管理組合を訪ね、実情を調査した。動物愛護法や県の愛護条例それにペットの飼育について勉強し、最後に平塚市の郊外にある神奈川県動物保護センターへも行ってみた。捨てられた犬、猫は新たな飼い主が見つからない限りここで殺処分される。大きな箱にまとめて入れられガスを注がれる。ペットのアウシュビッツだ。かつてはここだけで年間2万匹の犬が殺されたこともあったという。今でも全国で年間2万匹もの犬や猫が無惨に命を奪われるこの国の現実の裏には、なにがあるのか、或いはないのか。ドイツでは、犬の保有者に税金をかけ、それを財源として殺処分をなくすためのティアハイム(動物の家)があって、そこへ犬を引き取りたいと言ってくる人には、引き渡す際厳しい条件を付けているという。日本でも早くそういう日が来ることを願っている。(M)

* 次回の 統計数字の裏にみえるもの 
   ② 「休暇」 は 12月26日に投稿予定