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英語のリスニング力をつけるには、言うまでもなく、たくさん聴くことが大切です。それでは、ある種のリスニング教材の宣伝文句にあるように、ひたすら聴いていれば力がつくものでしょうか。たしかに、それで力がついたという人はいるようです。おそらくその人は、リスニング学習の意欲が高く、教材がその人の要求にちょうど合っていたからだと思われます。まったく合っていなければ、効果はないはずです。たとえば、聴き取れない英語はいくら聴いても分かりません。したがってインプットはできません。しかし、最初はほとんど分からなくても、何度も聴いているうちに、いろいろな知識を手がかりに少しずつ分かってくるということがあります。これは大切なことです。それには学習者が手がかりとして利用できる知識を持っていることが前提ですが、そういう努力を続けることのできる人は成功します。つまり、リスニング力の向上を目指す人に大切なことは、まず学習意欲と継続的努力、既存知識の利用、そして適切な教材の選択ということになります。

 まず、英語学習に成功するには強固な学習意欲が重要なことは、すでにこのブログでも述べました。なんとしても英語を聴き取れるようになりたいという強い意志を持つことは、長期にわたる努力を支え続けるのに必須のことです。むかしの汽車は石炭を焚いて走っていましたが、学習意欲について話すとき、筆者はいつも石炭がまっ赤に燃えているあの機関車を思い浮かべます。人が何かに向けて走り続けるとき、きっとあの機関車の罐(かま)が赤々と燃えていたように、その人の心の中にまっ赤な火が燃えているのに違いありません。石炭に相当するものが何であるかは人によって違うと思いますが、英語を聴き取るという目標に向かって、心の中に赤い火を燃やし続けることが必要なことは、誰もが経験的に知っていることです。

 次に重要なのは継続的努力です。日本に住んでいる私たちは、特別な環境にいる人を除いて、日常はほとんど日本語を使って生活しています。学生たちは学校の授業では英語を使う機会があるでしょうが、それ以外に英語を使うことはめったにないと思われます。ESSに入って一生懸命に英語を使おうと努力している人は、それだけ英語を使う時間を増やすことができますが、それでも母語話者のように四六時中英語を使うことはできません。そこで次善の策として、毎日時間を決めて英語リスニングの学習を実行されるようお薦めします。そしてその学習を楽しむようになることが長続きのコツです。

 次に、教材の選定に入る前に、一つ知っておくべきことがあります。先に触れたように、英語を聴いて理解するためには、自分の持っている多くの知識を動員しなければなりません。いま筆者の念頭にあるのは、高校教育を終えて6年くらいの英語学習経験のある人です。その方々は英語についてすでにいろいろな知識をお持ちです。語彙についてはたぶん2000語から3000語くらいは知っているでしょう。しかし知っていると言っても、語の綴りを見て意味が分かるのと、それを耳で聴いて分かるのとは違います。単語の綴りを見れば分かるのに、その単語を耳で聴いても分からないということがよく起こります。文法についても同様です。書かれたセンテンスを見ればその構造を解析できても、耳で聴いただけではできない。こういうことがなぜ起こるかというと、日本での英語教育のやり方が、全般的に、音声よりも文字に偏っているからです。リスニングができるようになるためには、書物の中に閉じ込められている英語を、生きたことばに蘇らせなければならないのです。その具体的な学習法については次回に述べます。

 それと同時に、英語についての知識だけでなく、自分を取り巻く世界についてのあらゆる知識を動員する必要があります。例をあげましょう。次は今年のセンター試験 Question No.22 の音声スクリプトの冒頭部分です。これを耳にした瞬間に、あなたは自分の知識を動員できるでしょうか。そしてそのことが、音声だけでこのスクリプトの内容を理解できるかどうかを決定します(そういう意味で、これは今年のリスニング問題の中で最も難度の高いものと思われます)。

You have reached ISSC, the international Student Support Center. Our business hours are Monday through Friday, 8 am to 6 pm.

この部分を聴いてISSCが何であるかを理解し、この音声が電話の自動案内であることを知った人にとっては、この問題は容易だったでしょう。しかしISSCって何だ?と一瞬心に戸惑いを覚えた人は、パニックに陥ったのではないでしょうか。この問題は、センター試験として適切かどうかには疑問がありますが、リスニングに既存知識が重要な役割をはたすことを示す好例です。 (To be continued.)