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英語文法の学習(11)

Author: 土屋澄男

文法の知識と、それを技能に結びつけるノウハウの知識が別であるとすれば、英語学習の練習は次のようなものでなるでしょう。それは、学校の授業や学習参考書で学習する文法知識や、学習中に自分自身で気づく文法規則などを、実際に使うことのできるノウハウの知識に転換するための練習です。私たちの経験では、ある規則は比較的に容易に使えるようになります。たとえば「人を表す名詞の所有格をつくるには語尾に ’sを付ける」というのがあります。この規則の間違いをする日本人はめったにいません。中学生でもmy father’s birthdayと正しく言ったり書いたりできます。しかしそうでない規則もあります。同じ間違いを幾度も繰り返し、それもかなり長期にわたって続くことがあります。3単現の規則などがその1つです。動詞の時制などもなかなか難しい。過去のことを述べているときに、同じ文の中に複数の動詞が使われると(複文などの場合)、その中のどれかを過去形にすることを忘れてしまうという間違いをします。これらは文法知識としては持っているはずなのに間違える。つまり、ノウハウの知識になっていないということです。どういう場合にそういうことが起こるかを調べてみると面白いことが分かります。それはやはりそうなる理由があるのです。

 私たちは話をするとき、意識の大部分は伝達しようとする話の内容にあり、どのように表現したら相手に分かりやすくなるかに集中しています。語句や文の文法形式については、意識は非常に制限されています。ですから、言語形式は自働化されているものだけが正しく表出され、そうでない項目についてはそこに意識を分配する余裕がないので、誤りを避けるわけにはいかないのです。ですから、間違いをしないように内容だけでなく形式も同時に意識しようとすると、発話は流暢に進行しません。文字通りbroken Englishになります。かなりの習得段階に達していても、話の内容によってはブロークンになることがあります。その場合は、話の内容そのものに意識が行っている中で、語の選択や文の組立てにも意識の一部が割かれるからです。これは書くときにも同じなのですが、書くときは話すときよりも時間に余裕があり、文章の内容だけでなく形式にも時間がかけられるので、ブロークンの度合いはかなり緩和します。むかし東京高等師範の卒論を書いたときのことを思い出します。卒論のテーマはかなり高度な内容のもの(Matthew Arnold and his Criticism)だったので、自分の習得レベルを超えた英文に仕立てあげるのに苦労しました。半分くらいは原典の引用だったと思います。当時はネイティブ・チェックなどということは考えもしなかったので、出来上がった英文はひどいものだったに違いありません。それでも合格点がもらえたのは、たぶん担当の先生のお情けだったのでしょう。

 本題に戻って、習得途上にある学習者が限られた時間で英語を産出する場合には、言語形式の処理は大きな制約を受けます。やや専門的な表現になりますが、言語の産出に際してその処理を行なうワーキング・メモリー(短期記憶のこと)のスペースが非常に限られているので、言語形式(文法規則)の処理はほとんど自動化されているものだけに限られるのです。まだ自動化が完了していない項目は、回避されるか誤って使われます。これは最近の外国語学習の研究で発見された重要な法則です。ドイツにおけるトルコ人労働者のドイツ語習得を研究したピーネマン(Pienemann, 1998)によると、第2言語習得における言語処理の発達順序には次の5段階があり、第1段階から順次に自働化がなされていくというのです。ですから下位の段階をスキップして上位の段階には進めないのです。

  (1) 語彙へのアクセス、(2) 名詞・動詞など、語の文法的カテゴリーの処理、(3) 名詞句・動詞句など、句構造の文法処理、(4) 主語・述語など、文の文法処理、(5) 従属節(複文)の文法処理

ピーネマンのこの言語処理手続きの順序が、そのまま日本人の英語学習に当てはまるかどうかは議論のあるところですが、この理論(「言語処理可能性理論」と呼ばれる)は説得力があります。知識があるのに使えないという、私たち日本人の英語スキルの特徴をうまく説明してくれるからです。

 このことから次のことが言えます。英語学習には練習が不可欠ですが、やみくもに練習すればよいというものではないということです。物事にはすべて順序があるように、英語の習得にも順序があります。「まず語と語の並べ方から始めよ」というのが、筆者の英語学習法の第一の勧めです。意味のまとまりの最小単位をチャンクと呼びますが、まずは英語のチャンクをできるだけ多く身につけることこら始めたらよいと思います。(To be continued.)