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< 私見 日本の生きる道 ③−4 > 松山薫

③−4 病根を抉る

 前回述べた反安保闘争で岸内閣が倒れた後、「所得倍増計画」を掲げた池田内閣が発足して、日本はエコノミック・アニマルと呼ばれながら経済発展を至上命題として突き進み、50年が過ぎた。物質的には豊かになったが、この国はどこかおかしくなったと多くの人達が感じていたのではないか。文芸春秋誌はそれを読みとって「これが私たちの望んでいた日本なのか」という特集を組んだのだろう。その直後に起きた巨大地震、大津波、原発事故という未曾有の大災害を東京都知事の石原慎太郎は、「天罰だ」とコメントして非難を浴びたが、私は、このうち原発災害についてはこれを、日本人全体に対する「天啓」であると感じている。

 「天啓」とは、天が真理を人間に示すことである。(広辞苑) 私には、この原発災害の中に、日本が安保以後50年にわたる経済発展が日本人を徐々に冒してきた病根の多くが内包されているように思える。そこで、文春の特集「これが私たちの望んだ日本なのか」の中で、識者達が挙げたいわば日本の病根を、私なりに整理して列挙すると次のようになる。

① 国家観に関するもの
対米従属  外交能力の欠如 大局観の不足 国家ビジョンの欠如  国家戦略の欠如  発想力の貧困  理念の不在 国民的合意形成努力の欠如  国民的合意の欠如  自国の能力に対する過信、錯覚 危機意識の欠如  国民の自信と誇りの欠如  国民としての誇りの欠如 現状分析の不足 現状認識の甘さ

② 国内政治に関するもの
官僚支配体制  中央集権体制  地方分権、地方主権への理解不足 政治家の堕落  政治家の餓鬼化  国会議員の劣化  一党支配体制の残渣
野党の力不足  小選挙区制の弊害  首相公選制がないこと  政権の不安定 
ポピュリズムの横行  愚かな国民  国民の政治的無関心  

③ 経済に関するもの
財政破綻  地方の疲弊  少子高齢化  世代間の不公平  社会保障制度のひずみ 犯罪的経済人の跋扈  不公平・不公正税制   富の偏在  女性差別
若者の雇用不安

④ 社会に関するもの
自己犠牲の精神の欠如  利己主義  ハングリー精神の欠如  独立自尊の欠如 環境への無関心  個性の欠如  根性の不足  自国の文化の軽視 正義感の欠如  自由万能の考え方  公共心の欠如  直ぐに謝る文化 寛容の精神の欠如  足るを知ることの欠如   欲望の肥大化  責任感の欠如
先送り主義 (面倒なことはやらない)  チャレンジ精神の欠如  和の精神の欠如
助け合い精神の不足  他者への無関心  連帯感の欠如  モラルの低下
進取の気性のなさ  夢の欠如  目先の利益優先  他力本願  リーダー不足

⑤ 教育に関するもの
自分の頭で考えない 戦後教育の欠陥  偏差値万能主義  受験競争 躾の欠如  道徳教育不在  人材選別の権威主義  国際的に通用する人材不足

 日本人は戦後、敗戦という事実の検証と責任の所在の追及を自ら行なうことなく、占領軍という他者の判断と誘導によって立ち直り、他者を頼って生きてきた。今度こそは、自らの判断で生きる道を決めねばならない。上に挙げたもののうち、真の病根を抉り出し、それらはどうすれば克服できるのか。それを真剣に検討することが、大災害を克服し、次の50年へ向けて日本を再建するための基盤になりうると思う。

 昨年の夏、倉本聡の「帰国」というTVドラマが放映された。南溟の果てに眠る日本軍の一部隊が、ある夜、軍用列車に乗って東京駅に着く。兵士達はそれぞれゆかりの地を訪ねて、故国の復興振りを見て歩く。ビートたけし扮する上等兵は、経済発展の中で自分の妹である母親を見殺しにしながら事業に成功した甥を訪ねて詰問し、刺し殺して再び暗い海底へ帰っていく。大江健三郎が言う「あいまいな国」のあいまいな国民であった我々大多数の日本人は、今度こそ自らの判断と力で生きていく道を選ばなければ、何十万という震災の犠牲者や原発災害の被災者はもとより、3百万人を超える戦争の犠牲者も浮かばれないだろう。(M)