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大修館書店発行の『英語教育』9月号第1特集は、小・中学校の新学習指導要領告示をうけて、現行学習指導要領下で英語教育にどんな変化が起きたのか、また起きつつあるのかを、いろいろな角度から点検してみようという意図のもので編集されています。そこでは「文法指導」、「リーディング指導」、「ライティング指導」、「英語で授業」などのトピックスが取り上げられ、それぞれに実践者の報告がなされています。

まず文法指導については、佐藤誠司氏(佐藤教育研究所)が「文法指導は変わっていない?」というタイトルで論じています。最近の大学入試では文法問題の比率が徐々に下がっているけれども、全般的に見て中身は「あまり変わっていない」と総括しています。その理由は、教師が「文法の知識をまず頭に入れるそれを応用して英語を読んだり書いたりする」という発想から抜け出せないためだと言います。文法指導の改善は、教師のそういう意識を変えることから始め、「4技能を修得するための文法学習」と「入試の文法問題を解くための文法学習」との間に横たわる大きなギャップを埋めることが重要だと言います。つまり、入試に役立つ「受信用文法知識」と4技能修得に役立つ「発信用文法知識」をしっかり区別して指導することが必要だということです。

英語教師の意識は、リーディングやライティングの指導においても似たような傾向を見せています。転換が必要なのだけれど、教師の意識はまだ根強く古い伝統的指導法に固執しているのです。藤田 賢氏(愛知学院大学)の「リーディング指導の『常識』を見直す」では、従来の文法訳読式指導から総合的なリーディング指導への転換が必要なのだが、それへの変化はまだ始まったばかりで、本格的な取り組みはこれからだと述べています。またライティング指導に関しては、工藤洋路氏(玉川大学)がパラグラフ・ライティングの指導を行っている先生が少しずつ増えて、2~3文の文が書ける生徒の数も多くはなってきているが、そういう生徒も内容的にまとまりのある一貫した文章を書く力が十分ではなく、この点がこれからの指導の課題になっていると指摘しています。

スピーキングはどうでしょうか。「英語の授業は英語で」という文科省の指示により、中学校では英語を使う先生が多くなったと聞いていますが、高校はどうでしょうか。中学校ほどには多くないようです。その最大の理由は、教科書に載っているテキストの内容が抽象的になるためです。これを生徒にとって身近な、より具体的な話題に結びつける必要があります。吉田章人氏(日本女子大附属高校)は、「易しい英語」とは「具体的な表現を用いた英語」であると述べ、たとえ題材が抽象的であっても、その内容の具体的な事物や事例を用いることで易しくすることができるとして、自身の体験を基に具体的に説明しています。このようにすれば、もっと多くの高校の先生方が授業で英語を多用することができるのではないでしょうか。

他に注目を惹いたのはICTとAIの活用に関する記事でした。柏原郁子氏(大阪電気通信大学)の「ICTで拓くこれからの英語教育」と題する記事は大学での実践に基づくものですが、これを一斉授業で行っても効果は上がらず、「学生自身が自分の英語力や興味に応じて教材を選択できる」ようにすることが重要だと言います。柏原氏自身の授業は、「ICTを活用することで、学生の英語力に応じて、リーディング・リスニング・文法・語彙など多岐にわたる分野の教材を自由に選択することができ、英語嫌いの学生でも、英語の学び直しのきっかけをつかめること」を目標にしていると述べています。こういったICTを活用した授業はこれから盛んになることが予想されます。なお従来のITという用語は、近年は世界的にICT(Information and Communication Technology)がよく使われるようです。

また竹内和雄氏(兵庫県立大学)の「AI時代に英語教育は必要か?」では、パソコンで「Google翻訳」を使って夏目漱石『我輩は猫である』の冒頭部分を英訳して見せ、それがどの程度のものかを示しています。今はまだ発展途上にありますが、やがてこういう文学作品も実用に供することができるようになりつつあります。日常の簡単な会話くらいは、現在でも、スマートフォンのGoogle翻訳を使えば103もの言語に対応し、オンライン人口の99%をカバーしているそうです。そうなると、2020年の東京オリンピックなど、スマホを使えばちょっとした外国人とのコミュニケーションは誰でもできるようになると考えられます。そうなると、現在日本で行われている学校英語教育の理念と方法は、根底から考え直す必要がありそうです。

さて、今号の『英語教育』の特集でもう一つ注目したいのはテストと評価の問題です。これに関して、佐藤敬典氏(上智大学)は「テストが測る能力・スキルの変化」という記事の中で、次の2つことを強調しています。第1は、ここ10年間で、4技能をそれぞれ独立して評価するテストから、複数の技能を組み合わせて行う技能総合型テストへの移行が顕著に見られるということです。佐藤氏によれば、「たとえば、読んだ英文の記事の内容を口頭で要約させ、その要約を評価する」など。もう一つは「国際語としての英語」(English as a lingua franca: ELF)の概念が広く認められ、テストにもその考えが取り入れられてきたことです。これら2点は現場の先生方もよく承知しておいて、そのような指導を普段から心がけておく必要があります。文科省は現行学習指導要領でもそのことを強調しています。

しかしながら、総合型テストへの移行に関して、現在、大きな問題が起こりつつあります。文科省が大学入試改革で英語の4技能別テストにこだわっていることです。大学入試で受験生に民間の4技能別テストを強制するということは、最近の総合型テストへと向かう趨勢に明らかに反しています。一方では英語4技能の総合的な使用を強調しながら、他方では4技能別テストにこだわる。これはいったいどういうことなのか。文科省のやっていることは全く理解できません。『英語教育』の今号第1特集の最後に、寺沢拓敬氏(関西学院大学)が「英語教育政策、変わったこと・変わらないこと」と題して今回の学習指導要領批判を展開しています。そこで寺沢氏は、小学校での英語教科化をはじめ、最近の教育改革はかなり抜本的なものであるにもかかわらず、その根拠が不明確であると論じています。評者も同感です。

上記と関連して、今号第2特集は「どうなるポストセンター試験」というテーマで2点の論文が掲載されていて、その最初に斎藤資晴氏(駿台予備校)が「大学入学共通テストの動向」をまとめています。そこでは、英語が民間試験に移行され、「スピーキング」と「ライティング」が大学入試に導入された場合に起きるさまざまな実務的な課題が指摘されています。本誌編集部にお願いします。大学入試は高校生にとっても教師にとっても重大な関心事です。これらの問題点を探り、それらにどう対処していくべきかを、さまざまな観点から考察できるような特集を組んでいただきたいのです。