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< 日本の生きる道「文春」vs「世界」① > 松山薫

 天災と人災が絡まりあった東北・関東太平洋沿岸の大災害に直面して、我々は今後どう生きていくべきなのか。「文芸春秋」と「世界」がそれぞれ5月号で特集を組んでいる。これらの特集に寄稿した論者達が、パラダイムの転換(paradigm shift)を必要と考えているのかどうかに焦点を当てて読みくらべてみた。
*パラダイム(paradigm ある時代に支配的なものの見方、考え方)
 文芸春秋誌の特集「日本人の再出発」に寄稿した41人の“叡智”のうち、私の判断では、従来の延長線上での再出発を唱えている人が22人、shiftが必要だと考えていると読み取れる人は12人、不明7人という色分けになった。この雑誌は、大災害の直前の4月号で125人の”識者”による「警世の紙つぶて」と題する特集を出しているが、5月号の特集に寄稿した41人のうち3分の2以上の29人は4月号の寄稿者と重複しているから、前回の特集のコメントで指摘したように、復古調が目立つのは当然かもしれない。それにしても、延長線上での再出発を唱える22人の中には、延長線を逆に延ばして、生きる原点を大和魂、明治天皇御製、はては大和神話に求めるものまであるのには吃驚した。つまりは、一致団結して“国難”にあたろうという精神論が大勢で、戦争中の非常時、挙国一致、国民精神総動員を思い出す、そのせいか、具体的な提案では、徴兵制の復活というのもあった。そして、おしなべて、“絆”が強調されている。大災害後の4月に実施された統一地方選挙用の自民党の選挙ポスターは、白地に赤い丸の中に「絆」と染め抜いたものだった。
 
 確かに人間同士の絆は大切だ。団地の高齢化対策アドバイザーをしていて、つくづくそう感じている。しかし、それを国家主義に結び付けようとする下心がみえすいているものには強い違和感を覚える。これについて、私と同年齢の小沢昭一は「絆を強調ちょっとだけ心配」と題して次のように述べている。「戦後はみんな何もかも失って貧しかった。でもその代わりに自由なるものを味わって、これにすがりつこうと思い、皆が希望を持った。今度こそ貧乏をばねに俺の好きな生き方をしよう。大変だけど、やってみようじゃないかとひとりひとりが独立心を持った。だから、今度一致協力とか絆なんてことが強調されるとちょっと心配なんであります。いつかまた、あの忌まわしい一億一心への逆戻りの道になりやしないかと、そんな気がするんですね。だから私たち世代には絆ってのはちょっと怖い言葉なんです。若い人達には新鮮な言葉なんでしょう。いつの間にか意味がすりかわらない様に、気をつけなくちゃいけませんよ」(朝日新聞4月24日朝刊所載)付言すれば、小沢は敗戦の時、海軍兵学校の生徒だった。
* 国家主義 国家を人間社会の中で第一義的に考え、その権威と意思に絶対の優位を認める立場。全体主義的な傾向を持ち偏狭な民族主義・国粋主義と結びつきやすい。(広辞苑)

 一方、パラダイムの転換が必要とする12人の論者のうち、医師で作家の鎌田実は、1.徹底した情報公開 2.経済最優先の考えを改める 3.異端を排除しない社会の講築 によってパラダイムの転換をと訴えている。また堺屋太一は、具体的な提案として、1.戦後日本をリードしてきた官僚主導、業界協調体制の否定 2.外国を怖れぬ心理と状況の創造 3.東京一極集中から地方主権の道州制への転換などを挙げ、これによって真に創造的自由のある体制を築くことができるとしている。私が最も惹かれたのは、堺屋の言う創造的自由を極限まで押し広げた元「さきがけ」代表、武村正義の、人口減少を奇貨として、50年後を目指して日本を農業を基盤とした国に作り変えるという提案である。地球温暖化や世界の人口爆発を考えれば、環境保全と食糧の確保とを基盤としたこの提案は決して荒唐無稽なものではないと思う。
 
 前回の特集で「命を大事にする国をつくるための大国民会議」を提唱した柳田邦男は、「問われる日本人の想像力」という独立の論考を発表し、原発事故に関して「想定外」という言い訳を痛撃し、今回の大災害の最大の教訓は、「まさか」とか「想定外」という発想に象徴される日本と日本人の思考のパラダイムを転換しなければならないということだと断じている。こういう発想に立てば、武村の提案を柳田の提唱する国民会議で、日本人の想像力を最大限に発揮して実現の可能性を探ることもできるのではないか。
 
 ところでこれも、特集部分ではないが経団連の米倉会長は「日本経済復興プロジェクト」という寄稿のなかで、「国難に国民が一丸となって立ち向かうよう」呼びかけ、会員の企業や個人が経常利益や可処分所得の1%を寄付したと報告しているが、250兆円と言われる企業の内部留保金や新自由主義で決定的となった富の偏在などを考えると、一桁違うのではないかという感をぬぐえない。前回の特集で「金持ちは国に寄付しろ!」と叫んだロックンローラーの内田裕也は、今度の特集では、「政治家は給料の50%を寄付しろ!ハトヤマは10億円寄付しろ.・・・言葉よりアクション!!」と吠えている。(M)