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文科省が打ち出している入試改革の大きな目玉の一つが、大学入試で英語の「読む・聞く・話す・書く」の4技能を測ることです。しかし、それを従来の入試センター試験方式で実施することは不可能なので、2020年度からそれに代わって民間試験(英検やTOEFLなど)を活用するというのです。その上、文科省は厄介な問いを大学側に投げかけました。入試センターが作成してきた従来の「読解」と「リスニング」の英語問題について、次に示す①と②の案からどちらかを選べというのです。国立大学協会(国大協)の入試委員会は、大学側の意向を予め調査した結果、これに③を加え、3つの選択肢にしました。

①従来の大学入試センター試験に代わる新テスト(仮称では「大学入学共通テスト」)では、その開始時の2020年度から英語問題を廃止し、それを民間試験に全面的に移行する。

②入試制度変更の影響を考慮し、従来の大学入試センター試験の英語問題を2023年度まで残す。

③(国大協によって新たに加えられた選択肢)大学入試センターによる英語の問題を2013年度まで残すが、リスニング・テストについては2020年度からこれを廃止する。

先日の新聞(6月17日付朝日新聞)の教育欄は、6月14日に東京・神田の学士会館で開かれた国大協の総会で、上記の英語入試の問題が取り上げられたことを報道しています。その記事によれば、席上、入試委員長が「英語の廃止についての意見は全く割れた」と報告すると、総会に出席していた学長たちからどよめきが起こったそうです。5月中旬の実施方針案の公表を受けて、国大協の入試委員会が上記3案について国立82大学の意向を調査したところ、①は34.1%、②は29.3%、③は18.3%と、いずれも過半数を満たさなかったというのです。さらに「その他」も18.3%あって、この問題についての国立大学の意見は完全に分裂したのでした。

国大協は結局、現時点で英語試験の廃止を決めることは拙速であり、2020年度の民間試験の活用状況を検証して判断すべきだという意見書をまとめることにしたのでした。その意見書には民間試験の内容が学習指導要領と合っているかの疑問や、受験生の経済的な負担の軽減策について文科省に説明を求める内容も盛り込まれたとのことです。これに対して文科省がどう回答するかが注目されるところです。

ところで国大協の大学に対する意向調査結果は興味ある傾向を示しています。2020年度から英語を民間試験に全面移行することに賛成の①が34.1%であったのに対して、それを23年度まで延長するという②と③を合わせると48.6%になります。つまり、大学の約半数は民間試験への移行に不安を感じているということです。そのように考えると、国大協の文科省からの問題提起への対応は理にかなったものです。文科省から出てきた案(英語入試を民間試験に移行するという案)はあまりにも唐突であり、大学が判断するには資料が不足していてどう考えたらよいか分からないというのが本音ではないでしょうか。なお、現行のリスニング・テストを2020年度から廃止するという提案に18.3%が賛成したという点は興味を惹きます。その理由が知りたいところですが、それについての議論はここでは省きます。

上記の問題の所在は、明らかに、新制度の「大学入学共通テスト」(仮称)から英語を外し、民間で行われている各種の資格試験や認定試験で代用しようとすることにあります。しかしそれにはいくつもの問題があります。第一にテストの妥当性と信頼性の問題です。民間テストの一部には4技能を含む試験をすでに行っているものがあり、その数はすでに10指に余る数にのぼります(注)。それらの中から大学入試センターが選定し認定するというのですが、どれが大学入試に代わりうるものであるかを入試センターはどのように精査し、その適切性を判断するのでしょうか。特に「スピーキング」や「ライティング」のテストについてはその実施の歴史も浅く、個別テストの色彩も強いので、妥当性・信頼性および公平性の判断は困難をきわめると予想されます。

特に重要なのは試験問題の内容妥当性です。民間テストの多くは、それぞれ留学用やビジネス用などの目的に応じて作成されています。たとえばよく知られるTOEFLは、もともとアメリカの大学への入学を希望する外国人留学生の英語力を測定するために作成されたものです(4技能テストはTOEFL iBT)。またTOEICは、主としてビジネスにおける英語コミュニケーション力を評価する目的で考案されたものです(4技能テストはTOEIC S&W)。ですから、それらのテスト結果を日本の大学入試にそのまま利用することには、内容の妥当性という点で大きな疑問があります。大学入試の最大の特徴は、受験生の高校修了時における到達度をしらべ、日本の大学での修学に必要な学力を有しているかどうかを判定することにあります。ですから、民間で行っている試験を大学入試にそのまま利用することには、賛成できない人も多いと思われます。

TOEFLやTOEICと比べると、日本英語検定協会のテスト(英検)は日本人の学習者を対象としているので、その内容は文科省の作成する学習指導要領に則っています。それは現在、3級以上ではスピーキングを、2級以上ではライティングのテストも課しています。最近その同じ協会で、大学での英語で行われる授業で必要とされるコミュニケーション力を測定することを目的としたTEAPという新しいタイプの4技能テストを開発しました。これなどは、今度の文科省の入試改革の方向を見通して、先取りした形で導入されたようにも思われます。もしそうだとすれば、入試を民間試験に肩代わりさせることには大きな危険を感じます。なぜなら、これを契機に、民間の英語テストをめぐって猛烈な認定取得競争が起こることが予想されるからです。いったんそれが始まれば、一部の受験生を利する得点の安売り競争がなされる事態も考えられます。そうなると入試の公平性が疑われ、ひいては大学入試全体の信用が失われることになるでしょう。

他にもいろいろ考えられますが、以上に述べた事柄は主として入学試験を実施する側の問題点です。英語を民間試験に移行するには、さらに、受験者側の問題点を考慮しなければなりません。たとえば民間試験を受験するには費用がかかりますが、その問題をどうするのでしょうか。また受験生を送り出す高校は、新しい入試制度に適切に対処できるのでしょうか。英語4技能の総合的な学力が入試で要求されるとすれば、高校はそのような指導を常日頃から授業で実践していく必要があります。特にスピーキングやライティングの学力向上はそう簡単なものではありません。そういう指導が全ての高校で保障されるのでしょうか。受験のことはすべて予備校にお任せとはいうのでは無責任です。次回にはそういう問題を取り上げる予定です。

(注)文科省の「高大接続改革の進捗状況について」(2017年5月16日)の資料に、「主な英語の資格・認定試験とCEFRとの対照表」が記載されています。そこには次の10種類の民間試験が記載されています。

(1) Cambridge English  (2) 英検  (3) GTEC CBT  (4) GTEC for STUDENTS  (5) IELTS  (6) TEAP  (7) TEAP CBT  (8) TOEFL iBT  (9) TOEFL Junior Comprehensive  (10) TOEIC / TOEIC S&W.