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英語語彙の学習(2)

Author: 土屋澄男

語彙学習は、学習者が知りたい語、あるいは必要とする語を学ぶのが望ましいと言えます。そうすれば学習意欲が高まり、忘却率を下げることができます。これは経験的によく知られていることであり、種々の言語心理学的実験でも証明されています。語彙学習をそのようにするには、どうしたらよいでしょうか。まず2つの重要なポイントを挙げたいと思います。第1に、学習者が語彙習得に積極的な態度を取ることの重要性。第2に、語の記憶は音(または綴り字)と意味の単なる組み合わせから成るのではないという認識。

 まず第1のポイントから見ていきましょう。日本人の英語学習の特徴は「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度」に欠けていることです。最近の学習指導要領には、このことが外国語の目標として再々掲げられています。これは明治いらい百年以上にわたって、欧米の知識人の書いた英語テキストを丹念に読んでそれを理解し、その内容を自分のものとして消化するという、受動的な英語学習態度を取り続けてきた結果だと言えましょう。20世紀末になって、少なくとも経済面では、日本が目指していた先進諸国に追いついてしまいました。そこで私たちは、諸外国に対する積極的な態度への転換が求められました。しかしいったん身についた態度は容易には変えられません。英語を使って自分の考えを述べるのはいぜんとして不得意で、やはり英語のテキストをありがたく押し頂いて、その内容を正確に理解しようとするほうを得意とします。語彙についても、自分の必要とする語を自分で選んで覚えるよりも、テキストに出てくる未知語を丹念に取り出して訳語をあてはめ、それを一覧表にして記憶しようとします。実際に、多くの学習者は語彙の学習と言うと、ノートやカードに単語のスペリングと意味を書いて持ち歩き、それらを丸暗記しようとします。彼らは概して勤勉ですが、それが語彙の学習だと考えています。この丸暗記法は日本人だけではなく、韓国や香港などの学生の特徴でもあるらしく、アジア諸国に広く見られる共通した特徴でもあるようです。

 このような語彙学習に対する消極的な態度と、学習法に対する偏狭とも言える暗記法を身につけてしまった人々は、他の学習ストラテジーを教えられても耳に入りません。先日、語彙学習に関する興味ある論文( ‘Vocabulary and good language learners’ by Jo Moir and Paul Nation 2008)を読みました。それはニュージーランドでの数週間の英語集中コースに参加した学生たちを対象とした研究報告で、被験者は日本人を含む9人のアジア人(日本2、韓国2、香港1、中国1、スリランカ1、バングラディッシュ1)と1人のソマリア人でした。彼らに実験者の作成した「語彙研究ノート」を配布し、語彙学習に関する数種類のストラテジーを個別に指導しながら、配布したノートを使って毎週30語から40語を自分で選んで学習させ、その成果をしらべるために毎週テストを課しました。その結果、実験者の期待した成果を挙げたのはソマリア人だけで、他の9人のアジア人学生たちは実験者の期待を完全に裏切りました。どういう点が期待外れであったかは、次の4つの項目にまとめることができます。

 ① 学生たちは学習すべき語を自分で選択するように指示されたにもかかわらず、彼らの選択は行き当たりばったりで自律性を欠いていた。彼らのしたことは、テキストの中から未知の、難しそうな語を選ぶということであった。

② それぞれの語には意味以外にいろいろな情報が含まれており、語彙指導の過程でそのことに再々触れられたにもかかわらず、学生たちはそのことに関心がうすかった。彼らは辞書に出ている最初の訳語だけで満足し、語についてそれ以上深く知ろうとはしなかった。

③ 語を自分のものとするにはいろいろな場面でそれを使ってみる経験が必要であるにもかかわらず、学生たちにはそのような意識が欠けており、語を経験するのに必要なさまざまなストラテジーを用いることもしなかった。

④ 学生たちは週ごとに実施される語彙テストに良い得点を得たいという短期目標にこだわり、丸暗記によって当面の課題を切り抜けようとしていた。したがって、彼らの用いる語彙学習のストラテジーはきわめて限られていた。

 ここに挙げられた4つの問題点—①自律性を欠いた学習語彙の選択、②語を深く知ることへの関心の欠如、③語の使用経験の欠如、④学習ストラテジーの限定的使用(語彙リストの丸暗記へのこだわり)—は、日本人学習者の語彙学習についての一般的特徴をよく示していると思われます。彼らの多くは非常に勤勉ですが、語彙学習に必要なアウェアネス(認識)を欠いているようです。そこで次回には、これらについて少しくわしく見てみようと思います。(To be continued.)