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高校での英語リーディングの授業が、前回述べたような、訳読と文法を中心とする非効率的なものであるとしたら、本当の英語リーディング力を身につけたいと考えている学習者はどうしたらよいでしょうか。筆者は以前このシリーズ(第9回)で自律的な言語学習者について述べたことがありました。「自律的学習者」とは、自分自身の学習のプロセス(学習の設計、ストラテジーの選択、モニター、評価、自己動機づけ)を自分の責任で遂行できる人であり、それによって他者への依存度を下げ、学習環境に左右されることなく自分の学習を進めていくことのできる人のことでした。現実の学校の教育環境はさまざまです。同じ学校でも教科によって学習の性質も形態も異なります。英語の授業に限っても、先生の指導の仕方によって、またクラスの雰囲気やクラスメートとの人間関係によって、さまざまな形態が存在します。自分にとって居心地のよい、学びやすい環境であれば問題ありませんが、そうでないときには自分の意志で自律性を保つようにすることが特に重要になります。しかし独りでそれを実行するのは容易ではありません。なるべく信頼できる友人や指導者(親や先生)と相談しながら進めることが必要でしょう。以下に英語リーディングの学習を自主的・自律的に行なう場合の留意点を二三述べてみたいと思います。

 まず訳読についてですが、学習者が英文の意味を理解するための一つの手段としてそれを用いることは悪いことではありません。問題は訳に頼ってしまうことです。つまり、英文をいちいち日本語に訳さないと意味が取れなくなることが問題なのです。それを避けるためには、訳はチャンク(意味のまとまり)の単位にとどめ、チャンクの順序を入れ替えて全文訳をしないことです。頭から、チャンクごとに意味を取っていくのです。例を挙げましょう。次は世界的に有名な作家ラッシュディー(Salman Rushdie)の新作Luka and the Fire of Lifeの冒頭のセンテンスです。(チャンクの切れ目をスラッシュで表します。)

   There was once, / in the city of Kahani in the land of Alifbay, / a boy named Luka / who had two pets, / a bear named Dog / and a dog named  Bear.

 上の文の意味を取るのにチャンクの順序を変えて日本語にする必要はないでしょう。チャンクごとの意味が取れれば全体の意味はおのずと明らかです。しかし表面的な意味がわかっても、作者の意図はこの文からはまだ不明です。読者はこれから先に次々に現れてくるはずの情報に期待を寄せます。たとえば、Kahani やAlifbayがどこの地名なのか、Lukaという少年の名に何か特別な意味があるのか、なぜクマの名がDogで、イヌの名がBearなのか、など。作者はまだ自分の意図したことを何も述べてはいないのですから、このような文をきちんとした日本語に訳すことは、翻訳家でないかぎり必要のないことです。時々チャンクごとに日本語で意味をチェックするのはかまいませんが、チャンクごとに英語の順序のまま理解しようとすることが大切です。授業で先生の言う全文訳をノートに書く必要はまったくありません。むしろ先生の日本語を聞きながら、ノートにはその英文を書くとよいでしょう。そのほうがずっとよい学習になります。

 次に、リーディングに上達するには豊富な経験が必要です。それは学校で使う薄い教科書だけでは不充分です。私たちは日本語の文章を自由に読めるようになるために、どれだけ多くのものを読んだことでしょうか。学校の国語の教科書だけではないはずです。他の教科の教科書も英語以外は日本語でした。それらに加えて楽しい物語や小説もたくさん読みました。ですから、日本語の読書経験の少ない人は英語のリーディングも苦手だと思われます。事実そういう調査をした研究者がいて、そのことが裏付けられています。教科書以外の英語の本を読む場合に注意すべきことは語彙のことです。小説を読むならば原文で読みたいと思うのは自然ですが、一般に作家の語彙は通常の人より多く、3000語程度の語彙ではとうてい読めません。そこでお薦めなのが1000語、2000語、3000語などの語彙範囲にリトールドされた読み物です。本屋(AMAZONなど)のgraded readersで検索するといろいろなものがあることが分かります。辞書をあまり引かずに読むためには未知語が2%以内のものがよいとされています。多読によって語彙を増やすことはあまりできませんが、重要な語に何回もふれることによって、語彙の知識が深まり、また読みの流暢さが増すことが知られています。リーディング力をつけるために、自分に興味のある話題の本を見つけてできるだけ多く読んでください。英語で速読や味読ができるようになったら、あなたにとってすばらしい世界が拓けます。(この項終わり)