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< 韓流ドラマ「イ・サン」と「龍馬伝」>  松山 薫

NHK・BS2で1年半にわたって放映されていた韓国歴史ドラマ「イ・サン」が終った。このドラマは、大河ドラマ「龍馬伝」の再放送の直前に放映されていたので、自然に両者を比較することになったが、実を言うと、「イ・サン」の余韻を味わううちに、「龍馬伝」の方はどうでもよくなってしまった。

 「イ・サン」は、およそ500年の李氏朝鮮王朝の歴史の中で最も英明の誉れ高い第22代世祖・李祘(イ・サン)の波乱に満ちた50年の生涯を描いたものだが、十分に練り上げられ積み重ねられた77話の最後に訪れる悲劇は、自然な涙をさそった。ドラマであるから当然fictionがちりばめられているが、大筋は史実に沿って展開されている。イ・サンの父は、国王の世子であったが、謀反の疑いをかけられイ・サンが11歳の時に非業の死を遂げる。イ・サンは謀反人の子として宮廷内で疎んじられ時には暗殺の危険にさらされながら、学問に励み、24歳で王位についた。彼は、25年にわたる治世を通じ、身分制度を廃し、能力による人材の登用によって、自由で平等な国を創ろうと一貫して努力したといわれる。当然既得権にしがみつく旧守派とは命を懸けた対立が生じ、幾たびとなく危機にさらされるが、これを救うのが、才能豊かな新旧二人の側近と幼い頃から固く結ばれた二人の友であった。イ・サンが、重臣達の反対を押し切って自分の理想を貫いていく中で、その理想に共鳴し、彼を助けて献身的に働くこれら同志達の身分を超えた友情が見所である。しかし、彼は、身分を超え王位をかけてやっと結ばれた恋人と、世子となったその子供を相次いで病で失う。また心労と激務の中で、自身も差別のない国への夢半ばにして49歳の生涯を閉じた。反対派による毒殺という説もあるが、近年では、過労による悪性腫瘍が死因という見方が有力だという。それに、この歴史ドラマはシリアスな展開の中で、景福宮などの朝鮮の伝統的宮殿建築や見事な調度品などをふんだんに見せてくれる。つまりは視聴者に対するサービス精神にも満ちているのである。韓国ではTVドラマや映画は国策輸出品のようなので、かつて数十カ国で放映されたNHKの「おしん」がそうであったように、万国共通の人間愛の物語に、自国の伝統をからませて感動的な韓流ドラマに仕上げている。

 一方、NHK大河ドラマ「龍馬伝」の展開は、1人のエリート的人物を、周囲がよってたかって英雄に仕立て上げるというこれまでと同じ手法で、権力闘争の中での下克上はあっても、民衆との接点はほとんど見られない。大げさなテーマ音楽とともに延々と続く出演者やスタッフの名前の羅列など視聴者無視の自己満足にも辟易した。また、この二つの長編歴史ドラマを見比べていて、一部の人にしか必要のない高級機能を付加価値とする日本の電気製品が、実用機能に徹したサムスン、大宇、LGなどの韓国製品に中国や東南アジアなどで席捲されつつあることを想起せざるをえなかった。牽強付会の見方であろうか。

 ところで、昨年は日本の韓国併合100年の年であった。世祖から4代目に当たる高宗の妻、閔妃(ミンピ)が景福宮で日本人らによって暗殺され、次の代で朝鮮王朝は歴史を閉じ日本に併合された。閔妃暗殺の当時、日本外交を担っていたのは亀山社中、海援隊を通じての龍馬の側近、陸奥宗光であった。(M)