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英語リスニングの学習

Author: 土屋澄男

リスニング(聴くこと)の学習に関連する問題は非常に多岐にわたるので、そのすべてを取り上げることはできそうもありません。ここでは、英語学習においてリスニング技能を高めるにはどうしたらよいかという観点から、リスニング学習に関連するいくつかの中心的課題を見ていきたいと思います。言うまでもなく、リスニングは母語習得において子どもが最初に発達させる技能です。赤ちゃんまず周囲でなされる発話に注意を傾け、音声を聴き分け、それを口にして次第に話すことを学び、それからリーディング、ライティングへと進みます。第2言語や外国語の学習の場合にもそれが自然な順序なのですが、かつての学校ではそれを古典語の学習のようにリーディングとライティングを優先させたために、リスニングとスピーキングの技能の発達が阻害されたことがありました。英語をコミュニケーションの手段として学習させる現代の学校(特に中学・高校における基礎的コミュニケーションの養成段階)では、リスニングとスピーキングの技能をないがしろにすることはもはや許されないことです。

 さてリスニング学習の第一歩は、聴覚による音声知覚(aural perception)です。子どもの母語の獲得の場合には、音韻体系の獲得は非常に早い時期になされることが最近の研究で明らかになってきました。胎児は母親の子宮にいるときから母語の獲得を始めているのです。生後間もない赤ちゃんはすでに母語のリズムやイントネーションの基本をすでに獲得しており、それらの違いで母語と他の言語を区別することができることが分かっています。そして母語における母音や子音の区別についても、その獲得はすでに胎児のときから始まっており、生まれたばかりの赤ちゃんは母語の母音や子音の聴き分けができるようになっています。たとえば日本人学習者に不得意な英語の [ l ] と [ r ] の区別を、英語を母語とする生まれたばかりの赤ちゃんは、ちゃんとできるそうです。そして満1歳頃には、早くも母語の母音・子音の音韻体系を獲得するということです。しかもその能力は、満1歳を過ぎると、急速に失われていきます。つまり、赤ちゃんは自分の母語にさらされてそればかりを聴いているうちに母語の音韻体系を作り上げてしまい、そのために他の言語の異なる音韻体系を受けつけなるのです。(以上のことは、つい最近発行された今井むつみ著『ことばと思考』<岩波新書>の中にもふれられています。)

 このことの第2言語や外国語のリスニング学習に意味するところは重大です。なぜなら、新しい言語を学ぼうとする成人は、すでに赤ちゃんの持つ音韻体系の自然な獲得能力を失っていることを意味するからです。しかしそれは、成人が全く絶望的な状態に置かれているということではありません。赤ちゃんと同じようにはいかない、つまり、ただ聴いていれば赤ちゃんと同じように言語音声の聴き分けができるようになるわけではない、ということです。成人は、赤ちゃんとは違って、意識的な学習によって、新しい言語の音韻体系を身につけなければならないのです。日本人の英語学習では、すでに「発音の学習」で述べたように、まず英語のリズムと音調の規則を学び、英語音声の強弱や音調の変化を聴き分けることができるようにならなければなりません。母音については、英語の基本母音は少なくとも12個あり、2重母音を含めると20個にもなります。それらをきちんと聴き分けられるようになる必要があります。子音の数はそれほど違いませんが、英語にあって日本語にはない音(f, v, l, r, thなど)の聴き分けやそれらの区別が特に困難です。ここでは詳細は省略しますが、幼児期を過ぎた日本人が英語を学ぶときには、母語である日本語と外国語である英語の音韻体系の違いを意識的に学ぶことが必須となります。ただ反復して聴くだけでかなり上手になる人もいますが、そういう人は特殊才能に恵まれている人で、普通の人は英語の音韻体系を模倣と反復で身につけることは困難です。

 ところで音声の聴き分けは、ただ一方的に聴く練習をするよりも、自分でそれらの音を発してみることも大切です。外国語の初級クラスで、インプット中心の授業を受けたクラスのほうが、アウトプットも同時にさせたクラスよりも良い結果を得たという有名な実験(Postovsky 1974)がありますが、日本人の英語リスニング学習ではこの結果はそのままあてはまらないと私は考えています。英語と日本語のように音韻体系が(そして文字体系も)非常に異なる言語にあっては、アウトプットの仕方を同時に学ぶほうが有利なはずです。たとえば [ l ] と [ r ] の区別はただ繰り返し聴くよりも、自分で発音してみることによってその違いがよりよく認識できるからです。そしてこのことは、次に述べる「聴覚による音声理解」とも関係します。(To be continued)