Print This Post Print This Post

Author: 松山 薫

< 社説よみくらべ > 5. 「オランダ下院選挙」

5.オランダ下院選挙の結果について

 今年西ヨーロッパの主要国で相次ぐ国政選挙のトップを切ってオランダの議会選挙が3月15日に行われた(下院定数150・比例代表制)。投票率は78%と過去30年間で最高を記録し、国民の関心の高さを示した。
注目された”ポピュリスト“ ヘルト・ウィルダ-ス氏の自由党は予想された下院での.議席倍増はならなかったが、5議席増の20議席を獲得した。一方与党の自由民主党は33議席で第一党の座は守ったものの8議席減らした。また連立与党の労働党は惨敗し、若い党首の率いる緑の党が4議席から14議席に躍進した。

この結果を受けて社説で取り上げたのは、朝日、毎日、産経の三紙のみであった。
各社社説の見出し

朝日新聞社説  「排外主義になお警戒を」
毎日新聞社説  「楽観できぬ極右の失速」
産経新聞主張  「排他主義への“待った”を」

つまり、三紙とも、自由党の失速に一応安堵しながらも、なお今後予想されるフランス大統領選挙やドイツ総選挙への影響を懸念している。

朝日新聞社説は、オランダ自由党の失速は、“オランダのトランプ”と呼ばれるウィルダ-ス党首の具体な政策を欠いた実像が選挙戦で次第に明らかになったこと、政権党の側が国民感情を考慮して反移民ともいえる宣伝をしたことによると分析している。だがそうまでしても、連立与党の中道右派、中道左派
はともに惨敗した。そして、選挙結果は国民の要望に応える処方箋を示してこなかった政権党の怠慢に国民が異議を突きつけたとみるべきであり、ポピュリズムの風が止んだわけではないと主要国の政治家達へ自戒をよびかけている。

毎日新聞社説は、今回の選挙結果でひとまづ大きな混乱は回避できた。フランス、ドイツ、イタリアなど他の欧州諸国首脳らも結果を歓迎している。選挙戦の終盤で自由党が失速したのは、ウィルダ-ス党首が身の安全を理由に公の場に出るのを控えたこと、トランプ政権後のアメリカの混乱がマイナス要因としてはたらいたことなどによる。だが、オランダ同様イスラム系移民の比率が高い隣国フランスでは、反移民の国民戦線ルペン党首の勢いは衰えていない。オランダの選挙結果が欧州全体の流れを変える契機になると楽観するのは早計だとしている。

* 産経新聞「主張」の閲覧は有料なので、ここではとり上げない。

さて、私の意見です。

イギリスの国民投票によるEU離脱とトランプ氏のアメリカ大統領当選で明白になったestablishment
(既得権層、既成勢力)への民衆の不満と憤りは、フィリピンのドゥテルテ大統領への圧倒的支持や数百万人規模のデモに端を発した韓国での朴大統領の罷免、日本では橋下前大阪府知事や小池東京都知事への熱裂な支持の拡大など、メディアの言う“ポピュリズム”の波は世界の主要先進国に広がっている。日本の大手メディアは相変わらずポピュリストを“大衆迎合主義”とか、場合によっては“極右”と銘打っているが、ポピュリズムについては、確たる定義は無く、いくつかの解釈が存在する。

〇 固定的な支持基盤を超え、幅広く国民一般に直接訴えかける政治スタイル 
〇 人民の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動
〇 社会を、敵対し合う二つの集団へと分裂させるイデオロギー 
〇 人々の願望や不安、不満に働きかけて人気を集め、体制を変えようとする政治運動
〇 エリートに対する非エリート、一般大衆の妬みの感情をあおり、政治的に利用する手法
〇 エリートが大衆の無知を笑うための政治用語
〇 オランダ自由党のウィルダ-党首自身は「私はポピュリストと呼ばれています。ネガティブな含みのある言葉ですが、もしその言葉が、人々の抱える深刻な問題に耳を傾けていること指すなら、私はそれを侮辱だとは思いません」と述べている。 
( ポピュリズムとは何か 水口治郎 中公新書、日本型ポピュリズム 大嶽秀夫 中公新書  他)

 イギリスに端を発し、アメリカ、そしてヨーロッパやアジアへ広がった“ポピュリズム”の底流にあるのは民衆の怒りだ。民衆の怒りの原因はなんなのか。格差の拡大と富裕層の堕落、それに対して無力な既成政治への絶望感であると私は考えている。

格差の拡大の原因はグローバリズムであり、それは競争至上主義による制限なき自由貿易や“貪欲な”金融資本による市場支配がもたらしたものである。競争至上主義によるグローバルな経済活動の行き着く先は、論理的に一強多弱の世界となる。強者は一強を目指してしのぎを削り、弱者はそのために利用される。

日本の現実を見ても、枚挙にいとまない大企業の不祥事、大企業による中小下請け企業へのコスト削減要求、それによる中小企業の倒産、横行するブラック企業による労働者の使い捨て、なかんずく企業利潤を優先した長時間労働、過労死ラインすれすれの時間外労働月間100時間を政財官が主導して無力な労働組合に押し付ける、これらがすべてグローバリズムに端をはっしていることは、日常の<なぜ>を見逃さない人なら、誰でも気付くことだろう。

ドイツの社会学者ウォルフガング・シュトレークは「格差の広がりは、自由市場の拡大つまりグローバル化がもたらした当然の結果であり、国際競争で生き残るという旗印の下で、国家は市場に従属するようになり、政府は労働者や産業を守ることが難しくなった」と指摘している。
また、フランスの経済学者トマ・ピケティは「一刻も早くグローバリゼーションの方向性を変える必要がある。今そこにある最大の脅威は、格差の拡大と地球温暖化である。・・・関税やその他の貿易障壁を軽減すような国際合意はもうやめにしないか。法人減税などによる財政ダンピングや環境基準を甘くして生産コストを下げる環境ダンピングをやめるべきだ」と提唱し、アメリカ大統領予備選挙でバーニー・サンダースに投じられた票から教訓を引き出すべきだと述べている。

 アメリカ大統領選挙で旋風を巻き起こしたバーニー・サンダースの政策は前回紹介したが、サンダースは選挙の後、次のように述べている。「はっきりさせておこう。グローバル経済は、アメリカでも世界でも、大多数の人びとの役にたっていない。経済エリートが得をするようにと、彼らが生み出した経済モデルだ。私たちアメリカ人は、真の変革をおこさなければならない。そして今の「自由貿易」を否定し、公正な貿易へ移行すべきだ。一握りの億万長者だけでなく、全ての人々の役に立つ国家経済と世界経済を作り出さなければならない」「真の改革はトップからは実現できない。常に底辺から起きるものだ。政治改革は続けなければならない」。 高齢のサンダース氏に次の機会がないことが惜しまれるし、彼のような信念と実績、本質を見据えたスケールの大きな具体的政策を提示する政治家が日本に生まれないことを残念に思う。

現状を根本的に変えなければ庶民は救われないという思い < 現状を根本的に変えることへの不安
という不等式は、今回のオランダ選挙の結果に見るように、いつ逆転するかわからない時代が来ていると私は考えている。(M)