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< TPPを考える ④−3 各論−1 農業 >

TPP交渉は24の作業部会で21分野にわたって行われるようだが、このうち我々の生活に最も影響のありそうな下記の4つの分野について、賛否の意見を紹介する。前回述べたが、TPP賛成論を詳述した本が見当たらないので、賛成論の多くは、④−2でふれた経団連の「通商戦略に関する提言」及び別添「TPPを通じて実現すべき内容」から拾った。 

① 農業  ② 医療  ③ 保険・金融  ④ 政府調達 
  (付)紛争処理

① 農業 

☆ 基礎資料
* 農産物の平均関税率: 日本 12% アメリカ 6% EU 
  20% 韓国 62%(2000)
* 日本の個別品目関税率 コメ 778% (ミニマムアクセス輸
  入米年間 77万トン。約半分はアメリカから輸入)バター 
  360% サトウキビ 356%  小麦粉 250%(小麦は国家輸
  入関税0で内外価格差は税金で埋める)       
* 補助金など:日本 4.6兆円 アメリカ 2.2兆円 UE 8.9兆
   円   
* コメ農家一戸あたり耕地面積: 日本1.7ha (北海道10.6ha)
  目標10ha ) オーストラリア 100ha(500haの5年に一度の
  輪作)アメリカ 300ha
* 食糧自給率 (カロリーベース) 日本 39%  オーストラリ
   ア 173% アメリカ 129% フランス 111% ドイツ
   80% イギリス 65% 韓国 50% (2009)
* 日本の農林水産物年間輸入額:7兆1千2百億円(2010年)
* 日本の農林水産物年間輸出額:5千億円前後  目標 1兆
   円(2020年)
* 日本の食糧備蓄 コメ 1.4ヶ月 小麦1.8ヵ月 大豆 2週
   間 飼料 1ヶ月
* 農産物輸出禁止国 ロシア、インド、パキスタン、インドネシ
   アなど7カ国(2010)
* 農林水産業のGDPに占める割合 日本 1.5% イギリスと
   ドイツ 0.9% アメリカ 1.1% フランス 2.0% オーストラ
   リア 2.7% 韓国 3.1%

< ○ 賛成意見  ● 反対意見 >  * 基礎資料参照

○ 日本のGDPにおける第1次産業の割合は1.5%であり、
  1.5%を守るために他の98.5%を犠牲にするのか。(TPP推進
  派の中心人物前原民主党政調会長の外相時代の発言)
● 農業がGDPに占める割合は先進国ではどこでも低い。*
● 日本の農業がGDPに占める割合は1.5%ではない。関連産
  業を含めて10%台である。*
○ 経済産業省の試算では、TPPに参加しないと日本の輸出額
  は8兆6千億円、国内生産が20兆8千億円減ることになる。
○ 内閣官房の試算によるとTPPに参加した場合のGDPの増
   加は2.4~3.2兆円。
● 農業は国の基本であり、食糧安全保障の根幹である。日
  本の食糧自給率は40%前後で先進国中最低。TPPに加入す
  れば13%まで下がる。*
● 世界人口の膨張で食糧危機が目の前に迫っている現在、自
  前の食料がなければ、国民は飢餓状態になるおそれがつよ
  い。
● 日本の食糧備蓄は驚くほど少なく世界的な不作が起きたとき
  対応できない。*
● 長期的に見て食糧価格は上昇を続けている。特に、中国の
  食生活の改善による輸入量の激増がそれに拍車をかけてい
  る。エネルギーと食糧の値上がりで、日本の外貨準備はどん
  どん減り、買いたいものも買えなくなる。自給率向上は急務で
  ある。*
● 世界的に食糧が足りなくなれば、カネがあっても買えなくなる
  かもしれない。*
● 農林水産省の食糧安保マニュアルによると、供給国の輸出
  規制によって穀物及び関連製品の輸入が大幅に減った場
  合、夕食の献立は昭和20年代と同じ、ご飯一杯、焼き芋1本
  というレベルになるという。
○ TPPに加入すれば、アメリカ、オーストラリアなど日本にとって
  重要な食料供給国による輸出制限を禁止し、安定供給を確
  保できる。
○ 日本の農業はもはや産業として成り立たなくなっている。TPP
  参加は根本的改革を論議するよい機会である。
○ 農地は食糧生産のための公共財であるという農地解放の理
  想は、農民の我欲によってゆがめられ、規模拡大の足かせ
  になっている。
○ 農民が農地を個人財産と考える状況の中で、金儲けのため
  の転用、休耕地、耕作放棄地などが増え、農地解放直後600
  万ヘクタールあった農地は、460万ヘクタールまで減ってし
  まった。しかも、この中の10%近くが耕作放棄地である。
○ 農協などの既得権益者は、政党の集票機関となり、補助金に
  よって潤い、改革を怠ってきた。
○ 日本のコメ農家の年間所得464万円のうち、コメの売り上げ金
  は37万円に過ぎない。 これを消費者の負担による戸別補
  償で補っていくような政策をいつまで続けるのか。*
● 農業の再生はTPPとは関係なく、国土保全の観点も含めて議
  論、実施すべきだ。
● 国土の12%に当たる水田が失われれば、国土保全機能(洪
  水防止、土砂崩壊防止、土壌浸食防止、河川水・地下水保
  全)機能が壊滅する。
● 経団連の言う農業の競争力強化、成長産業化は農村・地域
  社会の崩壊につながる。アメリカの要求による大店法の改正
  で商店街はシャッター街になった。
● 沖縄のサトウキビ、北海道の酪農、甜菜(ビート)などは、地
  域の基幹的な産業であり、関税で守らなければ地域経済が
  壊滅する。北海道では17万人が失業する。
● 水田面積を10haに集約したところで、米、豪とは桁違いだか
  ら、太刀打ちできない。*
○ 農業産品の関税率は異常に高い。これでは、諸外国の理解
  は得られない。*
● コメの関税、788%というのは見せかけで、ミニマムアクセス
  米の価格を基準にすれば200%程度だ。
● 人口の多い(世界10位)日本は、世界有数の食糧輸入国で
  あり、その大市場を世界の農業生産国が狙っている。一方、
  地形的に戸別の耕地面積が小さく生産性の低い日本の農業
  産品は高価格であり、関税をかけなければ市場をほとんど外
  国製品に奪われる。
● 農林水産省の試算では、国産米の90%は輸入米になり、生
  産減少額は2兆円にのぼる。
○ 日本人の好む短粒米の世界市場は小さいから、800万ドンの
  国産米の90%が輸入米に取って代わられることはありえな
  い。
● 売れるとなれば長粒米からの転作は容易であり、400万トン
  の生産能力のあるカリフォルニア米の産地では既に準備を進
  めているという。数年を経ずしてカリフォルニア米が日本市場
  を席巻するだろう。
● 日本は、増え続けるアメリカの余剰農産物(特に小麦)のはけ
  口になっている。
● 農業への補助金は先進国共通で、日本だけが突出している
  わけではない。*
● 農業を犠牲にして関税を0にすれば工業製品の輸出が増
  えるのか。日本の製品は消費者ニーズに応えるという点で既
  に韓国などに負けているのだ。
○ 農業の成長産業化を目指すには、生鮮品、加工食品に
  対する関税、非関税障壁を撤廃することにより、輸出を促進
  することが重要である。
● 輸出できる日本の農産物葉きわめて限られている。外国でブ
  ランド米やりんごに高値がついたのは局地的且つ一時的な
  現象であった。政府の輸出目標ですら1兆円に過ぎない。*
● 輸入食品の安全性(残留農薬、添加物、遺伝子組み換え)を
  確保できるのか。原産地表示によって守られている食の安
  全・安心が脅かされる。
○ TPP諸国の間では、国内で発生した食品、製品の事故情
  報を共有するから、消費者がそれらの情報を入手し、当局
  が迅速、適切な措置を講ずることができる。
○ 生鮮品。加工品を輸出する際、動植物検疫が障害になること
  がある。例えば、アメリカやオーストラリアにおいては、生鮮
  野菜、生鮮果実の広範な品目が原則輸入禁止になっている
  が、これらは非関税障壁として撤廃を要求できる。
○ 日本の畜産はほとんど海外からの穀物資料に依存してい
  る。飼料用穀物の輸出規制をさせないためにもTPP参加は
  必要である。
● 日本の文化はコメの文化であり、コメなくして伝統文化は守れ
  ず、国家としてのアイデンティティを失う。
● 日本の風土はコメつくりに一番あっている。コメを主食にすれ
  ば、一億人の人口を十分に養うことが出来る。

以上を読んでお気づきだと思うが、TPPをめぐって先鋭化した農業についての賛否はかみ合わない。叩きあいのような意見の対立は、国や社会のあり方についての根本的な考え方の違いに根ざすものだからだと思われる。(M)