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スピーキング技能の上達には話し相手や聴衆が欠かせません。スピーキングの多くは対話(ダイアローグ)で成り立っています。またスピーチをするには聴衆が必要です。前回述べたように、スピーキングの基礎トレイニングは一人でもある程度可能ですが、それには限界があります。それだけでスピーキングができるようになるわけではありません。中学・高校から大学までの公的な学校英語教育は、一部にすぐれた実践をしている教師や教師集団がありますが、全面的に信頼できる状態にはありません。それが今日の英語学習者の「英語が話せるようになりたい」という願望を阻止している大きな原因となっています。では、個々の学習者はどうしたらよいでしょうか。今回はそのことを考えてみましょう。

 そこで考えられるのは、自分で話し相手を見つけることです。じっと待っていてもそのチャンスは訪れません。スピーチならばスピーチ・コンテストに応募してそこで話す機会をつかむことです。日本に住んでいて英語の話し相手を見つけることは、今日ではさほど難しくはないでしょう。筆者が学生であった戦後には、街を歩いているGI(米軍兵士)に話しかけて相手になってもらったものでした。筆者のある友人は、米国からやってきたキリスト教宣教師に英語を習いに行っていました。宣教師たちは布教の手段として英語を教えていたのです。今日では日本の多くの学校に外国人講師がいますし、たいていの市や町に英語を話す外国人が住んでいます。外国人は英語のネイティブ・スピーカーでなければならないと考える必要はありません。英語は今や世界の多くの人々のリンガ・フランカ(lingua franca)となっていますから、アジアをはじめいろいろな地域からやって来た、英語を第2言語として使用する人々と話すとよいでしょう。要はそのようなチャンスをつかむのに必要な少しばかりの勇気と、自己トレイニングで得た自信と、何としても英語スピーキングの技能を獲得したいという意欲と情熱です。

 これまでの「成功した言語学習者」(successful language learners)の研究を見ると、スピーキング技能にすぐれている人たちの特徴として以下の3つが挙げられます。第1は英語スピーキング活動への積極的参加です。彼らはいつも英語を聴いたり話したりする活動に自分自身をさらします。ですから、暇さえあれば英語のソングやテレビや映画に身をひたし、英語を話す外国人と交流し、その幾人かを友人にします。スピーチ・コンテストがあると聞けば進んで応募します。筆者の東京高等師範学校の級友たちを顧みても、スピーキングの上手な人はそういう人たちでした。テレビもテープレコーダも無い時代でしたから、もっぱらハリウッドの映画とFEN (Far East Network) のラジオ放送を活用しました。同じ1本の映画を朝から晩まで数回観るという経験を、たぶん級友たちの多くが共有していたのではないかと思います。わたしたちの中に抜群にスピーキングの上手な人がいました。その人の名はこのブログの投稿者の一人である田崎清忠氏で、今も高円宮杯英語弁論大会の審査にかかわり、講評を担当されています。田崎氏は、若い頃からここに挙げる良いスピーキング学習者の特質の多くを体現していたと思います。(田崎氏についてもっと知りたい方は、この桐英会ブログから彼のブログにリンクしてご覧ください)。

 良い学習者の特質として第2に挙げられるのは、英語スピーキングへの自己動機づけと自信獲得のストラテジーです。自分は引っ込み思案だからとあきらめたらそこでおしまいです。最初から上手な人はいないのですから、まず思い切ってチャンスをつかみ、外国人とコミュニケーションできたという経験と自信を積み重ねることが大切です。そしてその経験を振り返り、自己評価し、次はこうしてみようと考えます。すると少しずつ進歩が実感できます。これが自己動機づけになるわけです。そしてもう一つの良い学習者の特質は、話題の豊富さです。外国人との対話は挨拶だけでは長続きしません。共通の話題が必要です。また、いつも同じ話題を取り上げるわけにはいきません。話し上手な人とは話題の豊富な人です。外国語で話すときには、どうしても母語の場合よりも話題が限定されるのはやむをえません。まず初級の段階では自分自身と自分の身の回りのことについて、高校生・大学生になったら身近な問題から自分の関心のある周辺的な問題へと、しだいに話題を広げるようにしたいものです。母語の場合と同様に、英語のスピーキングの場合にもこの努力は生涯欠かせません。(スピーキングの延長上にdiscussion や debate がありますが、これらについては別の機会に取り上げることにして、「スピーキング学習」の項目はひとまずここで終わります。)