Print This Post Print This Post

リスニングテストで音声を1回だけ聞かせるか、2回聞かせるかについては議論があります。センター試験のリスニングテストについて、高等学校の教科担当教員から、「すべての設問で英文を2回聞くことができるようになっているが、実際のコミュニケーションの場面では1回しか聞くチャンスがないことも多い。1回聞きと2回聞きの問題を併用することの是非について、今後検討していただきたい」という要望が昨年度出されています。入試センターのホームページを見る限り、問題作成委員会からはこの問題について検討したという報告はまだ出ていません。検討するまでは従前通りすべて2回聞きでいくものと思われます。私たちはこの問題を実際のコミュニケーション場面に照らして検討してみようと思います。

 先に結論を述べます。音声を1回だけ聞かせるか2回聞かせるかは、問題の作り方によります。これまで行なってきた入試センター試験の問題作成方式では、音声を1回だけ聞かせるやり方は採用できません。少なくとも2回は反復して聞かせることが必要です。その主な理由は、テスト場面が普通のコミュニケーション場面で想定されるものとは次の点で異なっているからです。

 第一に、実際のコミュニケーション場面におけるリスニング活動の多くは、聞き手があらかじめ話題を承知しているのが普通です。学校の授業に出席する生徒たちは、今日の1時間目の英語の授業で何を学ぶのかをだいたい知っています。今日学習することになっているテキストを予習してくる生徒も多いでしょう。そのほうが授業の理解度が高まるからです。そうすれば先生の方も、生徒の予習を前提として授業を進めることができます。また公開の講演会に出席する人の多くも、今日の講師の名前と講演のテーマくらいは承知しているでしょう。何も知らずに入場した人は、テーマを知って戸惑うことになるでしょう。

 ラジオやテレビの視聴者も、今日のこの時間の番組が何かを知っていてスイッチを入れることが多いでしょう。番組の途中で時おり地震などの臨時ニュースが挿入されることがありますが、そのときはアナウンサーが「臨時ニュースを申し上げます」という言葉で始めますから、「何があったのだろう?」と視聴者は聞き耳を立てます。そのようにしてニュースを聞くための心の準備をします。

 日常の会話においても、話題や話しのテーマはたいてい会話の当事者が選ぶものです。パーティーなどで初対面の人と話をすることがありますが、その場合には互いに自己紹介をして、あたりさわりのない話題から始めるのが普通です。見知らぬ人に突然次のように話しかけられたら誰でも戸惑うことでしょう。

   Are you training for tomorrow’s competition?

これは今年のセンター試験のQuestion No. 4の出だしですが、従来のリスニングテストの多くは、このような発話を突然聞かせて受験者を驚かすようにできています。受験者はあわてて何の話かを考えなければならないわけです。しかし考える時間はほとんど与えられませんので、あれよ、あれよという間に話は進んでしまって、全部聞き終わってから、ああそんな話なのかと分かるという具合です。先のQuestion No. 4の全スクリプトは次のようです。

   Woman: Are you training for tomorrow’s competition? / Man: Yeah, I’ve got to do better. Last time I came in second. / Woman: That’s not so bad. / Man: Yes, it is. I want to win this time.

このスクリプトは、電車の中などで男女の対話をたまたま立ち聞きし、それを基に作成したという感じです。問題作成者はそのようなものを突然聞かされる受験生の身になって考えたことはないようです。

 第二に、実際のコミュニケーション場面では、授業でも講演でも会話でも、聞き手を無視して話を進行させることはありません。授業や会話では、話し手は常に聞き手の理解を確認しながら話を進めます。聞き手が時おり質問をして話し手が答えたり、議論したりすることもあります。大きな会堂での講演会では話の途中で質問をすることは許されませんが、話し手は聴衆の反応を見ながら理解の程度を確かめることができます。ラジオやテレビは基本的に一方通行ですが、完全に聞き手を無視することはできません。いろいろな方法で視聴者の反応をしらべ、フィードバックします。ところがテストは完全な一方通行です。聞かされる話の前提となるものは何も受験者に知らされていません。「英語の対話(文章)を聞き、それぞれの設問に対する答えとして最も適切なものを選びなさい」というような指示があるだけです。受験者が試験の途中で疑問を感じても、質問はいっさい許されません。さらに第三に...(To be continued.)