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ここで音読の効用についてまとめておきましょう。音読は、第一に、英語の音声的技能をしっかりと身につけさせてくれます。私たち日本人にとって英語は日常語ではありませんから、母語のように自然に身につけることは困難です。意味のよく理解できた英文をたくさん音読することによって、意識的に、英語らしい発音を身につけていく必要があります。学校で習えば自然に発音が上手になるわけではないのです。その発音はネイティブ・スピーカーと同じレベルの発音である必要はありません。しかし理解可能な、英語らしい発音でなければなりません。そのためには、子音や母音の発音だけではなく、正しい区切り方(チャンキング)、強勢とリズム、イントネーションを身につけることが重要です。音読はそのための非常に良い練習の場を提供してくれます。英語の知識は充分に持っているのに、発音が悪いために損をしている人がなんと多いことでしょうか。その人たちは自分が英語の発音に向いていないなどと、悲観的に考えているのではないでしょうか。どうかそういうマイナス思考から脱却して、自信をもって発音できるように、自分自身の英語を作り上げてください。

 英文の音読によって得られるものは英語の音韻システムだけではありません。チャンクは「語が集まって意味的にまとまりをなすかたまり」ですから、それは英文を理解するときだけでなく、英語で発話をしたり文章を作成したりするときにも、頭の中で(ワーキング・メモリーとして)処理される重要な単位となります。そのような語のかたまりを「語彙チャンク」と呼ぶとすれば、英語が使えるようになるには、語彙チャンクをどれだけ多く蓄え、どれだけ自由に使えるようにするかが当面の課題になります。それらは、このブログの「英語文法の学習」ですでに述べたように、形式的には名詞句・動詞句・形容詞句・副詞句・前置詞句などですが、それらの中には多数のイディオムや慣用表現やコロケーションが含まれます。良い英文を何回も音読し、有用と思われるチャンクを記憶し、それらを実際の発話や作文で幾度も使うことによって、必要な言語能力が養われるのです。

 次に音読は文法規則の自動化に役立ちます。これは以前にはあまり言われなかったことですが、最近ようやくこのことに気づかれるようになりました。正しい音読をするためには、英文を正しく区切ること(つまり「チャンキング」すること)が必要ですが、そのためにはいろいろな文法の知識が必要です。たとえばどれが主語の名詞句でどれが動詞句か、またどれが動詞でどれが修飾語か、などの基本的な知識が不可欠です。これらの知識は英語のもっとも基本的な知識であり、この知識なしには英文を理解することも作り出すこともできません。音読はそのような知識をただ頭で理解するのでなく、実際に声を出して言葉を体験することで、感覚的に瞬時に認識する能力を養うのに役立ちます。同時に、他の諸々の文法規則についても、反復によって自動化されます。

 音読のもう一つの効用は、それをスピーキングの技能へと発展させることが容易なことです。音読はそれ自体を楽しむという面もありますが、音読の方法を少し工夫すれば、それをスピーキングに発展させることができます。舞台や映画の俳優たちは台詞を覚えなければなりません。台詞を覚えるためにはまず音読することから始めます。次に、人によっていくらか違うかもしれませんが、台本を見ないで言う練習をするはずです。学校の英語の授業で ‘read and look up’ という練習をしたことはありませんか。テキストを目で見て、次に顔をあげてそれを反復するというものです。まず短いチャンクから始めて、慣れてきたら一口で言うチャンクを長くしていきます。テキストを音声化したものがあればそれを聴き、文字を見ずに、間を空けずについていくという練習法(shadowing)もあります。暗唱は得意な人と得意でない人がありますので、得意でない方はあまり無理をせずに、read and look upで留めておいて結構です。それでも、自分で文を作るとき、記憶したチャンクがほとんど無意識に頭の中から出てくるということがある筈です。そのような言葉の無意識的な使用が習得につながります。筆者は以前に『英語コミュニケーションの基礎を作る英語指導』(研究社、2004)という本を書きましたが、その中で、音読について次のように書きました。「英語によるコミュニケーション能力を養うためには、まず英語の音韻と統語の基本的システムを習得し、自分の意志を伝達するのに必要な基本的語彙および語彙チャンクを蓄積することが必須である。これらの基礎的言語能力なくしてコミュニケーションは成り立たないのである。そして、基礎的言語能力を養成する最良の方法は音読である。」(p. 155) この考えは今も変わっていません。(To be continued.)