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< 統計数字の裏にみえるもの ④ 貧困率 >

調査とか統計の数字は、前提条件に問題があるものも多いから、そのまま信ずるわけにはいかないが、
社会の動きを知る上で欠かせないものの一つではある。今回は「貧困率」をとりあげる。 

④ 貧困率

1.貧困率 :日本の相対的貧困率 16.1% 30歳未満の若年世帯 27.8% 1人親世帯 54.6%
2.相対的貧困率の国際比較 :日本の相対的貧困率は、OECD34か国中、メキシコ、トルコ、アメリカに次いで4番目、OECD加盟国平均は10%強
* 相対的貧困率は、手取りの世帯所得を世帯人数で調整し、中央値の半分以下を貧困として計算するもので、先進国における「格差」を示す。 
  これに対して絶対的貧困率は、必要最低限の生活水準、消費水準(世界銀行の基準では1日1.25ドル)に達していない貧困者が全人口に占める割合で、発展途上国の「貧困状況」を示す。

“ はたらけど はたらけど 猶わがくらし 楽にならざり じっと手を見る ”と石川啄木が詠った「一握の砂」が発表されたのは、明治43年(1910)のことだった。啄木は東京朝日新聞の校正係として、低賃金と肺結核、東京の狭い借間、借家住まいでの嫁姑の確執、医療費の借金、借金に絡む妻との不和にあえいでいた。

 それから100年余り、世界3位のGDP大国となったこの国では、今もなお、多くに人達が同じような苦しみを味わっている。

 例えば、働いても、働いても、まともな賃金を得られない非正規労働者の人達である。非正規労働者は2000万人、全雇用者に対する割合は40%を超えている。非正規労働者の月収は、正規雇用者の6割程度、年収は55%と約半分しかない。特に、一家の生計の柱である35歳~44歳の非正規労働者の平均賃金は、月額 20万3千円(46歳)で正規雇用者の37万9千円(45歳~49歳)の53%にとどまる。

 2015年の2人以上の世帯の月平均消費支出は29万円弱だから非正規の人達の生活の苦しさが思いやられる。連合総研の調べでは、非正規労働者の収入が世帯全体の半分以上を占める家庭では、2割以上が生活苦で、食事の回数を減らしているほか、病気になっても医者にかかるのをやめたり、社会保険料や税金が払えなくなったりしている。

 日々の生活の苦しさもさることながら、非正規の人達が最も不安なのは将来設計が立たないということだろう。雇い止めで職場を失う不安は、失業した者でなければわからないと思うが、これに追い打ちをかけるのが、非正規の継続雇用を3年までとする労働者派遣法の改正である。さらに、解雇の金銭解決という非情な制度が検討されている。非正規労働者が雇用の調整弁とされているのである。

 非正規労働者の低賃金に歯止めをかけるためとして、安倍政権は、「同一労働、同一賃金」の法制化を目指すというが、ILO条約の基本命題であるこの原則をこれまで無視し続けてきた自民党政権が、どうして急に方向転換したのか。人件費の増大を恐れる経団連や正規労働者の既得権が侵害されるとして反対してきた連合とどう折り合いをつけるのか。参議院選挙をにらんだ羊頭狗肉の姑息な手段でないことを願う。

 “ はたらけど、はたらけど、わがくらし、楽にならざりき ”とわが手を見つめてあきらめの中で不安に駆られているのは年金生活者だ。40年間働いた夫と専業主婦の60歳~64歳の高齢者世帯の受給額は14万7508円、65歳以上の世帯が20万726円となっている。年金支給額からは介護保険と健康保険の保険料が天引きされるから実際の手取りはずっと少ない。年金生活者にはデフレが最も暮らしやすいのだが、政府・日銀は年2%のインフレを目指している。インフレの下ででは実質の年金収入はどんどん目減りしていく。国民の6人に1人が後期高齢者になる2020年問題、さらには5人に1人になる2025年問題を目前にして、オリンピックに浮かれている間に、年金額の引き下げはもとより、支給年令の引き上げも避けて通れなくなるのである。

 そこで、安倍政権が打ち出したのが“1億総活躍時代”というスローガンだが、65歳を超える退職者にハローワークで紹介されるのは、清掃、警備、運転、新聞配達、ビラ配りなどの生きがいとはつながらない単純労働である。健康を害したら即仕事を失う。お先真っ暗な高齢者の中には生きる気力をなくす人も出てくる。

  昨年の自殺者は2万4千人余り、一日65人が自ら命を絶っている。中高年の自殺者は無職の人が多いという。原因には病気、家計の破たん、借財、それによる家庭内の不和などが絡み合っている。つまりは、現在も続く啄木と同じ悩みだ。日本の自殺率(10万人当たりの自殺者数)は20で、アメリカの2倍、イギリスの3倍以上とG-7中では最悪の水準にある。TVでは毎日のように鉄道の人身事故のテロップが流される。多くは飛び込み自殺だろう。

  数年前のことだが、横浜の知人の家からの帰途、JR根岸線の洋光台駅で飛び込み自殺に遭遇した。電車が切通しを走るホームの中ほどにさしかかった時、人が飛び込んだのだ。乗客は全員降ろされて階上にある改札口への通路で待たされた。私はかなり時間がかかるだろうと思って、電車賃はムダになるが、駅から外へ出た。本屋と喫茶店で時間をつぶして駅へ戻ってみると、通路にはまだ乗客たちがぎっしり立っていた。彼らは全く無表情で、文句をいう人もなく、ただ押し黙って立っていた。私にはその沈黙の集団が何となく不気味に感じられた。明日は我が身かもしれないという心の闇をのぞいたように思えたからだ。

 運行が再開し乗客達はゾロソロとホームへ降りて行った。私がもう一つ不気味に感じたのは遺体の処理の手際のよさだった。駅員たちが倉庫から担架などを持ち出してホームへ降りていくのを目撃してから、運行の再開まで1時間ほどしかかかっていない。十数年前に上野駅で飛び込み事故に出会った。その時はホームで2時間近く待たされたが、その間ずっと線路脇に残されていた白い女性用の靴の片方が今も目に浮かぶ。私はふと、人身事故の頻発から、遺体の処理がマニュアル化されたのではないかと感じた。

 昨年の暮れ近く、埼玉県の利根川で高齢の夫婦と娘が心中を図り、47歳の娘だけが救助された。一家は認知症の母親を娘が介護し、父親は新聞配達をして月18万円ほどの収入を得ていたが、病気で働けなくなりひと月前にやめた。収入も貯蓄もなくなった父親は娘に「一緒に死のう」ともちかけたという。娘は生活保護を申請し、受理されていたのになぜ心中したのか。長年生活保護世帯に接してきた専門家は、生活保護を申請する決心をするまでの心の葛藤は生易しいものではないという。律儀な人ほどそういう感情が強いと思われる。生活保護を受けたあとも心の葛藤は消えない。生活保護を受けている世帯の自殺率は、他の世帯の2.2倍になっている。一方、別府市では、生活保護者が朝からパチンコ屋に入り浸っているという通報を受けて、福祉事務所の担当者達がパチンコ屋や競輪場を巡回して25人の生活保護者を見つけ、2回以上見つかった人には1~2か月保護費の支給を停めた。このニュースにネットでは市役所の措置に称賛が相次いだ。私には弱い者同士がいがみ合う社会の歪みを映し出しているように思える。

 安倍政権は、経済のパイを大きくすれば、そのうちみんなに恩恵が及ぶと言って来た。しかし、トリクルはいまだに滴り落ちず、上の方にばかり溜まって格差はますます拡大しているのが現実だ。

 或るNGOの格差に関する調査によると、世界で最も裕福な62人と、世界人口の半分に当たる36億人が保有する資産が同額であるという。世界の上位1%が残りの99%よりも多くの富を保有しており、この中には日本人も1800人含まれている。

 このように格差が開くのは何故なのか。ノーベル経済学賞を受けたプリンストン大学のグルーグマン名誉教授は 1.個人個人の生産性の差異 2.運、不運 3.権力 を挙げている。私もそうだと思うが、特に3.が問題だと考える。格差の原因が政治や経済の仕組みの歪みにあることは明らかだからだ。

 ところで、私にとって一年で一番憂鬱な税金の確定申告の時期が近づいてきた。先日出版元からの税金調書をもとに、わずかばかりの印税の経費の計算をしたが、年々視力が衰え、拡大鏡を片手に領収書と睨めっこをしているうちに、もうすぐ傘寿の老人になんでこんなことをさせなきゃならないのだ、いやになるほど儲けている奴や巧妙に所得隠しをしている奴らからもっときちんと取り立てろ言いたくなってくる。以前、家まで貯金通帳を調べにきた税務署員に「こんなことをしている暇があったら巨悪を摘発する努力をしたらどうだ」と怒鳴ったことがあったが、状況はさらに悪化している。

 上記のNGOは、「富裕層の資産は租税回避地( tax haven) に890兆円あると推定し、tax havenの悪用が富と権力の集中に拍車をかけている」としてtax haven の早急な撲滅などを各国政府に呼びかけた。

 暗い話ばかり書き連ねることになったが、それがこの国の現実だと私は思う。啄木は、「一握の砂」が発表された2年後に26歳で世を去ったが、その間、いわゆる“大逆事件”で処刑された幸徳秋水らの無実を明らかにするために心血を注いだ。死後に発表された「悲しき玩具」の中に“ 百姓の 多くは酒をやめしという もっと困らば なにをやめるらむ ”という一首をのこしている。死を前にして、彼は明らかに、自らの住む社会に内在する不公正に目を向けていたのである。

 日本と同じく相対的貧困率の高いアメリカの大統領選挙戦に彗星のごとく現れた民主党の大統領候サンダース上院議員は、若者たちの支持をうけ、バーモント州の予備選擧で本命候補のヒラリー・クリントン前国務長官を大差で破った。 勝利の演説でサンダース候補は「この国は巨大な危機に直面している」として「そうした中で、旧態依然たる主流派エスタブリシメントに政治や経済をゆだねておくわけにはいかない。自分が勝ったのは、国民が本物の変化を求めているからだ」と述べた。

現実を直視する中から、自分たちはどんな社会に住みたいのかを考え、それを実現するための政治や教育に関心を持てば、本物の変化が必要なことは自明の理であると私は考えている。(M)

* 私が住みたい社会については、当ブログに連載した「人権大国への道」で詳述した。

* 次回の < 統計数字の裏にみえるもの ⑤ 子供の貧困率 > は3月26日(土)に投稿する予定です。