Archive for 2月 22nd, 2011

(1)『おテレビ様と日本人』のこと
ある知人から、「前回は日本語批判の本を紹介してもらったが、“テレビ批評”に関する本があったら教えてほしい」と言われました。たまたま私の思い付くのは表題の本ですが、林秀彦著、(2009年、成甲書房刊、A5版、229ページ)で、表紙には“副題”のように、「『鳩子の海』のシナリオ作家、白痴化の元凶を斬る」とあります。

(2)ここには2つのキーワードがあります。1つは『鳩子の海』です。これは1974 年から’75 年にかけて放送された NHK の朝のテレビ小説で、そのシナリオを書いたのが、林秀彦氏で、登場人物の子役が歌った“にっぽんよ、にっぽん”という歌の作者でもあります。
 もう1つのキーワードは、「白痴化」です。これは戦後を代表する評論家、大宅壮一(1900−1970)が、1957年にある週刊誌に書いた言葉です。日本の家庭に白黒テレビがやっと普及し始めた頃、大宅氏は、テレビ番組を「国民を白痴化するもの」と厳しく批判したわけです(現在は“白痴化”や“白痴美”は差別用語とみなされます)。

(3)私は NHK のテレビ小説は昔からよく見てきたほうですが、中には全く思い出せないものもあれば、妙に印象に残っているものもあります。『鳩子の海』は後者に属するもので、終戦の前後に原爆被災地の広島から逃れてきた幼い女の子が、親切な人々に助けられながら成長していく物語です。戦後は、壷井栄の 『二十四の瞳』のように、反戦的な内容のものに私は関心があったものですから、『鳩子の海』にも、そういう雰囲気を感じて見ていました。

(4)ただし、この林氏の書物はタイトルからも分かるように、かなり皮肉のきいた厳しいもので、しかも、この著者は、これまでに放送、出版の関係者とかなり“けんか”もしているようなので、人によっては、私憤や私怨を晴らそうとしているだけではないかと不快に思うかも知れません。そういう点を割り引いても、私は読む価値があると思っています。

(5)NHK という“情報の殿堂”とも言えるメディアは、何か権威主義で、庶民には近寄りがたい感じを与えますが、それに手向かう姿を応援したくなる気持ちもあるのでしょう。NHK に関しては、もう40年くらい昔ですが、私は2つの異なる経験をしています。
① 私が中学校に勤めていたとき、NHKラジオで中学生向きの英語番組を持っていました。ある時、テレビの似たような番組に、私がシナリオを書いた会話部分(わずか数行ですが)が使われているのに気が付きました。私はむしろ光栄に思ったのですが、それを知ったプロデューサーは、すぐに詫び状と共に印税を送ってくれました。
② それから1年ほど後に、私の勤務校が変わって、同じ曜日では番組作成に協力出来ない恐れがあったので、少し待ってもらえるかどうか尋ねたところ、「それなら結構です」と担当のプロデューサーに言われました。この曖昧な日本語は、「そんなわがままを言うなら首だ」という意味だったのです。どんな団体にも裏表はあるでしょう。私たちは、どちらと直面しているかをできるだけ探りながら、判断する必要があると感じています。(この回終り)