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日本の高校生では、おそらく、1つのチャンクが10語を超える長さになると、短期記憶の容量を超えてしまうことがあると思われます。すると、それをひと息に読むことが難しくなります。できるだけ10語以下になるようにチャンキングしてみてください。そうすると、何通りかのチャンキングが可能であることが分かり、それによって読み方がいくらか違ってくることに気づくでしょう。たとえば、前回挙げたアリスがうさぎの穴に落ちていくときの様子を描いた最初の文は、次の(1)のようにできるだけ小さなチャンクにして読むときと、(2)のようにやや大きめのチャンクにして読むときでは、リズムやイントネーションが微妙に違ってきます。一度声に出して読んでみてください。

(1) The rabbit-hole / went straight on / like a tunnel / for some way, / and then / dipped suddenly down, / so suddenly, / that Alice had not a moment / to think about stopping herself, / before she found herself falling down / what seemed a deep well. //

(2) The rabbit-hole went straight on / like a tunnel for some way, / and then dipped suddenly down, / so suddenly, / that Alice had not a moment / to think about stopping herself, / before she found herself falling down / what seemed a deep well. //

(1)の読み方は、この文章を初めて読むときや、小さな子どもに読んで聞かせるようなときの読み方になるでしょう。読む速度は非常に遅くなります。英語ではそれぞれのチャンクの最後のところで音調が変化しますから、これだけたくさんの切れ目があると音調の変化が頻繁に起こり、よほど表情をつけて読まないと聞いている人は退屈します。(2)はそれぞれのチャンクが数語ですから、「7±2」の範囲に収まっており、高校生以上の学習者ならば、すこし練習すればさほど無理なく読めるようになるでしょう。ネイティブ・スピーカーが読むような、もっと自然な読み方では、さらに大きなチャンクになると思われます。このテキストではコンマがチャンクの切れ目を示しています。原作者は、明らかに、このテキストが読まれるときのチャンキングを意識して書いています。

 このように音読は書かれた文章を音声化する作業です。それは英語の音声システムを自分のものにする大切な学習活動です。文章のすべてが音声化されることを期待して書かれているわけではありませんし、どのようにしても、うまく音声化できない文章というのがあります。そういうテキストは初級や中級の英語学習者には不向きです。しかし現代語で書かれる普通の文章の多くは、作者自身の頭の中に響いてくる音が文字に変換されるという作業が無意識的になされており、作者はいつも意識しているわけではないけれども、それが読者によって音読されることもある程度予想しています。いちばん分かりやすい例は戯曲です。戯曲は作者の書いた文章がそのまま俳優によって発話されることを前提としていますから、俳優はそれぞれの台詞を暗記し、自分のものとし、それをあたかも自分の言葉であるかのように発し、演じるものです。すぐれたエッセイもそうです。上記のルイス・キャロルの『アリスの地下の冒険』は子どもを楽しませるためのファンタジックな童話ですが、それは10歳のアリスによって声を出して読まれることを作者は期待しています。ですからこういうテキストをたくさん音読することで、英語という言葉の響きとリズムと抑揚を身につけていくことが大切だということがお分かりいただけたと思います。英語の母語話者もたぶん幼い頃からそのようにして英語の音声を身につけました。私たち日本人もそのようにして日本語の音韻システムを身につけました。英語学習の第一歩は良いテキストの音読から始めるのがよいというのが筆者の主張です。

 先ほど送られてきた雑誌を見ていたら、シェイクスピア研究者として著名な東大教授・河合祥一郎氏の文章が目にとまりました。「私はこうして英語をモノにしました・・・」というエッセイで、高校生のとき、BBC制作のJane Eyreのラジオドラマを録音して文字に起こし始めたが、音だけでは不安なので、ペンギン版の原書を買ってきてその文字を追いながら録音を聴き、最後には朗読されたすべてを文字に起こしてタイプ原稿を完成させたというのです。これはすごい! 河合氏は今も英語の原書を学生に音読させ、毎回30ページくらい読み進める授業をなさっているそうで、次の言葉に感銘を受けました。「そうした授業を通して改めて、洋書は音読して読むのが一番だと実感している。発音してみて初めて作品がどんな音で綴られているか理解できる。自分で朗読した後、ネイティブによる朗読を聴いて読み方のコツを学びとる時間があれば理想的だ。」(「英語教育8月号」大修館書店、p. 13)これはまさに筆者の言いたいことを代弁してくれています。 (To be continued)