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<TPPを考える ④−(1)手続き論>

TPP ④−(1) 手続き論

 民主主義の根幹は手続きである。手続きを踏んで物事を決めていく。反対派の意見にも耳を傾け、少数者の意見も尊重する。反対派、少数者を説得す努力も必要である。だから決定に時間がかかる。しかし、致命的な間違いを犯す危険は少なくなる。特に我々に本人の多くは、経済評論家内橋克人が言う“頂点同調主義”と“同質化傾向”に流されやすいから、民主主義の手続き論を肝に銘じておく必要がある。そういう観点からすると、国の将来にかかわるTPPに関する手続き論は重要な意味を持つ。だから、国民が内容をよく知らない内に参加に前のめりになるという民主党政権の非民主主義的手法に、多くの国民が危惧を抱かないわけにはい菅・野田!そこで、TPP問題がどのような経過をたどって今日に至ったかを検証してみたい。

<TPPをめぐる動き>

2006       P−4協定発足。(シンガポール、チリ、ブル
           ネイ、NZ)
2008−9     ブッシュ政権 P−4の交渉に一部参加。
2009−1     オバマ政権発足。
11−7  オバマ大統領来日 日本重視を強調(アジ
            ア歴訪の最初の訪問国)
11−11 米通商代表部 直嶋経産相に日本のTPP参
加 を促す。
11−13  鳩山−オバマ首脳会談。鳩山首相「東アジ
ア共同体」を提唱。
     11−14 オバマ大統領 東京のサントリーホールで演
説   アジア・太平洋地域でのパートナー
            シップの重要性を強調。
     12−14 オバマ政権 TPP参加を決定。
2010−3     9カ国交渉開始(P−4,米、豪、ペルー、ベト
ナム、マレーシア)
     10−1  菅直人首相、第176臨時国会所信表明演説
           「TPP参加を検討。11年6月までに最終判断」
           本会議および予算委員会で質疑。
     10−8  第47回日米財界人会議 両国政府にTPP実
現の支援を要請。
     10−21 日本経団連「11月のAPEC横浜首脳会合で
TPP参加を表明するよう」緊急提言。
     11−9  「包括的経済連携に関する基本方針」を閣議
決定。
            主要貿易国間のEPA/FTAの拡大に日本の
取 り組みが遅れているとして、「国を開く」固
い決意のもとに、高いレベルの経済連携を進
めることを表明した。具体的取り組みについ
は「センシティブ品目について配慮を行ないつ
つ、全ての品目を自由化交渉の対象とする」
     11−13 菅首相 APEC横浜会議を前に、経団連主催
のCEO・企業幹部の会合で挨拶 「包括的経
済連携に関する基本方針」による平成の開国
を強調、法人税の引き下げ検討を約束。
     11−14 菅首相 APEC横浜首脳会議の閉会に当たっ
ての議長記者会見で 「平成の開国」を宣言。
2011−1−14  菅首相 第177通常国国会の施政方針演説
で「平成の開国」を国づくりの理念としてうた
う。 
2     TPPのための米国企業連合(IBM,Boeing,
EXONモービルなど)米政府に貿易、投資の
障害除去を要望。
     3−11  < 東日本大震災・福島第一原発事故 >
     9−13  野田佳彦首相 第178臨時国会の所信表明
演説 「TPPの交渉参加についてしっかりと議
論し、出来るだけ早期の結論を出す」とのみ述
べる。
11−11 衆参両院予算委員会でTPP集中審議
           野党が情報不足を追及。
     11−12 野田首相記者会見「TPP交渉参加に向け
           て関係国との協議に入る」
           この会見の中で野田首相は、「TPPについては
党内で20回以上、50時間にわたって討議した」
と述べる。
     11−13 日米首脳会談(ホノルル)
           TPP交渉内容に付いて日米に食い違い。
アメリカ国務省「野田首相は、貿易自由化交渉
には全ての物品、サービスをのせるとオバマ
大統領に語った」と発表。
            外務省「事実無根」と抗議。日本政府訂正求め
ず。
     11−13 APECホノルル会合 野田首相 P-9との協議
開始を伝える。
     11−17 オバマ大統領キャンベラで演説
           「米国はアジア・太平洋を最優先」「誰もが従う
べきルールが、国際経済システムに存在す
る」「TPPは地域全体のモデルになりうる」
     12    メディア各社の世論調査で、野田内閣の不支
持率が、発足3ヶ月で支持率を上回った。TPP
に関して「国民に十分説明されているか」と
           いう設問には70~80%がNo.と答えている。
 
この年表を眺めていると、日本政府が、十分な国内的準備もないまま、アメリカの世界戦略にまきこまれていく様子が浮かび上がってくるではないか。この間、交渉の内容についてまともな情報が取れなかったとすれば、政府の情報収集能力の欠如は度し難く、もはや、間抜けとしか言いようがない。また、知っていて明かさないのであれば、民主主義国の政府として国民への裏切り行為である。民主党内でのTPP推進派の中心人物である前外相の前原誠司政調会長は、”TPPお化け論“を展開している。11月14日都内での講演会で「TPPの反対論、慎重論の中には、事実に基づいた不安感と同時に事実に基づかない議論もある。これを私は”TPPお化け”と言っている」と述べた。お化けは実態が見えないから怖いのである。情報が乏しいと言いながら、お化けの正体は知っていると言うのなら論理矛盾ではないか。はたまた、”民はよらしむべし、知らしむべからず”という江戸時代の政治感覚の持ち主なのか。

 TPP協定原案は、英文で160ページ、これにいくつかの付属文書がついており、21の交渉項目はいずれも国民生活に大きな影響を及ぼす可能性があるという。ところが、外務省のHPには、たった2ページのexcerptが載っているだけである。また、新聞、TVの多くは、“自由貿易は日本の利益”という理由で、いち早く社説で賛成論をぶった手前なのか、TPPについて十分な情報を提供しているとは思えない。本来なら協定全文を、それぞれの項目の専門家の解説を付して逐次紹介し、それに基づいて論説を展開すべきだろう。
         
 衆参両院での集中審議や谷垣自民党総裁との党首討論で野田首相は“日本の国益は必ず守る”と繰りかえし、「国益とは具体的に何か」という追求にも何をどう守るのかには、ほとんど触れなかった。政治家が”国益”、”国益”と叫び始めた時には警戒が必要だ。彼等のいう国益が本当に国民の利益なのかどうかよく検証してみる必要があるからである。したがって具体案が示されなければ本当に国民の利益になるのかどうか判断のしようがないのである。

 TPPに関する手続き論として、外交は政府の専決事項だから、政府に任せ、国民の代表である国会が批准の段階で民意を反映させればよいのだという意見がある。こういう意見を内橋は権威を背景とする”権論“と名づけ、民衆による議論を“民論”として対置している。民論を軽視し権論ばかりに頼っていると、やがてしっぺ返しを受けることになる。「殷鑑遠からず」米韓FTAをめぐる韓国国会の混乱、社会の反撥を他山の石とすべきである。(M)