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Author: 松山 薫

< 統計数字の裏にみえるもの ⑩ 幸せの指数 >

1.1人当たりGDP (2015 ドル換算:名目)

 1.ルクセンブルグ(101994)2.スイス(80675)3.カタール(76576)4.ノル     ウェー (74822) 5.マカオ(69309) 6.アメリカ(55805) 7.シンガポー   ル(52887) 8.デンマーク(52114)9.アイルランド(51350) 10.オース   トラリア(50961) 14.イギリス(43700)20.ドイツ(40996) 22.フランス   83675) 26.日本 (32485) 30.韓国 (27195) 75.中国 (7989)     188.スーダン (220)

  * GDPには不確実な要素が含まれている上、PPP計算の過程で最貧国      のGDP値に大きな差異が出てくるという指摘もある。

2.人間開発指数 ( human development index‐HDI 2015 )

  1.ノルウェー 2.オーストラリア 3.スイス 4.ドイツ 5.オランダ 6.ア  メリカ 7.ニュージーランド 8.カナダ 9.シンガポール 10.デンマーク   17.日本
  
  国内の不平等などを加味したIHDI(inequality-adjusted human        development index)では、1 位から5以下では変わらず、イギリスは16位、フランス18位、日本19位で、アメリカは25位となっている。

* HDIは、GDPが人々の幸福度とは直接関係のない経済指標であることから、環境汚染対策費や軍事費などを差し引いた指標を創ろうという研究の中で作成されるようになった。  

3.国連世界幸福度報告(2016)

  1.デンマーク 2.スイス 3.アイスランド 4.ノルウェー 5.フィンランド
  6.カナダ 7.オランダ 8.ニュージーランド 9.オーストラリア 10.ス    ウェーデン  22.シンガポール 29.ウルグアイ 33.タイ 35.台湾     53.日本 58.韓国 83.中国 84. ブータン

  * 国連幸福度は、ⅰ.1人当たりGDP ⅱ.社会的な支援 ⅲ.健康寿命 ⅳ.社会的自由―人生の選択肢の幅  ⅴ.寛容さ  Ⅵ.汚職の少なさ を指数化したもので、総合ランキングが毎年3月20日の「国連幸福の日( the International Day of Happiness)」に発表される。
  * 日本は、米・ミシガン大学の「世界価値観調査」では43位、英・レスター大学の “ the World Map of Happiness ” では90位にランクされている。( 人口減少社会という希望 広井良典 )

GDP世界3位の経済大国で、1人当たりGDPでも26位の日本が、幸福度指数では53位とか90位まで落下するのは何故なのか。 一方、GDP世界77位、1人当たりGDPが日本のちょうど半分で48位(15748ドル)の南米ウルグアイが、幸福度では29位と、はるかに日本を引き離して上位を占めているのは何故なのか。

国連の幸福度指数を構成する6項目のうち、3.健康寿命では日本は世界のトップクラスにあり、1人当たりGDPでも上位にある。だから、幸福度が急降下する原因は 2.社会的な支援 4.人生における選択肢の幅 5.寛容さ それに6.汚職の多さ にあることになる。私には思い当たることが多々あり、このシリーズでそれを指摘してきた。

“世界で最も貧しい大統領”と呼ばれたウルグアイのホセ・ムヒカ前大統領は、今年来日するに当たり「日本の人々は人として達成感を得ているのだろうか。人生は短いし、スーパーで多くの物は買うことはできても、人生における時間は買えないのだ」と述べて、「日本人は幸せなのか」と問いかけ、「成長を求めるな。幸せを求めよ」と助言している。長いゲリラ闘争と投獄の中で苦悩の末「暴力では社会は変わらない。社会を変えるものは、人々の意識だ」と悟り、大統領に選ばれた人の言葉は重い。ムヒカ前大統領は今、元上院議員の夫人と共に、農村に住んで薔薇の栽培にいそしんでいるという。日本人に経済成長至上主義とは別のパラダイムを目指してベクトルを変える勇気があるのかどうかを問うているのだ。
* ベクトル : ものやこころが動いていく方向  パラダイム : ある時代に支配的なものの見方、考え方

国連の幸福度指数では84位(1人当たりGDP 128位 2848ドル)のブータンは「幸せの国」と呼ばれることがある。そのブータンでは、今、国民総幸福量 GNH(gross national happiness)という概念の整理が行われているという。

GNHでは、(個人の幸せではなく)「社会的幸福」が経済社会発展の(優先的)究極的目的であり、それは,基本的必要(衣食住、安全な水、教育、人間の安全と尊厳)の充足によって支えられ、次の四つの開発の実現によって達成されるとしている。

ⅰ.環境保全・文化の保護と振興・持続可能で公正な社会経済発展・良い統治
ⅱ.現代および将来世代の持続可能性を保障する自然、社会、人間、経済諸    資源の責任ある利用
ⅲ.人間の歴史的経験・智慧・現代技術を用いて練り上げる幸福の技術 
ⅳ.生態系の多様性、コミュニティの活力、ワークライフバランス、心理的によい  良い生き方を基盤とする公正で持続可能な社会の実現 
  * GNHの説明は、伊東光晴著 「脱成長への構想 人口減少下の経済」      による。

ブータンの目指す方向には異論はないが、方法論には問題があるように思う。今年ブータンを訪れた女優の鶴田真由は、道行く人たちが皆な「自分たちは幸せだ」と話していたと語り、「幸せは自分の心の中にある」と気づかされたと述べているが、私には、何となく違和感がある。

私は、それぞれに異なる個性の個人、個人の幸せの積み重ねが社会全体の幸福につながっていくと考えている。ブータンが目指す国造りの指針と、私が目ざす「自由・公正・人権」を尊重する「人権大国」とは、何処が同じで、何処が違うのかは私自身まだ整理できていない。私の違和感は、戦前・戦中に画一的全体主義とそれを正当化する精神主義の教育を徹底的にすりこまれ、戦後はそれに反発して西欧的pragmaticな教養を身につけようと努めたアジア人である私の中の個人と社会あるいは国家についての相克する思いを反映しているのかもしれない。
* pragmaticな考え方 : 多様な価値観を認める多元主義、人間は間違うという可謬主義、そして、知識や思想は問題解決の道具であるとする考え方

ところで、「一億総活躍時代」を標榜する安倍政権は、このところ求人倍率が高水準で推移していることをplay upしているが、内実はどうなのか。日曜日の朝には新聞に折り込みの求人広告が沢山入ってくる。7月17日(日)の朝刊には7枚の求人広告が入っていた。これらの広告には約200の企業が出稿しており、このうち、高度の資格を要する医師、看護師、レントゲン技師などを除く求人は174社あったが、そ内容はいわゆる単純労働であり、上位3位の搬送・送迎のドライバー38件、介護補助28件、警備・清掃22件で合計88件、全体のおよそ半数を占めていた。 時給は神奈川県の最低賃金である905円から1000円程度、一日8時間週20日働いて月16万円、月給の場合も18万~20万程度である。その多くは非正規雇用であるが、内閣府の「幸福度調査」にると、非正規労働者で「現在は幸せ」と思っている人は、男性で5人に1人、女性で4人に1人しかいない。そのうえ、車の自動運転は既に実用の段階に入ろうとしておりこれらの職種は遠くない将来ロボットに置き換えられ可能性が高い。2025年問題と言うらしい。アメリカでは労働人口の60%に当たる1億人が職を失うという説もある。日本に当てはめると4000万人である。”一億総活躍“とは裏腹に、今でさえ食うや食わずの賃金で単純労働に黙々と従事しているいわば底辺の労働者の「暮らし」が根本的に成り立たなくなる日が来るかもしれない。

幸せであるために何よりも大切なものは、一人一人の「いのち」であり、「いのち」を支える「暮らし」である。「いのち」を鴻毛の軽さに比した戦前・戦中を紙一重の差で生き残り、敗戦そして戦後の荒廃と復興の時代を生きてきた私は、平和こそが「いのち」と「暮らし」を支える不可欠の基盤であると確信している。平和こそ、人権の基本であり、国連の唱える「人間の安全保障」の基盤なのである。だから人権の基本である「いのち」と「暮らし」を阻害するものと勇気をもって戦うことも必要になる。私と同じ年ごろに戦中・戦後を生きた国際政治学者の坂本義和・元東大教授は、一昨年亡くなる直前の最後の論文で「平和とは決して平穏な状態を意味するのではなく、「いのち」を生かすための、絶えざるたたかいのプロセスに他ならない」と言い遺こしている。

戦後の七十余年、平和な時代が私の「いのち」と「暮らし」を守ってくれたことに感謝し、今後も末永く平和のうちに、より多くの国民が、より高い幸せ指数のもとで生きられることを願って、このシリーズを終わりたい。

* 「人間の安全保障」は、「欠乏からの自由」「恐怖からの自由」「尊厳ある人   間生活」によって成り立つとされる。
* 「いのち」を生かす、たたかいの研究( 坂本義和 世界 2014年3月号 ) (M)

* 次回は、<統計数字の裏に見えるもの>のシリーズを終わるにあたっての< あとがき 「私の生きたかった社会」 >を9月24日(土)に投稿する予定です。