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< TPPを考える ③ >

③ 自由貿易と経済ブロック

 第二次世界大戦の背景には、1930年代の大恐慌に対応するための列強の ①平価の切り下げによる輸出ドライブと世界市場の奪い合い、②植民地を巻き込んだ関税障壁の引き上げによる排他的経済ブロックの強化があった。このような歴史への反省から、戦後世界の永続する平和を確保するための基盤として、安全保障面での国際連合とともに、①通貨の安定をはかるIMF(国際通貨基金)と ②互恵平等の自由貿易を目指すGATT(関税と貿易に関する一般協定)が設けられた。これらの設立を主導したのは超大国となったアメリカであったが、アメリカ議会はGATTの批准を拒否した。第一次大戦後、国際連盟の設立を主導しながらアメリカ議会が批准を拒否したのと似ている。要するに、枠組みの恩恵は受けるが、自国の具体的な不利益は拒否するというのがアメリカ議会の常套手段である。
  
 敗戦国の日本は、戦後10年の1955年にGATT加入を許され、1959年には、戦後初めての日本での大規模な国際会議としてGATT東京総会が開かれた。この会議を取材中に親しくなったGATT事務局員の中に、戦後直ぐ進駐軍の兵士として日本に駐留した人がいた。彼は、再び訪れた日本の復興振りに驚き、「そのうち日本はアメリカのライバルになるかも」と言って笑った。当時、日本は、まだGATT35条の援用国という差別待遇を受けており、外貨準備高は数十億ドル(現在は1兆3千億ドル)しかない状態であったが、彼の予感は的中した。GATTの恩恵を最も大きく享受したのは日本であると言われている。GATT参加のおかげで日本の輸出は飛躍的に伸びて、早くも60年代にはアメリカを脅かすまでになった。

 それを象徴するのがアメリカの対日貿易赤字の増大、それに伴う繊維、自動車、半導体、政府調達などをめぐる日米貿易摩擦であった。アメリカ側は日本に自由貿易とはうらはらの輸出規制と内需拡大を求めて圧力を強め、前にもこのグログに書いたが10年間で公共投資を10倍にせよという要求まで持ち出し、日本はこれを飲んだ。日本はアメリカに守ってもらっているという負い目、アメリカは日本なしでもやっていけるが、日本はアメリカなしではやっていけないとい引け目が、2国間協議ではこういう結果をもたらす。今年締結され、批准をめぐって韓国の国会で催涙ガス騒ぎが起きた米韓FTAについても同じことが言えるだろう。

 一方、GATTやWTOのような多国間(多角的)交渉では、大国のエゴは通りにくい。GATTの場で、日本が本格的にアメリカと争った数少ない事例に、冨士フィルムとコダック社の外資規制などについての紛争がある。この争いはGATTを引き継いだWTOの紛争小委員会の場で日本側の勝訴となった。GATTは、1995年に発展的に解消して、関税のみでなくサービス産業や知的財産権をも扱うWTO(世界貿易機関)となったが、先進国と途上国、とくにアメリカとインドの確執で、ここ数年間停滞している。死んだわけではないが、その行き詰まりの陰で、2国間或いは数カ国間の地域貿易協定を結ぶ動きが活発化した。現在、世界で300を超えるという。しかし、加盟国すべてを平等に扱うルールのあるWTOと異なり、小国は交渉の埒外におかれる。ちなみに、ロシアのWTO加盟が、申請から18年を経て先月決定したが、最終段階で長引いたのは小国グルジアが反対したからで、アメリカなどが説得に当たった。ロシアの加盟でWTOは世界貿易の98%をカバーすることになる。

 地域ブロックとして最大のものはいうまでもなくEU(ヨーロッパ同盟)である。EUは1952年欧州石炭鉄鋼共同体として発足し、1958年に欧州経済共同体になり、さらに政治的統合を目指して参加国を増やしてきた。冷戦終結後は旧東欧諸国をも含めた地域ブロックに成長し、現在の加盟国は27カ国にのぼる。これに対抗してアメリカは、1994年、メキシコ、カナダとNAFTA(北米自由貿易協定)を結んだ。アジアではASEANを中心に連携が進んでおり、日本も2002年のシンガポールを初めとして、年代順に、メキシコ、マレーシア、フィリピン、チリ、タイ、ブルネイ、インドネシア、ベトナム、ASEAN,スイス、ペルーそしてインド(2011)とEPAないしFTAを締結、或いは交渉を終わり、韓国、中国、湾岸諸国、及びオーストラリアと交渉中である。TPPはその流れを一層促進させることをねらっている。だが、WTOのように公正な交渉によってルール作りが進められるかどうか懸念が残る。(M)

* GATT (関税と貿易に関する一般協定 ガット the General Agreement on Tariffs and Trade ウルガイ・ラウンドの参加国 125)
* WTO (世界貿易機関 ダブリュ・ティー・オー the World Trade Organization ドーハ・ラウンドの参加国 153)
* FTA (自由貿易協定 エフタ free trade agreement ) 関税や企業への規制の撤廃など物流の自由化
* EPA (経済連携協定 イー・ピー・エー economic partnership agreement )物流に加え知的財産権、投資の自由化、人的交流など幅広い分野での連携
* TPP (環太平洋戦略的経済連携協定 ティー・ピー・ピイーthe Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement 最初の参加4カ国、現在は9カ国、日本など3カ国が参加希望)
* FTAAP (アジア・太平洋自由貿易地域 エフタープ the Free Trade Area of Asia-Pacific  APEC加盟21カ国の参加を目指すという)
* 英語の略語には、元となる語の頭文字を、アルファベット読みにする initial と、一語のように読む acronym がある。どのように読むかは慣用で決まる。initial には定冠詞をつける場合がある。(ex. the BBC )