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今回は、新しい学習指導要領の指導理念として掲げられている「思考力・判断力・表現力の育成」に関連して、英語を中心にそれらの能力がテストや入試においてどの程度測ることができるのかという問題を検討し、現在文科省が中心になって進めている教育改革の方向が適切かどうかを考えます。議論を分かりやすくするために6項目に分けて論述します。

(1)思考力・判断力・表現力をテストで測ることは可能か

文科省は、2010(平成22)年度全国学力・学習状況調査の結果を分析して次のように述べています。

「例えば、資料や情報に基づいて自分の考えや感想を明確に記述すること、日常的事象について、筋道を立てて考え、数学的に表現することなど、思考力・判断力・表現力等といった「活用」に関する記述式問題を中心に課題が見られた。さらに、知識に関する問題においても引き続き課題が見られるなど、知識を活用する力を育成することと合わせ、基礎的・基本的な知識・技能も定着させることが重要となっている。」(文科省初等中等教育局教育課程課登録文書<2011年1月>)

以上のような分析を受けて、今回の学習指導要領が作成されているわけですが、これからの教育が知識・技能の定着と共に、知識を活用する力を活用する力を育成することが課題となる点については、教育の専門家だけでなく、一般の人々にも異論は少ないであろうと思われます。私たちは何事を決めるにしても、これらの力を必要とすることは日常的に実感しているからです。したがってそういう指導は必要であり、その指導の効果を知るための評価活動も適切になされる必要があります。

(2)これまでの思考力・判断力のテストはどのようなものであったか

小・中学生を対象としたPISA調査は、読解力・数学的リテラシー・科学的リテラシーの3分野において、思考力や判断力を含む能力を評価しようとしています。また同じPISAの「問題解決能力調査」では、問題状況を観察し、必要な情報を探し出し、そこから改善すべき課題を見つけてそれを図表や言語や記号などで表現する能力を調べようとしています。わが国の文科省も、「全国学力・学習状況調査」を実施して、知識・技能等を実生活の様々な場面に活用する力や、課題解決のための構想を立て、それを実践し評価する力を見ようとしています(注)。しかしその調査もこれまでは国語と数学に限られていて、外国語はそれに含まれていません。近く同様の調査を英語においても実施すると文科省は言っていますが、果たしてどのようなテストになるのか、どんな問題が作成されるのか、期待と共に不安を感じます。わが国においては思考力や判断力の評価に関する研究はまだ十分に進んでいないからです。おそらくPISA調査などを参考にすることになるのでしょう。重要なことは、これらの調査が思考力や判断力そのものを点数化することではなく、与えられた問題の解決にそれらの力がどれだけ求められるかということです。

(3)英語の入試で思考力や判断力をテストすることは可能か

では思考力・判断力・表現力の育成がこれからの主要な教育目標であるとして、それらの力を入試で測ることができるのか、という問題を考えます。入試は一般に、受験生の答案を点数化したりランクづけしたりすることによって優劣を判定します。記述式テストにすれば、それらの力の一部を測ることはできるでしょう。実際、表現力に関しては、記述式でランクづけをすることが行われています。しかし思考力や判断力はどうでしょうか。国語や数学の分野ではそのような研究がある程度進んでいるようで、大学入試センターが2020年度からの大学入学共通試験で国語と数学に記述式を導入することを決めました。しかし英語に関しては、思考・判断などの力をみることはペーパーテストでは難しいというので、大学入試センターは英語そのものを共通試験から除外することに決めました。ただし、受験者を一定数に限定できる大学の二次試験などではかなりの程度自由な問題作成が可能なので、そういう力をみようとする英語テストはこれまでにもかなり実施されています。しかしそういう入試問題の作成技術はまだ未開発で、本格的な研究はこれからです。

(4)英語による思考力・判断力の評価はなぜ難しいか

ここで言語の使用力に関する根本的な問題に触れる必要があります。その問題とは、日本人が英語で思考し、物事を判断することができるようになるのは、一般に考えられているほど簡単ではないということです。私たちは生まれてからずっと母語である国語によって思考し判断してきました。小学生になって英語を学校で教えられるようになっても、その時間数は非常に限られており、日本語で考えることを英語でどう表現するかに学習の焦点が置かれます。英語を使って思考する域に達するには長期にわたる修練が必要なのです。新しい小・中学校の学習指導要領はそこまで目標とするかのように書いていますが、実際には、それができるのは特別な環境と経験に恵まれたほんの一部の例外的な生徒だけです。大多数の生徒にとって、英語はまだ基礎的知識と技能の習得段階にあり、英語を使って思考することができるまでにはまだ修練が不足しています。高校修了までに英語の基礎を固めることができればよしとする従来の考え方は、今後も大きく変わることはないと思われます。

(5)結論:実践研究を積み重ねることが必要

これからの時代を生きる子どもたちにとって思考力・判断力・表現力が重要であるという教育理念は、多くの人々が肯定的に受け止めているようです。これまでのように学校で知識や技能を蓄えても、それを活用する力を身につけなくては、これからの急速に複雑化する世界では生きていけないだろうという不安があるからです。学校においても、できれば小学校の段階から、思考力・判断力・表現力を育成すような教育を目指すのは時代の要請だと考えられています。しかし、そのような力をどのようにして養成するかはこれからの研究課題です。特に英語においては、このようにすれば必ず成功するというような処方箋が出来上がっているわけではありません。まして様々な制約のある入試において、それらの力を一律の基準で評価しようとするのは適切とは思えません。これからの現場における実践研究が必要です。そういう教育の成果は、新しい教育理念に対する教師たちの理解と熱意にかかっています。今回改訂された小・中学校の学習指導要領はあまりにも詳細な指示が多く、これでは教師たちの創意・工夫の意欲を削ぐことになるのではないかと危惧を感じます。

(注)文科省がホームページに掲載している資料(2015年10月22日の教育課程部会における「言語能力の向上に関する特別チーム」参考資料)によると、「思考力・判断力・表現力についての整理のイメージ」として、全国学力・学習状況調査(国語と数学)の基本理念を次のようにまとめています。

・知識・技能等を実生活の様々な場面に活用する力

・様々な課題解決のための構想を立て実践し評価・改善する力など