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今回は基本的言語技能(basic language skills)の学習についての誤解を取り上げます。一般に、言語の習得は聴き・話し・読み・書く技能を獲得することであり、それらに習熟するプロセスが言語学習だと考えられています。この理解は間違っていません。しかしその具体的な学習法については、いくつかの誤解があるように思われます。

 まず、これらの言語技能をバラバラに学習するのがよいという信念が一部にあります。聴くことはたくさん聴くことによって、話すことはたくさん話すことによって、読むことはたくさん読むことによって、書くことはたくさん書くことによって習得できると考えるわけです。たしかに、たくさん聴かなければ聴けるようになりませんし、話す機会を多く持たなければ話せるようになりません。しかし私たちはそのような機会をどうしたら得られるでしょうか。母語のように四六時中その言語に触れている環境ではそういうことは可能でしょう。赤ちゃんは一日の大半を眠って過ごすようですが、目がさめている時間の大部分は周りで話されている言語を耳にします。赤ちゃんの心は、生まれつき、そういう話し声の中から一定の音のパタンを拾い上げるようにセットされています。しかし大人は違います。日本語を母語として習得した人は、聞こえてくる音声を素直にキャッチする能力を失っています。しかも言語環境が大きく違います。自分の身の回りに絶えず英語を耳にする環境は、自ら努力して作らないかぎり手に入りません。そこでこれらの技能をバラバラにして、ある時はテープやCDでひたすら英語を聴き、他の時には英語をできるだけたくさん話すようにする、またはもっぱら英語を読む、といった活動に分割することになります。このような学習法の問題点は、それが単調な活動になりがちで、しばしば退屈をもたらすことです。それゆえ非常な努力を必要とします。しかし、英語学習に成功する人は、そのような退屈な活動にも耐えることのできる努力の人だというのは誤解です。成功する学習者は、もっと自然な言語使用場面をシミュレイトするような練習法を工夫しています。

 私たちの日常の言語活動は、ちょっと考えてみれば分かるように、4つの言語技能をそれぞれ単独で行なうよりも、複数の技能を組み合わせて用いるのがむしろ普通です。たしかに、講演会や学校の講義に出席してもっぱら聴くことに費やす活動というのもないわけではありません。終日ひたすら読書をして過ごすこともあるでしょう。しかしそれらはむしろ例外的な活動であって、もっと普通の日常生活では、相手の話を聞いて質問をしたり自分の感想や意見を言う、誰かに話をしてその人の意見を聞く、相手の話を聞いてメモを取る、手紙やEメールを読んで返事を書く、書かれた文章を読んでその概要や感想を他の人に話したり書き送ったりする、などの活動が一般的でしょう。私たちの英語技能の使用も、複数の言語技能を組み合わせて、そのような日常的な言語活動に近づけたほうが自然であり、やみくもな努力も少なく、したがって確実に学習成果も上がります。ただし、そのためには話し相手、文通相手、メール友だちなどが必要です。英語でコミュニケーションする相手は英語のネイティブ・スピーカーとは限りません。英語を第2言語または外国語として学んでいる人たちでけっこうです。英語技能に習熟するカギは、そういう仲間や友人を幾人か得ることです。

 言語技能に関してもう一つ、技能習得順序の問題を取り上げます。母語の習得ではまず聴くことから始めて、次に話すことに進みます。正常な子どもではこの順序がひっくり返ることはありません。また、聴き話すことがかなりできるようになってから読み書きに進みます。これもほとんど議論の余地はありません。それが自然な言語習得の順序だとみなされています。ところが成人の外国語学習の場合には、しばしばこの順序が破られます。そしてそのことがしばしば議論の対象になります。その議論はやや専門的になりますので、ここでは結論だけを述べます。コミュニケーション能力の養成をめざす基礎段階では、この自然な学習順序はできるだけ守ったほうがよいと考えられています。しかしこれは教育する側の論理なので、学習者はあまり気にすることはありません。それよりも、学習者はインプットとアウトプットを意識したほうがよいでしょう。つまり、話すためには聴けることが前提であり、書くためには読めることが前提になるということです。この順序を間違えると、努力しても思うような成果は得られないでしょう。話し言葉と書き言葉の順序に関しても、前者から後者へと進むのが自然ですが、外国語学習環境では耳からのインプットはどうしても制限されますので、その逆の順序<つまり読み書きから聴き話へ進む>の併用も認められると思います。(To be continued.)